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雌鹿の能力


「自己紹介がまだだったな。私はダリア、集落近辺の警備と警護を担っている。お前のことは知っているから紹介は不要だ」

「あぁ、そう」


 藁のソファーに腰掛けると、向かい側にダリアが座る。

 間にある年輪の木机には石のカップに注がれた赤い色の飲み物が置かれた。

 匂いからしてお茶かなにかか。


「それで早速だけど、ケリュネイアって言うのはどう言う魔物なんだ?」

「黄金の角に青銅の蹄を持ち、比較的温厚な性格をした鹿のモンスターだ」

「温厚?」

「あぁ、こちらから手を出さない限りはな」


 カップを持ち、ダリアが茶を啜る。


「奴は自らを脅かす者に容赦をしない。徹底的に追い掛け、追い詰め、必ずその息の根を止めようとする。執着心が異常に強いんだ。そして、お前はその対象となった」

「……無闇に手を出すべきじゃなかったか」

「仕留めきれないなら、そうだな」


 ダリアの話から察するに、今でもケリュネイアは俺のことを探していそうだ。

 お陰でこちらから探す手間は省けるけど、なにか対策を練らないとな。


「――なら、俺はここにいるべきじゃない」


 万が一、この集落にケリュネイアが乗り込んできたら責任が取れない。

 俺を追っているのなら、俺が離れればここには近づかないはず。

 悠長に茶を啜っている場合じゃなかった。


「案ずるな」


 ソファーから立ち上がると、座るように仕草で促される。

 浮かせた腰を下ろすと、続けてダリアは話す。


「かくいう我々もケリュネイアに付け狙われる身だ。その昔、血気盛んな馬鹿者が奴に挑んで逃げ帰ったことがある。それ以来、一所に長く留まったことがない」

「そうだったのか」

「あぁ、幸いまだここは嗅ぎ付けられていないから安全だ。しばらくは、な」


 そう言いつつダリアは茶を飲み干し、空になったカップに新しく茶が注がれた。


「我々もいい加減、ケリュネイアにはうんざりしている。近いうちに始末を付けるつもりだった。実にタイミングがいい」

「共同戦線ってこと?」

「あぁ、奴の首を取った暁には骨はくれてやろう。黄金の角と青銅の蹄はもらい受けるがな」

「あぁ、それでいい。十分な報酬だよ」

「聞いていた通り、欲がないな。お前は」


 お互いにカップを持ち上げて打ち合わせ、甘味のある茶を一息に飲み干した。


§


「さっき正攻法では勝てないっていっていたけど、その理由を聞かせてくれるか?」

「あぁ、そうだったな。理由は単純だ。ケリュネイアは時の流れを加速させる」

「時の……流れを?」

「あぁ、そうだ。周囲の時間を歪めて進ませ、急速に滅びさせる。お前の攻撃も直撃する寸前で消え去ったのではないか?」

「だからか……」


 千の魔法の雨も、それを束ねた一撃も、だからケリュネイアには利かなかった。

 着弾の寸前に掻き消えたように見えたのは、実際に時の加速による滅びを与えられたから。

 木の幹が半球状に抉られていたのも、きっとその部分だけが時の加速によって滅びたからに違いない。


「故に我々は魔法も武器も奴には使わない。魔法は滅び、鉄は朽ちるからだ。だが、唯一時の加速の影響を受けない物がある」

「それは?」

「お前も見ただろう。遥か昔から存在し、今尚あり続けるもの。岩石だ」

「なるほど……」


 人類がこの世に発生する以前から悠久の時を経てもなお現存する岩石たち。

 削れ、風化し、砂になることはあっても、多くは未だに原形を留め続けている。

 アジ・ダハーカの一撃を無効にしたケリュネイアが岩石の投擲に対応できなかった理由はこれか。


「だが、所詮は石ころだ。撤退させることしか叶わん。なにか手を打たないことにはトドメは刺せんだろうな」

「……手はある」

「ほう、なんだ? それは」


 岩、石と聞いてすぐに思い浮かんだ。


「ガーゴイルの能力を使う」


 動く石像、ガーゴイル。

 これなら対抗できるかも知れない。

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