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黄金の鹿角


 草木を掻き分けて先へと進み、斜面を登っていく。

 木の根が絡みついて出来た硬い足場を踏み締めてケリュネイアを探す。

 そうして歩いていると視界に不可思議なものが映り込む。


「なんだ? これ」


 完全に聳え立つ立派な巨木。その幹が抉られたように欠けていた。

 断面は実に滑らかで、かなり鋭利な刃物で刳り抜いたみたいだ。

 今の俺でもこれと同じことが出来るか怪しい。

 一体誰がなんの目的でこんなことを?


「……木材が欲しいなら斬り倒すよな、普通」


 こういう形の木材が欲しかった?

 尚更、斬り倒すほうがいい。


「意味不明だ……」


 例によって精霊に聞けば解決することだけど。


「まぁ、とりあえず誰かいるってのはたしかか」


 これまでと同様にこの大規模空間に棲まう何らかの種族がいるらしい。

 以前のこともあるし、不用意に近づくのも危険か。

 なるべく見つからないように行動して、ケリュネイアだけを討伐できればスムーズに事が運ぶんだけれど。


「色々と注意して進むか」


 不可思議な巨木の側を通り、再び斜面を登っていく。

 そうして山の中腹辺りにまで進むと、踏み固められた道のようなものが現れた。


「これで確定だな」


 この道の先には恐らく何らかの種族の集落がある。

 以前のように敵対するくらいなら、はじめから出会わないほうがいい。

 俺はその道からあえて逸れることにした。


「近くに集落があるなら、この近くにはいないか」


 安全な所に集落を造るはずだし、ケリュネイアの居所はまだ遠いかも知れない。


「さくっと飛んで探そうか」


 両翼を広げて舞い上がり、木々の背丈を優に越える。

 枝葉に視界を遮られることがなくなり、俺は優雅に空をいく。

 そうしているとふと山の麓に大きな亀裂――渓谷けいこくを見た。


「気になるな」


 近くに降り立ち、縁に立って渓谷を見下ろしてみた。

 最下層には川が流れ、草原と森があり、美しい花が咲いている。

 その光景は誰にも知られていない秘境のようであり、箱庭のようでもあった。


「いかにもって場所だけど」


 それからじっくりと見渡してみると、ふと金色の輝きを見た。

 黄金の雄々しい角を持ち、青銅の蹄で大地を駆る。

 幻想的で美しいその姿はまさに聖獣に相応しい。

 渓谷の底で、ケリュネイアを見つけた。


「ここから、狙えるか?」


 六つの目でケリュネイアを捕捉し、極彩色の魔力を練り上げる。

 発動するのはアジ・ダハーカが嫌と言うほど使ってきた千の魔法。

 それを空に向かって放出し、雨のように渓谷にばらまいた。

 降り注ぐ千の魔法が不意を打つ。

 爆ぜた魔法が砂埃を巻き起こし、底の様子は窺えない。

 だが、その直後には思い知らされることになる。

 渓谷の切り立った傾斜を青銅の蹄で駆け上がり、黄金を輝かせたケリュネイアがこちらに迫ってくる。

 やはりあの程度では仕留めきれないか。


「なら」


 今度は極彩色の魔力を一点に集め、千の魔法を一撃に凝縮する。

 山一つを消し飛ばす威力を秘めた光弾を造り、それを容赦なく解き放つ。

 それは光の矢のごとく残光を引いて馳せ、正確にケリュネイアを狙い撃つ。


「キュアアァアアァアアァアアアアア!」


 しかし、その一撃は届かない。

 目と鼻の先まで迫り、そのまま撃ち抜くかに見えた光弾が忽然と姿を消してしまう。


「掻き消されたッ!?」


 跡形もなく消失し、なんの名残も残さない。

 同等の力で相殺された訳でも、それ以上の何かで潰された訳でもない。

 ただただ独りでに消滅してなくなった。

 そんなことが、ありえるのか?


「くそッ、これは不味いッ!」


 とにかく危険だ。

 近づくのは不味い。近づかれるのも不味い。

 空へと逃げなくては。

 迫りくるケリュネイアから逃れるように、両翼を羽ばたいて空を舞う。

 しかし、その瞬間、ケリュネイアの姿が閃光となって視界から離脱する。

 その動きは過去に何度か見た、フェンリルの時も、コボルトの時もそうだ。

 それを見た時はいつも、相手のスピードに対応できていない。


「キュアアアァアアァアアアアアッ!」


 背後から咆哮が聞こえ、俺はもう幾度目かになる死を覚悟した。


「――放て!」


 何者かの声、掛かる影。

 視界には巨大な岩石が映り、それがケリュネイアに直撃する。

 誰かが巨岩を投擲し、俺の危機を救ってくれた。

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