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二重の螺旋


「グォオオォオオオオォオオオオッ」


 アジ・ダハーカは二つの首から火炎を吐き、足下を焼き払う。

 目的は切り落としたほうの首を弔うため。

 焼却することで俺に吸収されることを阻止するため。

 焼け残った骨まで綺麗に捕食し、四つの瞳でこちらを睨む。

 けれど、それは特に問題ない。

 どの道、首の骨を吸収するつもりはなかった。

 この龍装は危うい均衡の上になりたっている。

 そこに龍とは言え更に遺骨を取り込めば、龍装が崩壊しかねない。

 吸収するならトドメを刺したあとだ。


「グォオォオォオォオオオオォオオオオッ」

「グォオオオォオオオォオオォオオオオオオッ」


 二重の咆哮が轟いて、二千の魔法が空中に展開される。


「またそれか」


 六属性ブレスが周囲の眷属達を焼き払う最中、杖剣に纏わせた蒼炎を盛らせた。

 これでいつ魔法の雨が降っても焼却できる。

 そう思っていたが、アジ・ダハーカも対策済みの攻撃をしてくるほど馬鹿じゃない。

 千の魔法が一つに凝縮され、眩い光を放つ光弾と化す。

 それが二つ出現し、流星の如く一つが放たれる。

 闇を斬り裂く一条の流れ星。

 残光を引くそれに対して、蒼炎の一閃を叩き付ける。


「ぐっ――」


 瞬間、凄まじい衝撃が両腕を駆け抜けた。

 腕骨が軋み、肩が外れそうになるほどの威力がある。

 だが、それでも龍装の出力を上げて対抗し、燃え盛る蒼炎で光弾を焼き切った。

 振り抜いた杖剣、燃え尽きて消失する光弾。

 その威力はまさに千の魔法を一度に喰らったようなものだった。

 そして、それがもう一発放たれる。


「チッ」


 無理に対抗する必要はない。

 身を翻して射線から外れ、光弾は的を外して彼方へと飛んでいく。

 その直後、大気を揺るがすような衝撃が大規模空間を揺らし、夜光石の天井の一部が崩落する。

 瓦礫の雨が降り、盛大な土埃が舞い上がるのを見て、その威力のほどを再確認した。

 あんなものをぽんぽん撃たれたらこの空間ごと崩れてしまう。


「グォオオオォオォオオオォオオォオオッ!」

「グォオォオォオオォオオォオォオオオッ!」


 更に二重の咆哮が轟いて、今度は二千の魔法が一つに凝縮される。


「正気か!?」


 躱せはするが、天井かどこかに着弾した瞬間に空間が崩壊する。

 この空間にもまだ人はいるはず。

 これを躱すことはできない。


「あぁ、くそッ」


 周囲を見渡し、眷属の殲滅があらかた完了していることを確認する。

 そうして六つの龍頭を束ねて突き出し、その口内に魔力を流し込んだ。


「グォオォオオォオオオォオオオォオオッ」

「グォオオォオォオオオォオォオオオオオッ」


 咆哮とともに光弾が解き放たれ、こちらも六属性ブレスを放つ。

 ケルベロスの黒炎を掻き消し、その命を貫いた一条が光弾とぶつかり合う。

 両者は拮抗し、その余波で僅かに残っていた眷属たちが命を落とす。

 その果てに互いは相殺し合い、掻き消える。


「グォオオオオオオォオオオオオオオォオォッ!」


 瞬間、切り落としたはずの三本目の首が生えた。

 生身の肉体を持たない、魔力の塊として疑似的に三つ首が再び揃う。

 自身の全盛期を取り戻し、三重の咆哮が轟いて、三千の魔法が一つに凝縮される。


「――上等だッ!」


 周囲の眷属たちの遺骨を一気に吸収して魔力とし、それを六つの龍頭へと注ぎ込む。

 ただそれだけでは足りない。

 杖剣を投げ捨てて左手にサラマンダーを、右手にジャバウォックの頭を造り、更に火炎と蒼炎を追加する。

 六属性ブレスに二種の火炎をプラスし、紅と蒼が二重の螺旋を描く。


「グォオォオオォオオオォオオオオオォオオオオォオオオッ!」

「グォオォオォオオオオォオオォオオオオオォオオォオオッ!」

「グォオオオォオォオオオオォオオォオオォオオオオォオッ!」


 解き放たれた光弾は自らが放つ輝きで空間を昼間にし、八つの口から放つブレスが紅と蒼に世界を染め上げる。

 激突の瞬間、天井が割れて大地が鳴動し、大気が焦げついた。

 音も光も何一つ認識できないほどの衝撃が発生しながらも、全力で魔力を注ぎ続ける。

 身に纏う魔力が焦げ付くほど威力を高め、迫りくる光弾を押し返す。

 三千の魔法が凝縮した光弾をたった八つの魔力で焼却し、更に先へと突き進む。

 紅と蒼の二重螺旋がアジ・ダハーカの巨体を呑み、その鱗も肉も跡形もなく焼き尽くす。


「グォオォオオオッ……オォオォオオォオオオ……」


 断末魔の叫びを上げて死にいたる。

 あとに残ったのは、その強大さを死後も示すかのように残る遺骨だけ。

 決して崩れず、その場に留まる立ち往生にて、アジ・ダハーカはその生涯を終えた。


「はぁ……はぁ……かなりギリギリ……だった」


 魔力が底を尽き掛け、死の淵が背後まで迫っていた。

 眷属たちの魔力を吸い上げなかったら、光弾にあとすこしでも威力があったら。

 死んでいたのはこちらのほうだった。


「でも、勝ったのは俺のほうだ。約束を守るまでは死ねないんだよ」


 アジ・ダハーカの遺骨に向けて手を翳して混淆を発動した。

 骨を魔力に変換して、その能力ごと我が物とする。

 瞬間、俺の身に変異が訪れた。

新作はじめました。

ある程度、切りの良いところまで書きためてます。

よければ下からどうぞ。

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