三千の魔法
軍隊と別れた後も魔物狩りを続けて、失った魔力を補充する。
それがほぼほぼ完了したタイミングで、遠くから地響きのような衝撃が轟いた。
そちらの方へと視線を向けると、山の向こう側で激しい光が幾度も発光しているのが見えた。
そのたびに夜光石の天井が色鮮やかに彩られている。
「はじまったか」
背中の両翼で羽ばたいて舞い上がり、アジ・ダハーカと軍隊がいるであろう戦場へと向かう。
近づくにつれて伝わる衝撃も大きくなり、戦闘の激しさを思わせる。
そうして戦場が俯瞰して見える位置にまで到達すると、ちょうどアジ・ダハーカが魔法の雨をその身に受けていた。
幾百の魔法を浴びて怯んだアジ・ダハーカは後退りしつつも踏み止まる。
「グォオオォオオオオオォオオオオッ」
三重に連なる咆哮を上げ、周囲に千の魔法を浮かべて放つ。
それは螺旋を描くように一箇所に集中し、陣形を張った軍隊へと流れ込む。
一溜まりもないだろうと思われたが、その瞬間、千の魔法が跳ね返る。
「なるほど」
千の魔法が直撃するその直前、軍隊の目の前に巨大で歪な鏡が現れた。
それが千の魔法をすべて吸い込み、そして吐き出すことで跳ね返す。
敵に向けて放った攻撃が、そのまま自身に返ってくる。
またしても魔法の雨に打たれたアジ・ダハーカは更に後退を余儀なくされた。
「大口を叩くだけのことはあるってことか」
現在のところ軍隊の思惑は成功している。
陣形を組んだその周辺には、地形を変形させて造られた槍が幾つも配置されていた。
これでアジ・ダハーカの接近を拒み、繰り出される千の魔法を鏡で跳ね返す。
すでに攻略していると言うだけあって、対策は出来ているようだった。
「……」
しかし、俺は知っている。
高位の魔物がどれだけしぶとく、どれほど脅威なのかということを。
たしかに対策は成功しているが、これで終わるとは到底思えない。
そして案の定、俺の推測は当たることになる。
「グォオオォオオオオォオオオオオッ!」
三つ首の一本が咆哮を放ち、千の魔法が螺旋を描いて飛ぶ。
それ自体はまたしても展開された歪な鏡によって吸収されたが、それだけで終わらない。
「グォオオォオオオオオオオオオオオオオオッ!」
二本目の首が続けて咆哮を放ち、更に千の魔法が螺旋を描く。
歪な鏡はそれすらも吸収して見せるが、流石に限界を迎えたのか亀裂が走る。
「グォオオオォオォオオオォオオオオオォオオォオオオオオオオッ!」
三本目の首が続け様に咆哮を放ち、追加で千の魔法が螺旋を描いた。
計三千の魔法が歪な鏡へと向かい、それらは吸収されることなく鏡を打ち砕く。
巨大な破片が降り注ぎ、陣形を張った軍隊に動揺が走る。
そして、四度目となる千の魔法が螺旋を描き、軍隊へと降り注いだ。
「あぁ、もう」
逃げ惑う軍隊の助けに入り、出来る限りの魔法を撃ち落とす。
二頭の犬頭もその牙で噛み砕き、漆黒の剣撃が魔法を焼却する。
その甲斐あってか犠牲者は最小限に抑えられた。
それを確認して、アジ・ダハーカへと向き直る。
「さて、どうしたもんかな」
目の前に再び現れた俺に、三つ首の六つの目が向けられる。
一度、退けた相手だと舐めているのか、千の魔法はまだ撃ってこない。
ありがたい限りだが、舐められっぱなしも癪なものだ。
せめてあの三つ首のうち、一本くらいはもぎ取ってやりたいところだけれど。
「――そうだ」
アジ・ダハーカの三つ首を見ていて、ふと思いついたことがある。
それが上手く行けば一気に倒せるかも知れない。
俺は早速実行に移し、懐かしいサラマンダーの魔力を纏い、自身に火炎を纏わせた。




