複数の能力
「ギャァアアァアァアァアアアアアッ!」
火炎を纏うネームレスが吼え、巨大な尾を振るう。
それは足場の骨を撫でて飛ばし、燃え盛る礫が無数に飛来した。
「――フェニックスの火炎に触れないでください」
身に迫る火炎を躱して移動する。
その間にもネームレスは次々に礫を飛ばして来ていた。
「触れるとどうなる?」
「――再生の炎により、あなたの骨格から魔物が復活します」
「それは不味いな」
飛来してくる火炎の礫が、その言葉で脅威に見えた。
「――仮に再生の炎に燃やし尽くされた場合、貴方はすべての能力を失い人間として蘇ります」
「これまで吸収してきた魔物と一緒に、だろ」
「はい。そうなった場合、貴方の生存確率はゼロになります」
「……だろうな」
魔物を吸収しなければフェニックスの元までたどり着けなかった。
いま対峙しているネームレスにも打つ手がなかっただろう。
つまりどう足掻いても、俺はネクロマンシーで生き返るほかに方法がない。
それ以外の方法ではたとえ念願の人間に戻れても、再び死ぬだけ。
それじゃあ駄目なんだ。
生き返って、生き抜いて、またセリアと会わなければ意味がない。
「チッ」
無数の礫の一つが左腕を掠めた。
火炎から散った火の粉が骨に触れ、そこから肉体が再生する。
俺の骨格からサラマンダーの腕が伸びてきた。
「あぁ、くそッ!」
右手をシーサーペントに変換、赤い鱗を纏う三本目の腕を裂いて遺骨に引き戻す。
混淆し直すことで能力の剥離を食い止め、俺の中にサラマンダーを閉じ込める。
だが、それに集中しすぎたせいで視界のすべてを礫で埋め尽くされてしまう。
回避は不可能。
瞬時にそう判断し、シーサーペントの右手に魔力を込める。
シーサーペントは中位の魔物だ。相性有利とはいえ高位のフェニックスに叶う訳はない。
だが、こちらはあらゆる魔物と混淆したスケルトンだ。
たとえ中位の能力でも底上げされた火力で対抗できる。
「邪魔だッ!」
手の平に圧縮した水の渦を解き放ち、水ブレスを放つ。
高水圧のウォータージェット。
それを薙ぎ払うことで飛来する火炎の礫をすべて消火して吹き飛ばす。
このまま再生の炎を掻き消してやろうと出力を上げたが、それはネームレスに届く前に霧散させられる。
「なんだ?」
それは蒼白い閃光だった。
バチバチと音を鳴らし、暗闇の中で明滅する、蒼雷。
火炎を纏うネームレスは、その上から更に雷を纏い、水ブレスを打ち消した。
「――ネームレスは世界の覇者であると共に、あらゆる魔物の起源にあたります。ゆえにほぼすべての属性を操ることが可能です」
「冗談だろ……」
ネームレスが吼え、稲妻が落ちる。
こちらも全身をサンダーバードに変換し、落雷に対抗した。
落ちてくる蒼雷と同じ速度で回避を行い、飛来する無数の礫を雷撃で潰す。
「埒があかない!」
落雷を回避し、礫を叩き落としつつ、右手を今度はガーゴイルに変える。
石の錫杖を握り締め、骨の奥底からダンジョンを削り出し、一本の槍として突き上げる。
骨の群れを貫いて顔を出したそれは、砂鉄の塊で作ったもの。
降り注ぐ落雷は俺から逸れて吸い込まれるように砂鉄を打つ。
「避雷針だ!」
これで多少はマシになった。
ネームレスを攻撃できる。
翼はサンダーバードそのままに、それ以外をガーゴイルに変換。
砂をかき集めて槍を作り、硬いそれをネームレスへと解き放つ。
だが、それも同じように砂で構築された壁で沮まれる。
一筋縄ではいかない。
「それでもッ」
絶対に倒してみせる。