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白陽国物語 〜蕾と華と偽華の恋〜  作者: なななん
第二部 高位女官と一族の掟
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22 故郷へ ー嵐の後ー

 



 その日の夕食は、サリヤと取った。

 夕食が出来た旨を知らせに来た時、紫鈴の顔を見てすぐに引き返し持ってきてくれたのだ。ワたし、いっしょ、いい? と優しく聞いてくれた。


「……向こうの給仕は良いんですか?」


 紫鈴は旦那様やシンバをもてなさなければならないのでは、と聞いた。


「食べもの、出した。それで、ダイじょぶ」


 後は二人で勝手にやれば良い、という雰囲気に、その国それぞれのもてなし方が有るのかも、と有り難く頷いた。

 紫鈴も、まだシルバと顔を合わせたくなかったので助かった。

 黙々と食べる紫鈴に、サリヤは これ いい。これ おいし。と拙い言葉で給仕してくれた。

 泣いていた事には一言も触れずにいてくれて、サリヤの気遣いが心に沁みた。


「美味しかったです。ご馳走様でした」


 そう言って微笑むと、サリヤも満足そうに頷いて、今日ワたし、いっしょ、ねる。いい? と聞いてくれた。

 紫鈴はもちろん、と頷く。

 サリヤはニコッと笑って、すぐ戻る、と夕食を片付け、部屋を出て行った。


 紫鈴はまた、クッションに頭を埋めた。

 今度は泣かなかった。

 明日、シルバの母に告げねばならない。


 もう、決めなければならなかった。




 ****




 翌朝、サリヤが起こしてくれるまで紫鈴は眠っていた。

 すみません、と慌てて支度する。


「ダイじょぶ? 朝ごはん、ワタし、二人、いっしょする? どっちも、できる」


 サリヤは二人で食べるか、皆で食べるか聞いてくれた。


「皆さんと一緒に食べます。ありがとうございます」


 紫鈴はにっこり笑って言った。

 サリヤも安心した様に微笑んで、また出来たら呼ぶ、と言ったのを、手伝わせて下さい、と声をかけた。

 サリヤは嬉しそうに頷いて、居間へと案内してくれた。


 一番最初に通してもらった居間に行くと、朝の光が白い外幕から透けて入り、乳白色の優しい空気を醸し出していた。

 サリヤは居間の中央にある鍋の所へ行き、これを注いでとばかりに椀とお玉を手に持たせてくれた。


 鍋には、既にスープが温めてあり、紫鈴の嗅ぎ慣れたヤクの乳の匂いがしていた。

 紫鈴は持たされるままにスープを注いでいく。

 続いて親指の爪程の白い結晶と思わしき物を、別の椀に盛るように指示された。紫鈴は初めて見る物で、何だろうと思ったが、とにかくそのままスープの隣に置く。

 置き終わり、次は? とサリヤを見ると、おわり、とニコニコして言った。


(えっ? スープと白いものだけ?)


 戸惑った紫鈴を、さあ座ってとばかり席につかせ、サリヤは部屋を出て行った。

 程なくしてキサが現れ、紫鈴は慌てて朝の挨拶をし、キサと共に現れたシルバの顔は見れず、言葉だけの挨拶を交わした。

 サリヤも揃った所で、スープと白い物をだけの朝食が始まった。


 紫鈴以外は何も疑問を持つそぶりもなく普通に飲んでいるので、これが正式なフル族の朝食なのだろう。

 乳白色のスープは、以前シルバが作ってくれた乳粥に近い味で美味しく頂いたが、白い物を口に含んだ瞬間、ウッとなった。

 勝手に昨日シルバが口に含ませてくれた甘い物と同等だろうと思って食べたのだが、実際は岩塩のかたまりであった。

 キサとサリヤの手前吐き出す事も出来ず、スープを掻き込む。


 涙目の紫鈴に気付き、心配そうな気配がしたが、紫鈴は敢えて気付かぬふりをして、サリヤに声をかけてスープのお代わりをした。

 何とかスープの力で岩塩を飲み込んだ頃、シルバとキサは何言か話し、やがて抱き合い、身体を叩き合って挨拶を交わした様だった。


「行けるか?」


 短く声をかけられて、紫鈴は頷く。

 椀を片付けて、サリヤに略礼をし、別れの挨拶とした。


「また、きて? また、会いたい」


 朗らかに笑うサリヤに、はい、と小さく応えて礼を言う。

 キサにも正式な礼を取り、カリマの外へ出る。


 雨は止んだのに、まだどんよりとした重い、湿気を含む空気。

 キサは空を見てシルバに二言、三言声をかける。

 シルバも頷き、紫鈴を鞍の後ろに乗せた。

 また急ぐのだ、と思った。

 そして、もしかしたらまた雨が降るかもしれない、と思った。

 いつの間にか紫鈴も天候の移り変わりに敏感になっていた。

 シルバとの時間が、紫鈴を敏感にさせた。


 馬上からシルバは挨拶をし、アリを駆け出した。

 紫鈴にとって早駆けは有り難かった。

 余計な会話をせずに済んだ。




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