プロローグ
「あぁイツキよ死んでしまうとは情けない」
綺麗な声で目を覚ますとそこは真っ白な部屋だった。
突然の事で全く動けないでいると後ろから声がした。
「折原伊月さん、ここは死後の世界です。あなたの人生は不幸にも16年という短い時間で終わってしまったのです」
振り返ってみるとそこには、腰にまで届きそうな薄いピンク色の髪の美少女が宝石のような緑の瞳をこちらに向けてジッと見つめていた。
その姿に見とれて唖然としていると彼女が口を開いた。
「初めまして私の名前は女神フレイヤ折原伊月さんの担当女神です」
「俺は死んでしまったのですか...」
「はい。トラックに轢かれてそれはそれはかなりグロい死に方をしました」
「その情報はあまり聞きたくなかった...。これから俺はどうなるのですか?」
よく聞いてくれましたと言わんばかりに腰に手を当て胸を張るとフレイヤは言った。
「あなたにはこれから異世界に行って新しい人生を送ってもらいます。
日本の知識を使ってボロ儲けするもよし、冒険者になって魔物を倒して暮らすもよし、魔王を倒して勇者になって人々に感謝されるもよし、好きなように生きてください」
これは異世界転生ってやつじゃないか俺は心の中でガッツポーズをする。
「これから赤ん坊からやり直して生きていくんですか?」
「いえ、姿も記憶もこのままで異世界に転送しますよ。」
「わかりました、女神様ありがとうございます。」
「いえいえ、では送りますね」
そう言ってフレイヤの俺の下に魔法陣を出現させる。
ちょっと待って普通チートとかくれるんじゃないのか?俺は焦ってフレイヤに言う。
「ちょっと待って!」
「なんですか、伊月さん?」
「普通、こんな時って何かチートとかくれるんじゃないの?」
「はぁ?最近の人はどこで知識をつけたか知らないけどみんなチートくれって言うんですよ。
普通に考えて向こうで普通に暮らしてる人と不平等ですよね?」
俺はフレイヤの正論に何も言えなくなり俯く。
するとフレイヤは先ほどまでの神々しさは消えてめんどくさそうな表情になって
「早く送りたいんですけど、次の人もあるんですけど、早く送らないと残業確定なんですけど!」
こいつ、猫かぶってやがった!
「でも、日本の平和育ちの俺には異世界とか普通にハードル高いんですけど!」
「もうわかったわよ!チートあげるわよ!はいどうぞ!」
「あ、ありがとうございます。ちなみにどんなチートとか教えてもらえますか?」
「異世界の言葉が分かるチート」
それは基本的に標準装備でついてくるやつではないのだろうか。
「ありがたいんですが、なんかこうもっとモンスターを倒す時に役立つやつとかないですかね?」
「はぁ、基本的にチートなんて物はなくて、その人の前の人生に関わりのあるスキルが自動的に一つ送られることになってるのよ」
「スキルですか?」
「そう例えば実家暮らしの引きこもりの場合は口喧嘩か強くなるスキルとか。
手汗がすごい人の場合は水魔法を使った時しょっぱい水が出るスキルとか」
つ、使えねぇ。
俺が苦い顔をしているとフレイヤがポケットからくしゃくしゃの一枚の紙を取り出した。
「あなたのスキルは...よ、よかったじゃないいいスキルよあなたにお似合いね」
肩を小刻みに震わせながらフレイヤは言った。
こいつ笑ってやがる...。
「どんなスキルか教えてもらってもいいですかね?」
「あなた日本にいるときは多少顔がいいからって頭のおかしい女たちにモテてたでしょ例えば、毎日後ろからあなたの写真を撮ってるストーカーとか、自分以外の女と喋ったら殺してきそうな妹とか、あなたの家の軒下に住んでる女とか」
「ちょっとまって、最後の人知らないんだけど」
「そんなあなたにお似合いのスキルよ、本当に時間ないからもう送るわね」
フレイヤが手をかざすと俺の下に再び魔法陣が浮かび上がる。
すると体がゆっくり上に上がっていく。
「あなたのスキルの効果は、男運が上がって女運が下がる、これはもうチートと言ってもいいのかもしれないわね!さぁ行きなさい女運のない伊月さん」
こ、こいつ煽ってきやがった。
しかもめちゃめちゃ使えないスキルじゃないか、むしろいらない。
イラっとした俺は、フレイヤと同じように半笑いの顔作ると煽るように言う。
「あー、だからか女運がないから俺の担当の女神もこんなやつなのか...仕方ないか女運がないから」
「な、なんですって私は女神の中じゃ凄いって有名なのよ!」
「はいはい、駄目なやつほど自分の事を凄いって言うんだよ」
顔を真っ赤にしながら体をバタバタさせたフレイヤを上から見下ろしながら俺は勝ち誇った笑みを浮かべていた。
「あんた降りてきなさいよ!女神を馬鹿にした報いを受けさせてやる!ぶっ殺してやるわ!」
「残念でした!もう俺は死んでるのでした〜」
「覚えてなさいよ絶対ボコボコにし行ってやるから後で謝っても絶対許してあげないからね!」
三流の悪役みたいなセリフを最後に俺は異世界に飛ばされた。