時間の攻略
電光のように駆け抜け、ケリュネイアを再度補足する。
黄金の角を振り上げて木々を薙ぎ倒し、ダークエルフたちを炙り出していた。
俺が作った石の武器で応戦はしているものの、すべて直前に避けられるか止められている。
だが、それでもダークエルフたちは巧みな戦術を駆使し、どうにか前線を支えていた。
彼女たちがいなければ、俺は吹き飛ばされた先で手痛い追撃を浴びていたに違いない。
「まずは助けないとか」
雷の翼で舞い上がり、上空から紫電の落雷を落とす。
たやすく地面を穿つそれを、ケリュネイアは黄金の一振りで掻き消してみせた。
「避雷針にもならないか」
黄金の角だから落雷が引き寄せられると思ったが、それも一振りで防がれる。
ただの金属とは思っていなかったけど、雷対策は出来ているってことか。
「助かったぞ」
地上からダリアの声がして、ダークエルフたちが退くのが見える。
俺が吹き飛ばされている間、時間稼ぎをしてくれた。
相当な無理をしていたのか、被害が大きい。
「我々は陣形を立て直す」
「あぁ、それまでは俺に任せてくれ」
「必ず戻る。それまで耐えろ」
それを最後にダリアも撤退を始めた。
命を賭けてケリュネイアを止めてくれたんだ。
「今度はこっちの番だな」
ダリアたちが陣形を立て直すまで、俺がケリュネイアの相手をする。
いや、そのまま倒すくらいの意気込みでいなければ、やられるのはこちらのほうだ。
「さぁ、やってみるか」
空中でケリュネイアと睨み合い、自身を雷化させた。
紫電の翼を広げて虚空を掻き、先ほどの落雷の如く落ちる。
「このままッ」
紫電の塊と化し、雷の速度でケリュネイアへ仕掛けた。
「キュアァアァアアアアアアッ」
雷化した直後にはケリュネイアの周囲すべてが減速する。
舞い散る木の葉も、蹄から舞い上がる土埃も、飛び立つ羽虫さえ羽ばたきを忘れていた。
その最中につっこんだ俺も当然、時の減速を受ける。
瞬間的に鈍くなり、緩慢になった。
だが、その度合いは誤差の範囲もいいところだ。
ケリュネイアは時を減速させられても止められはしない。
緩やかにだが時は進む。
俺はその僅かな進みを、雷の速度で通り抜ければいい。
どれだけ時が減速しようと、それ以上の速度で動けば辿り着ける。
「――抜けたッ」
減速する時の層を紫電が突き破り、その懐へと踏み込んだ。
握り締めた紫紺刀を振るい、稲妻の一閃を放つ。
視界を真横に過ぎた閃光は、たしかにケリュネイアへと届く。
「浅いかッ」
減速する時の層を突破したまではいい。
だが、一撃を見舞った瞬間に時が加速して逃げられた。
千載一遇のチャンスで負わせられたのは、剣先が掠めて出来た傷一筋。
赤い雫が一筋垂れる程度。
実質、空振りしたに等しい。
そしてケリュネイアはこれで俺が時の加速も減速も攻略したことを知った。
自身の能力が絶対ではないことを悟った。
「キュアアアァアァァアアアアアア!」
もうダークエルフたちを襲うことはないだろう。
驚異となる俺の首を黄金の一振りで断ち斬り、青銅の蹄で頭蓋を踏み砕くまで、ケリュネイアは執着する。
どちらかが死なない限り、この戦いは終わらない。
「速く、もっと速く」
サンダーバード・ウィングだけではまだ速度が足りない。
魔物としての格が違いすぎる。
それを言い出したらスケルトンなんて下の下も良いところだが、とにかく。
もっと速く動かなければ。
そのためにやるべきことは、すでにわかっている。
過去に一度、経験があることだ。
フェンリルの時と同じことをする。
ただ今はあの時とは違う。
より多くの魔物の遺骨を吸収し、強くなった。
だから、今回もきっと上手くいく。
「今までの最速を――」
サンダーバード・ウィングに複数の魔物の魔力を混ぜる。
これで時の減速を突破し、時の加速に追いつくほどの速度を出す。
魔力の消費は厭わない。
体調持ち直しました。
でも悪化するかも知れないので更新が遅れる時はあらすじに書いておきます。