表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

124/164

魔力の千刃


「――■■■■■ッ!」


 混沌の言語を叫び、顕現させた水の槍を火炎のブレスに突き立てる。

 相性の有利によって突き抜けた水槍は、その果てにある龍頭の一つを貫いて、大きく仰け反らせる。

 これでブレスで焼かれることはなくなったけれど、まだ問題は残っている。制御の聞かない翼で飛行はできない。

 無数にいるヒュドラの分身が蠢く地面に着地せざるを得ない。


「なら、いっそ」


 杖剣に大量の魔力を込めて刀身を伸ばし、残るすべての力を込めて地面に突き立てた。

 この動作で突き殺せるのは精々が一体や二体。けれど、魔力の刀身が地面に融けて浸透することで、それは幾千の攻撃となって地中から出現し、半径数十メートルの範囲にいるすべての分身を魔力の刃で貫いた。


「アァアァアァアァアアア」


 分身たちの悲鳴が木霊し、何千という個体が横たわる。

 それらすべてが死にいたり、遺骨となった。

 俺はその最中へと、半ば墜落するように着地した。


「――混淆ッ」


 数千の遺骨を吸収し、吹き飛んだ半身を再構築する。

 分身とだけあって得られる魔力も微量だが、これだけの数があれば事足りる。

 肩も、腕も、肋骨も、復元されて意識が指先まで通る。同時に魔力を身に纏い、完全復活を遂げた。


「お返しだ」


 龍の翼を広げ、羽ばたいてその場から勢いよく飛び立つ。

 向かう先は勿論、彼女のもとだ。まだ撃たれたばかり、狙撃位置から離れて身を隠す時間はないはず。その予想は当たっていて、高速で駆けつけたその場所から遠くない場所に彼女の姿を見る。

 接近するこちらに気がついたのか、いくつかの光弾が放たれるけれど。


「こんなものッ」


 杖剣を振るって光弾を斬り裂き、至近距離へ。

 そのまま魔力の刀身を彼女へと振るう。


「私に刃物を抜かせるとはな」


 魔力の刃は、彼女が振るうナイフに阻まれる。刀身が淡く発光しているのを見るに、ただの刃物ではないらしい。もっとも普通のナイフならそのまま切断できているか。


「面倒だが、付き合ってやる」


 淡い光を放つナイフの軌道は素早く、鋭く、残光を引く。

 無詠唱による身体強化の魔法が掛かっているのだろう。生身の人間には到底、再現不可能な動きでこちらの杖剣を捌いている。得物の刃渡りではこちらが有利だが、けれどそれを覆されるほどに彼女のナイフ捌きは洗練されていた。

 彼女も高位探求者だ。経験値でも、刃物の扱いでも、遥か高みにいる。

 たった数ヶ月前にスケルトンとして目覚めた俺が、純粋な白兵戦で優位を取れる道理はない。数多の魔物の遺骨で得た偽りの能力があっても、人が積み上げた真に力のある研鑽には敵わない。


「それでもッ――」


 混沌の言語を呟き、打ち合いの最中に魔法を放つ。

 燃え上がる炎の槍を彼女の視野外から差し込んだ。それも当然のように彼女は対応し、仄かに輝く刃によって斬り裂かれた。けれど、火の粉舞う最中、その一瞬の隙をついて、ナイフの刀身を剣先で掬い上げる。


「ほう」


 すこしだけ目を見開いた彼女へ向けて、渾身の蹴りを胴体に放つ。


「――くそ、ダメか」


 彼女の体を蹴り飛ばすことには成功した。

 だが、直撃はしていない。寸前のところで障壁のようなもので阻まれてしまった。


「けど」


 どうにか善戦できている。

 このまま――


「アァアアアァアアアァアアアアアッ!」


 これまで彼女に気を取られすぎていた。

 すぐ背後までヒュドラの龍頭が迫っており、急遽、その対応に追われてしまう。


「――■■■■■」


 稲妻を落とし、噛み付こうと牙を剥いた龍頭の二つを地面にねじ伏せる。

 だが、それだけに終わらず、間髪入れずに側面から龍頭が現れた。


「くッ――」


 対応が間に合わず、その牙の餌食となって突き立てられた。

 深い痛みを覚え、噛み付かれたまま骨格を攫われる。なんとか噛み砕かれることだけは避けるために力を込めるが、この状態の俺を彼女が見逃すはずはない。

 周囲に警戒の糸を張り巡らせると、やはりと言うべきか彼女の姿を視界に捉えた。

 浮かべた光弾を今まさに放ち、こちらを射貫かんとしている。


「させるかッ」


 再び混沌の言語を呟いて鉱石の棍棒を造り上げ、寸分の狂いなく迫る光弾を打ち返す。

 正し、その方角は彼女ではなく、ヒュドラの胴体だ。


「アァアアアァアアアァァッ!?」


 この攻撃でもヒュドラの再生能力なら致命傷に至らない。

 けれど、怯ませられれば十分だ。その隙に骨格に刺さった牙をへし折り、口腔から脱出する。

 飛び上がり、滞空し、一番高い位置から戦場を見渡した。


「どうあがいても三つ巴になる……」


 このまま無闇に戦っても現状は打破できない。

 なにか手を打たないと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作を始めました。こちらからどうぞ。魔法学園の隠れスピードスターを生徒たちは誰も知らない
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ