骨格の時間
ダークエルフたちとの作戦会議の結果、方針が固まり打って出る。
俺はガーゴイル・デザートの形態で所定の位置に待機。
ダークエルフたちはケリュネイアの釣り出しにかかる。
そして作戦開始を告げるように派手な破壊音が鳴り響いた。
「始まったか」
ケリュネイアによる時の加速によって魔法は意味をなさない。
だが、俺に位置を知らせるためだけに、ダークエルフたちは魔法を振るう。
木々の向こう側から響いてくる破壊音は徐々に近づいて来ている。
「……」
集中し、精神を研ぎ澄ます。
すでに音の震動を感じ、地面が揺れるほど近い。
そして左右に崖が聳えるこの渓谷へ、ケリュネイアが現れた。
木々を貫くように黄金の残光を引く、雌鹿。
それが青銅の蹄を地面に付ける、その直前。
俺は大地に仕込んでいた罠を発動させる。
「喰らえ」
大地に満たされた砂が巻き上がり、無数の武器となって天を突く。
石の得物で作り上げた剣山。その数多の刃がケリュネイアを仕留めるべく伸びた。
タイミングは完璧だった。時を加速させる暇も与えない不意打ちだ。
避けられたはずがない。
なのに。
「キュアアァァアァアアアアアアァアアアッ!」
黄金の一閃が無数の石の得物を断ち切って見せる。
角の一振りで視界が開け、無傷のケリュネイアが再び姿を見せた。
「チィッ!」
理由はわからない。失敗した。
だが、だからと言って手を休める訳にはいかない。
念のために用意していた備えを使い、石の得物を空中に展開。
一斉に投擲して武器の雨を降らせた。
時の加速で無効化できないはずの攻撃を、ケリュネイアは凌いだ。
その方法がこれでわかるかも知れない。
思惑あっての一斉投擲は、だが時が止まったかのように途中で制止する。
「なッ――」
時の停止。加速ではなく、停止させている。
「いや」
停止じゃない。恐ろしくゆっくりとだが、石の得物は動いていた。
これは停止ではなく――
「時の減速」
加速させることが出来るなら、減速させることも可能。
石の剣山も時を減速させることで、自身の周囲だけ砂の武器化を遅らせていた。
だから無傷で俺の攻撃を凌げている。
「キュアァアァアアァアアアッ!」
ケリュネイアは自らの時を加速させ、石の得物の隙間を縫うように迫る。
近づかれてはならないと即座に背後へと飛び退くも、自分の動きが酷く間延びしているかのような感覚に陥ってしまう。
その原因が時の減速にあると気がついた瞬間、ケリュネイアが目の前に現れる。
黄金の輝きを放つ角を振りかぶり、残光を引いて馳せる一振り。
その一撃を時の減速の最中に直撃を受け、岩の肌が砕け散る。
腕骨が、肋骨が、肩甲骨が、折れて砕けて痛みが駆け巡り、この体は遠くまで吹き飛ばされた。
「ガァッ――」
吹き飛ばされた先、太い木の幹に体を打ち付け、ようやく地面に脚を下ろす。
一撃を受けた右半身は半壊していて右腕がくっついているのが不思議なくらいの有様だった。
すぐに混淆を発動し、砕け散った骨の修復に専念する。
ダークエルフたちが時間稼ぎをしてくれているのか、ケリュネイアが現れる気配はない。
今のうちに打開策を考えなくては。
痛みの中で思考を巡らせ、ふと気づく。
「あいつ……どうして角で攻撃を……」
時の減速に捕らわれ、俺は無防備だった。
どんな攻撃だって俺に通っただろう。
減速を加速に切り替え、俺を朽ち果てさせることだって出来たはず。
なのに、それをしなかった。
たしかに黄金の一振りは強力な一撃だった。
でも、俺を仕留めるには不確実で、実際に半壊させただけで仕留めてはいない。
「……もしかして」
右半身を修復し終えて立ち上がる。
「俺の身体は朽ち果てない、のか?」
俺は元人間で、現在はスケルトンだ。
スケルトン。アンデッドだ。
死してなお死にきれない者。
生と死の狭間で彷徨う者。
理から外れた存在だからこそ、たとえ半分だけとはいえ、死に属した者に時は関係ない。
時の干渉を受けるのは生きている者だけ。
肉体が消滅したこの骨の身体は、だからこそ不滅なんだ。
「なら、まだ手はある」
ガーゴイル・デザートをサンダーバード・ウィングに変換。
紫電を纏い、木々の最中を駆け抜けた。




