11 春節
王都・奥宮、一室にて。
青蘭は一人、静かに春節を迎えた。
前日まで廊下からあふれ出ていた喧騒はどこへというぐらい、朝から静々と厳かな足音しかしない。
やがて、その足音も止んだ。
青蘭はそっとその場で床にひれ伏す。
ドーーーン ドーーーン ドーーーン
春節を祝う銅鑼の音が遠くで聞こえる。
今、陛下は臣下の前で立っておられる。
陛下の御世の安寧と、この一年健やかに過ごせますように、と切に願う。
思いの外長く伏せていたらしい。
廊下では口々に新年の挨拶が交わされている。
「おめでとうございます、陛下」
青蘭は窓際に活けてある梅の枝に向かって言った。
帝とは年末の夜に会って以来顔を合わせていない。
出仕して帝の私室を守っていた時には一週間顔を見なくても、心配はしてもこんな思いにはならなかったというのに。
この胸に迫る寂寥感は何だろう。
お会いしたい、だなんて。
青蘭は自分の心の変化にまだついていけない。
仕事をしていないからなのか、この部屋にずっと居るからいけないのか。
取り留めのない事を考えて、年末はぼうっとしていた。
医学書の解読も、しばしば手がつかない時もあった。
そして、昨日からある自分の身体の変化に心が重くなる。
腰の辺りが重かった。
今朝はさらに重くなっている。
これが何を意味するのか、青蘭は知っている。
月の物が来る……御子の居ない証が。
御子が居ない事など、自分でも承知していたはず。
それなのに……込み上げてくる淋しさに青蘭はそっと下腹に手を当てる。
やがてツツと内股を伝う感覚に、青蘭の頰から一粒の雫が流れた。




