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白陽国物語 〜蕾と華と偽華の恋〜  作者: なななん
第二部 高位女官と一族の掟
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23 女官長室 ー緑栄ー

幕間のような親子漫才です…

 



 同刻、王都奥宮・女官長室。


 緑栄(りょくえい)は女官長の元を訪れていた。

 女官長は執務机に座り、緑栄は机を挟んで向かい合わせに立っているのだが、二人がかもし出す物々しい雰囲気に、お茶を出しに来た下女が最速の速度で用意をし、速やかに退室していった。

 パタパタと走り去る足音を確認してから、女官長はおもむろに切り出す。


「どうしても無理か?」

「無理ですね、解けます」

「……」

「……」


 黙ったまま母子は腹の探り合いを展開していたが、埒が明かないと見て女官長は重々しく息を吐いた。


 緑栄は直近の一月(ひとつき)の事を報告に来ていた。

 帝と女官長には定期的に表宮、奥宮の動きを報告する事になっている。勿論双方の事柄を全て報告する訳では無いが、どちらも共通して認識しておくべき事を先に伝え、両宮の運営が速やかに遂行される為の処置である。

 そして、緑栄自身の最近の変化も報告対象となっていた。


「まぁ、そろそろ限界かとは思っていた。が、想定より早い」


 年齢的に緑栄が紫鈴の代わりに化けるのはあと一年程だとふんでいたのだ。

 だが、紫鈴はシルバと相対する様になり色香が増し、逆に緑栄は春華(しゅんか)との逢瀬で男が上がってしまった。


「何も同時期に堕ち入らなくても良いものを」

「双子ですから」

「そこまで合わせぬで良い」

「合わせた訳では」

「どうだか」


 この息子が娘に対して、恋愛事だけは先を越されたく無い、という妙なこだわりを持っているのを母は承知している。


「紫鈴よりも素直なだけです。……想いに嘘は有りません」


 化身が解けるのがその証拠だと言わんばかりの息子に、母はため息をついた。


「状況は分かった。が、育つまで待て」

「現状は変わりませぬ」

「では解けない状況にしろ」

「接触禁止?! まんじゅう禁止?!」

「仕方ないでしょう!! 解けてしまうのだから!!」


 まんじゅうの言葉に思わず女官長の顔がゆがむ。

 女官長としての沙汰は、緑栄に代わる紫鈴と同等の動きが出来る者が育つまで待ち、それまでは緑栄に化けさせる。

 化身が解けるのは春華といる時だけなので、春華との接触を断て。という事だった。


「私はもうまんじゅう無しでは生きていけませぬ」

「では」

「母上! 息子に言う言葉では有りませんよ!」

「……」

「……」


 売り言葉に買い言葉の台詞は緑栄が言わせなかった。

 柑音かんねも、そうですね、親子でそれは駄目ですね、と腹芸で返す。


「では母が華月堂のまんじゅうを差し入れる」

「……春華殿のまんじゅうが良いです」

「七日に一回五個」

「……」

「十個」

「……」

「〜〜〜〜三日毎、十個だ! これ以上は譲歩せん!!」

「………承知しました」

「身体を壊す摂取量だ……」

「春華殿のまんじゅうならば七日、十個で良いです」

「却下だ!」

「……」

「……」


 お互い細目で睨み合い、緑栄は仕方ないですね、と不満顔で捨て台詞を吐き、部屋を辞する。

 背筋! 歩幅!! と背中に吠えると、睨め付ける様に振り向き、分かってますとジト目に言い置いて今度こそ出て行った。


 淑やかな足音が去るのを待ち、柑音は執務机に突っ伏す。


「あ〜〜どうしてこう要求を飲んでしまうの〜〜〜〜!! 紫鈴にまた叱られてしまうわ〜〜!!」


 緑栄にどうしても甘くなってしまうのは母親だからか。

 こちらの要求を飲ませはしたが、返り討ちも半端ない。


利葉(りよう)殿に似ているのが悪い!」


 突っ伏しながら十日程会っていない夫に八つ当たりする。

 容姿もさる事ながら年々中身ものらりくらりと自分の思う様に生きている夫に似てきている。

 かと言ってこの件を夫に相談したとしても、そうですねぇ〜 あなたの思う様にやってみればいいと思いますけどねぇ〜 としか言わないのだ。分かっているのだ。


 盛大なため息を吐いて起き上がる。

 どの道、緑栄はもう春華には会えない。

 会えないならばこの現状のまま過ごした方がいい。


 春華の実家の状況を調べた上での判断だった。

 もうすぐ春華の年季が来る。

 年季明けには結婚が決まって準備がなされている。春華も承知の事だ。

 緑栄が変に動かなければ、春華は事知らず王宮を去る。

 春華が去れば、緑栄も諦めるであろう。

 今回は紫鈴に張り合って想い人を作ってみたのだから。

 柑音はそう判断した。


 しかし。


 後に柑音はこの判断を盛大に後悔するのだが、それはまた別の話である。



後日、自宅にて。


「私に相談したら良かったのに」

「いつもそうですねぇしか言わない人に相談はしません」

「でも後悔はしなかったと思いますよ?」

「……心の機微など分からないくせに」

「私が分からなくなるのは、あなただけです」

「……」

「……ほら、言いなさいな」

「……緑栄が口を聞いてくれません…」

「……ふ…」

「っ…笑わないで」

「すみません」

「朴念仁… 言うんじゃなかった」

「冗談は置いといて、やっと親離れしたと思ってほっとけば良いですよ」

「でも…」

「緑栄はほっといてそろそろ私をかまってください」

「十分かまっています」

「足りないのですが?」

「……努力します……」


by 利葉&柑音

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