暗銀の刀身
「ヒポグリフ・フェザー」
紫電に風が伴い。
「フェンリル・コート」
銀の魔力が包み込む。
「オチュー・アイズ」
そして数多の目が開く。
四種の魔力を混ぜ合わせ、一つの魔装とする。
紫電と風の四枚羽根を背負い、獣の毛皮に覆われ、全身に瞳が宿る。
酷く歪なその姿は急速に魔力を消費していく。
残存魔力から大雑把に計算しても活動時間は五分と持たない。
だから、速攻で片を付ける。
「行くぞ、ケリュネイア」
踏み込み、羽ばたき、加速した。
ケリュネイアまでの距離を刹那に詰め、時の減速を受ける。
体感にしてみれば、速度が十分の一にも百分の一にも千分の一にもなったように感じられた。
先ほどよりも時が減速している。
「キュアァアァアアアァアアアア!」
こちらの動きの鈍りに合わせて、ケリュネイアは黄金の角を振り上げる。
陽鉱石の光を反射し、金色に輝く一撃がこの身を引き裂くために振るわれた。
当然、その一撃は時の加速の影響を受けている。
端から見ればその一撃はただの閃光にしか見えないだろう。
だが、この全身に開いた瞳は黄金の輝きであっても見逃さない。
「遅い」
時の減速の最中にあっても、こちらの速度は圧倒的だ。
右手に携えた刀は紫電と風、毒と銀が混ざり合い、暗銀の刃となる。
黄金と暗銀。
相反する二つの得物が振るわれ、暗い銀が黄色い金を呑む。
瞬く間もない一瞬にして、ケリュネイアの黄金の角は砕け散る。
残光を引いて馳せた暗銀を翻し、二の太刀を振るう。
それは時の加速を得たケリュネイアを上回る剣速で落ち、頭蓋を、胴を、割ってみせた。
「キュアァ……アァアァ……」
暗銀をもって黄金を制し、ケリュネイアはその命を散らす。
二つに分かれて地に伏し、時の加速も減速も解除される。
同時に魔装も解け、酷い倦怠感に襲われた。
魔装によって引き出した速度は、この骨格の限界を遙かに超えていたらしい。
まぁ、元がただのスケルトンなんだ。限界なんてコボルトのころからとっくに超えているか。
「何はともあれ……はぁ、これであと一つ」
地に伏したケリュネイアに触れて、混淆を発動する。
黄金の角と青銅の蹄を残し、すべての骨格が俺の中へと流れ込む。
途端に骨格に変異の兆しが現れ、鈍い痛みが駆け巡る。
頭痛に伴い、頭部に黄金の角が生え、四肢の痛みと共に青銅の手甲と足甲が現れる。
その変化を最後に痛みが引き、変異は完了した。
「――ケリュネイア・スケルトンに変異しました」
これで俺は時の加速と減速の能力を手に入れた。
「……一応、試してみるか」
時を操作し、自信の肉体を巻き戻そうと試みる。
時間を逆行させられたら人間に戻れるかも知れない。
そんな風にすこし考えていたけれど、結果は案の定と言うべきか、出来なかった。
「まぁ、そうだよな」
ケリュネイアの時間操作は加速と減速でしかない。
時を止めることは出来ないし、巻き戻すことも敵わない。
まぁ、半ばわかっていたことだけれどな。
「透」
振り返るとダリアたちが陣形を立て直して戻ってきていた。
彼女は俺の姿を見るとすべてを察したような表情をする。
「どうやら我らは役に立たなかったようだ」
「いいや、そんなことない。助かったよ、本当だ」
「ふっ、ならいい」
そう行って、ダリアは近くまで来る。
「約束だ。角と蹄は持って行ってくれ。と言っても、角のほうは粉々だけど」
「構わない。くみ上げて復元すれば事足りる」
「なら、よかった」
代わりは用意できないからな。
この頭の角をやるわけにもいかないし。
「じゃあ、俺はもういくよ」
「随分と急ぐんだな」
「あぁ、もう待ちきれないんだ」
あと一体、魔物を倒せば人間に戻れる。
今はそのことで頭がいっぱいだ。
「とうとう宿願を果たすか。必ず生き返れ、透」
「あぁ、言われなくとも」
そう返事をして俺は上空へと飛び立つ。
「待ってろ、セリア」
人間はもう、すぐそこだ。
更新遅れてすみません。
あと新作をまた書いたので、よければ下からどうぞ。




