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半分の透明


 精霊に導かれるまま通路を渡り、ケルベロスへの接触を試みる。

 凹凸の激しい道のりを突き進むと、唐突に道案内の声が途切れた。


「どうしたんだ?」


 精霊に問うと、数秒の沈黙ののちに返事が返ってくる。


「――近づいて来ます」

「近づいて――」


 復唱し終えることも出来ないまま、その何かが姿を現す。


「あれ……」


 ふわりと浮かび、空中を移動する、一人の少女。

 決して上等とは言えないボロボロのワンピースを纏う彼女の身体は半透明に透けていた。近づいて来ているのはあの人か? あれはそもそもなんだ? 

 そう思ったのも束の間、通路の壁に巨体を打ち付け、削るように打ち砕いて三つ首の猛犬、ケルベロスが姿を現した。


「なんだ、なんだ、どうなってやがる」


 次々に飛び込んでくる事態に悪態をつきつつ、龍翼を広げて飛翔する。

 眼前ではケルベロスが半透明な少女に食らい付こうと、三つの首が激しく牙を打ち鳴らしている。彼女はそれを器用に躱しているようだったけれど、あの様子では噛み砕かれるのは時間の問題だった。


「とりあえず、ケルベロスだな」


 一にも二にもケルベロスだ。俺が戦いを始めれば、あの半透明な少女もどこかへと逃げるだろう。そう結論づけて龍翼を羽ばたき、一息に距離を詰めた。


「あ」


 半透明な少女とすれ違った瞬間、彼女は目を開いて驚きの声を上げる。

 俺はそれを聞き流し、携えた虹霓刀をケルベロスに叩き込んだ。


「ワオォオォォォオオオォォォオオオッ!」


 薙ぎ払った刀身にケルベロスが牙を突き立てる。咥え、受け止め、勢いを殺される。

 虹霓刀の攻撃はそれだけでは終わらない。刀身から溢れ出す数多の属性の魔力が猛威を振るい、ケルベロスの口腔を襲撃する。

 はずだった。


「な、に?」


 焼き尽くし、凍てつかせ、溺れさせ、痺れさせ、あらゆる負傷を追わせるはずだった魔力の奔流が、まるで抑え込まれるように沈静化する。どれだけ刀身に魔力を込めても、虹霓刀の能力が機能不全を起こしてしまう。

 今までに経験したことのない現象に呆気に取られていると、虹霓刀ごと通路の壁に叩き付けられてしまう。


「ぐっ」


 あまり自慢になるようなことではないけれど、こう言ったことには慣れている。

 背中で受けた衝撃に耐え、高確率で来る追撃を躱すために思考を巡らせた。

 案の定、鋭い爪を有した前脚による踏みつけがくる。これを躱すために龍翼で壁を叩き、跳ね返るようにその場から離脱した。

 その後、積み木の壁を崩すように、通路の壁が砕け散ったのは言うまでもない。


「今の……」


 今の感触は無効化というよりは、封じ込められていたように感じる。

 俺の魔力が封じ込められたから、虹霓刀が機能不全を起こした。

 つまりそれは、俺がこれまで獲得してきたすべての能力が、ケルベロスに通じないということ。


「どうすれば……」


 壁から前脚を引っこ抜いて、六つの目でケルベロスがこちらを睨み付けている。

 思案する暇はないかも知れない。初っぱなから精霊に頼るしか――

「それじゃあ、ダメですよー」


 不意に耳元で声がした。ダウナーな低い声質に気怠げな口調。

 誰の声かはすぐに見当がついた。

 先ほどケルベロスから逃げていた半透明な少女だ。

 彼女に後ろから抱きつかれている。


「あれを殺したいなら、もっと工夫しないとー」

「……知ってるのか? 殺し方を」

「ふっふー、知ってますともー……でもー」


 彼女がケルベロスを指差すと、それに反応したように三つ首の巨躯が跳ねる。


「あれから無事に逃がしてくれたら、教えてあげてもいいですよー」

「――まったく」


 前方に向けて龍翼を扇ぎ、勢いよく後退する。


「しっかり捕まってろ!」


 とりあえず、一時後退だ。

 彼女に教わるにしろ、精霊に答えを聞くにしろ、今この場は逃げるのが最善手だ。


「ワオォォォオオォォォオォオオォオオオッ!」


 三重の咆哮を背に、通路を猛スピードで飛行する。

 能力を封じられても、飛行速度に衰えはないみたいだ。

 そうしてケルベロスを引き離し、俺たちは無事に逃げ切ることができたのだった。

5月29日

本日、反魂のネクロ~スケルトンは遺骨をくらい、失われた人生を取り戻す~の二巻が発売になりました。

今回はエルフ編に突入するので、読んで頂ければ幸いです。

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新作を始めました。こちらからどうぞ。魔法学園の隠れスピードスターを生徒たちは誰も知らない
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