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お茶会の庭

作者: 哲翁霊思

むかしあるところに、カノというおんながいました。


カノはおばぁちゃんが大好だいすきで、いつもおばぁちゃんのいえ一緒いっしょにいました。


おばぁちゃんもカノが大好だいすきでした。カノのふくあなくとおばぁちゃんはすぐになおし、カノがおなかかせるとおばぁちゃんは得意とくいなクッキーをいておちゃし、カノがねむいというとおばぁちゃんは一緒いっしょにベッドにはいりおはなしをしてあげ。


えにくくなっても、あるくことができなくなっても、みみとおくなっても、カノとおばぁちゃんはいつも一緒いっしょにいました。




ある大好だいすきなおばぁちゃんがんでしましました。

家族かぞくなかでも一番いちばんかなしんだのはカノでした。もっとおちゃみたかった、もっとおはなししていたかった、と。


はかまえ毎日まいにちのようにいており、家族かぞくもみんなカノのことがかわいそうになりました。


おばぁちゃんがんでからすこしして、カノはおばぁちゃんのいえにわきました。

おばぁちゃんとずっと一緒いっしょごしたにわですが、おくにはったことがありませんでした。


カノはふとになり、にわおくへとってみました。


自分じぶんよりもたか垣根かきねをどんどんおくへとすすんでいくと、ひらけた場所ばしょました。


あたりがおおきなかこまれ、なかおおきなテーブルとイスがかれ、テーブルの上にはおばぁちゃんのれてくれるおちゃかおりがするティーポット、おばぁちゃんがいてくれるおおきなクッキーののったおさら。そしてイスには、おばぁちゃんがすわり、カノにかって手招てまねきをしていました。




カノはおどろきました。おはかなかにいるはずのおばぁちゃんが、まえ手招てまねきをしている。カノはって、おばぁちゃんにきました。



「おばぁちゃん、んじゃったんじゃないの?」



するとおばぁちゃんはこうこたえました。



「カノともっとおはなししたいから、ここにたの」



おばぁちゃんは、カノがここにればいつでもおはなしができるといいました。カノは大喜おおよろこびです。

おばぁちゃんのよこすわって、いままでのようにおちゃんで、クッキーをべて、たのしくごしました。


つぎも、そのつぎも、おばぁちゃんのにわては、たのしかったこと、おこったこと、かなしかったこと、こまったこと、よろこんだこと。昨日きのうあったこと、今日きょうあったこと、明日あしたやること、おばぁちゃんがきていたときのこと。


いろんなことをはなしながらおちゃみました。




おばぁちゃんがんでからしばらくして、今度こんどはおじぃちゃんがんでしまいました。


家族かぞくも、カノも、いてかなしみました。

しかしカノは、おはかまえいたりせず、まっすぐおばぁちゃんのにわかいました。


そこには、おばぁちゃんともう一人ひとり、おじぃちゃんがいました。


カノはやっぱりとおもいました。まだまだはなすことがたくさんあるひとは、おばぁちゃんのにわでおちゃみながらはなすのだと、そうかんがえていたからです。


カノはそれからも、おばぁちゃんのにわ毎日まいにちあそびにきました。




カノがだんだんおおきくなっていくにつれて、おばぁちゃんのにわにもひとえていきました。


近所きんじょのおじさんや学校がっこう先生せんせい友達ともだちやよくっていた野良猫のらねこもいました。


によっているひといないひとがいたので、カノは毎日まいにちにわました。


いつしか、カノはにわにいることがおおくなりました。




カノも大人おとなになるにつれて、きなひとができました。

名前なまえっていますが、よくはなしをしたことはありません。はなしならいつでもできるからです。


カノはにわっては、かれのことばかりはなします。


あるひとはかっこいいんだろうねとい、あるひとはもうそのはなしはいいよとい、あるひとはやいなよとい、あるねこはニャーとき。


それでもおばぁちゃんは、しずかにやさしくいてくれるのでした。




あるかれがカノに大切たいせつはなしがあるとはなしかけてきました。


くと、かれもカノのことがきでってほしいということでした。


もちろんカノはいました。けれども、にわくことはなによりもさきでした。




ってからすこしして、かれ病気びょうきんでしまいました。


友達ともだちはみんなかなしみました。もちろんカノもかなしくなりましたが、なみだませんでした。

おばぁちゃんのにわけば、まだえる。またおはなしできる、そうおもっていたからです。


すぐにおばぁちゃんのにわかいました。


はじめてたときよりもちいさくなった垣根かきねけていくと、いつものようにテーブルとイスのかれた場所ばしょました。


しかし、そこには誰一人だれひとりいませんでした。


病気びょうきんだかれも、事故じこんだおじさんも、野良猫のらねこも、いてんでしまった先生せんせいやおじぃちゃん、そして、いつもイスにって微笑ほほえんでいたおばぁちゃんでさえも。


だれもいなかったのです。


カノは不思議ふしぎおもいましたが、たまたまみんななかっただけなんだとおもい、そのかえりました。


しかし、つぎても、そのつぎても、何日なんにちても、やはり誰一人だれひとりいないのです。


カノは不安ふあんになってきました。


にわとおばぁちゃんのおはか何回なんかいったりたりしました。おじぃちゃんのおはかも、おじちゃんのおはかも、彼のおはかも。


何回なんかいったりたりしても、誰一人だれひとりあらわれませんでした。


かれのおはかまえとき、カノはづきました。


ちいさいころはいろんなひととおはなしをしていたのに、いつのにかにわでしかはなさなくなっていたのです。


ちいさいころだれかがぬと大泣おおなきしていたのに、いつのにかかなしくなくなってもいました。


そのときカノは、すっかりわすれていたことをおもしました。




んだひととは、二度にどえない。二度にどはなすことができない。




カノはおもした瞬間しゅんかんなみだこぼれてきました。


そして、かれのおはかまえきながらあやまりました。



「いっぱいはなさなくて、ごめんなさい」

初めて身内が亡くなった時の葬儀場。


そこで準備をしている葬儀屋の人が、棺桶の横で泣きじゃくる僕に声をかけてくれました。



なぜ人は死ぬのがわかっているのに、いざ死ぬと悲しくなるのか



そう葬儀屋の人に質問しました。


するとこう答えてくれました。



なぜかはわからないけど、たぶん、今まで話せてた人と話せなくなるから、じゃないなかな



この言葉は、いまだに忘れられません。

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