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最後の魔物


 美鈴の師匠にその場を任せて飛び立ち、十分な距離を取る。

 なにもない小規模空間に降り立ち、周囲を警戒しつつも視線を持ち上げた。


「精霊」

「――はい」


 無い鼓動が脈打つような、逸る気持ちを抑えて問う。


「最後の魔物はなんだ?」

「――フェニックス。それが貴方の最後の相手です」

「フェニックス……不死鳥か」


 不死の鳥。火の鳥。神鳥。生と死を繰り返す鳥。

 寿命が来ると自らを焼き、灰の中から雛として再誕するという。

 また血肉を食えば不老不死にすらなれると言われている。

 それが最後の相手。


「人間に戻るにはこれ以上ないってくらいの相手だな」


 なんてったって不死だ。

 これほど相応しい相手もいない。


「――フェニックスの遺骨を吸収すればすべての準備が整います」

「あぁ、そうだな」


 十分な魔力を使ってネクロマンシーを発動し、肉体を取り戻して生き返る。

 そうしてようやく人間に戻れるんだ。


「……行こう。居場所を教えてくれ」


 再び両翼で舞い上がり、通路へと入る。

 精霊の言う通りに舵を切り、フェニックスの元へと向かった。


§


「ここが……」


 精霊の案内で辿り着いた場所。

 そこは白い地面が波のように唸る場所だった。

 一歩を踏み出せば、何かが折れたような音が響く。

 足下に目を落としてようやく理解した。

 白い地面は無数の骨と灰だったのだと。


「まるで墓場だな……」


 フェニックスの住処にしては皮肉が効いてた。

 不死が墓場にいるなんて。


「どこにいる?」


 警戒の糸をピンと張ってしばらく進むと、巨大な遺骨を目の当たりにする。

 見上げても見上げてもまだ足りない。

 どれだけ視線を持ち上げても、全長を把握できないほど大きな遺骨。

 これまで見てきたどの魔物よりも大きなその遺骨を前に圧倒された。


「こんなにデカい魔物がいたのか」

「――太古の昔、世界の覇者だった魔物です。名はなく、語り継がれることもなく、時代の流れに呑まれ、完全に忘れ去られました」


 まだ人間も人魚もエルフさえも居なかった時代からいた魔物か。

 見た者がいなければ後世にまで伝わらない。

 どれだけ強くても、どれだけ生き延びようとも、後の者にはいなかったも同然だ。


「――私と、ただ一羽を除いて」


 瞬間、巨大な遺骨が燃え上がった。

 周囲の闇が晴れ、真昼のように明るくなり、巨大な遺骨が立ち上がる。

 炎に紛れて肉が張られ、内臓ができ、鱗が這う。

 それが尾の先から頭の先まで行われると、頭蓋に二つの瞳が宿る。

 今、世界の覇者は死から帰還し生を得る。

 その姿はあらゆる魔物が掛け合わさったような、名状しがたいものだった。


「これが……フェニックスの……」


 再生の炎が、過去を蘇らせた。


「――名称が存在しないため、かの魔物をネームレスと命名します」


 名無しのネームレス。


「――ネームレスの体内に潜むフェニックスを討伐してください」


 燃え盛る火炎に包まれた世界の覇者。

 こいつを再び遺骨に変えなければ、人間には戻れない。

 蘇ることができない。


「上等だ!」


 両翼で羽ばたいて飛翔する。


「世界の覇者だろうが、不死の鳥だろうが、相手になってやる!」


 ネームレスが吼える。


「かかってこい!」


 この長い道のりの末、ようやく訪れた最終決戦が幕を開けた。

前のが完結したのでまた新作を書きました。

下から読んでいただけると幸いです。

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新作を始めました。こちらからどうぞ。魔法学園の隠れスピードスターを生徒たちは誰も知らない
― 新着の感想 ―
[良い点] おもしろかったです [一言] 最後のモンスターはフェニックス なるほどフェニックスなら死んだ人間も生き返らせるか でもどうやって倒すんだろ?
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