2日目、開幕
Kと別れたあと、琢磨と氷見は眠ることにした。とはいえ眠ると決めたわけではなく、なんとなく居づらくなって別れたのだが。無理はない。何故ならアカウントがバレただけでなく、リアルまで割れてしまったのだ。出現位置が分かればリスキルもしやすい。助かるためには、Kに従うしかなかった。その絶望的な現実から逃げたかったのか、はたまたただ眠かっただけか、氷見がとりあえず休もうといったのだ。……問題は、氷見は琢磨の部屋で眠ると言ったことだ。
「文句ある?わたしは眠たいからここで寝るの。タクマの布団借りるわよ」
そのまま寝てしまった。氷見は何を考えているのか?朝からずっと気を張り詰めていた琢磨も、氷見の提案には逆らえない。仕方なく机に座り、目を閉じる。
「……ねえ、タクマ」
話しかけてくる氷見、琢磨は答えないが、氷見は話を続ける。
「こんなことになったけどさ、今まで通りの生活がまた送れるのかな」
答えは返さない、氷見の方をちらりと見ていると、震えていた。
「わたしは、タクマとまた学校通えると思って喜んだよ。……なんとかして、また平和な世界に戻りたい」
答えないが、同意する琢磨。
そのあとは、氷見は黙った。眠っているのか、それとも黙っているだけなのかはわからない。
用意しておいたアラームが鳴る。時間は22時。Kとの会談、その後6時間ほどたっていた。眠れた気がしないが、少し気は楽になっていた。氷見が、ゆっくりと体を起こす。
「ふぁ……おはよー。あと、二時間ね」
「ああ。また情報でも集めようか」
残り二時間、念のためSRGを開くが、新イベントのお知らせなどはない。ツイッターを開いても、相変わらずまともな情報はない。だが一つ、警察や政府などの公式アカウントからの注意喚起が目に入る。
<現在配信されているアプリ、ソーシャル・リアル・ゲームについて、様々なうわさが飛び交っており、調査を進めております。ウィルスに感染する恐れがあるので、公式サイトなどは絶対に開かないでください。また、ゲーム開始時の初期地点は安全であるという情報が出ており、ゲーム開始時は絶対に初期エリアから出ないでください>
……これが、どのくらいの効果を持つのか。すくなくとも琢磨には、効果があるとは思えなかった。このツイートはさまざまなまとめサイトに取り上げられ拡散されているが、そのまとめサイトはほとんどがSRGの信憑性の低い噂から基本的な操作方法、あまつさえ公式サイトのURLを乗せているところまであるのだ。効果があるはずがない。
このとき、琢磨は知らなかった。琢磨の部屋にはテレビがない。今テレビでは常に注意喚起が行われている。そのせいで、やじ馬がネットに集まってくる。……ネットを使う人間は、ほとんどがこのゲームを始めさせられていた。誰が悪いというわけではない。今起きている現象は、人知を超えている。防ぎようはなかった。
「……時間だ」
そうこうしているうちに、もう10分前。二人は互いに頷き、スマホを構える。
「タクマ、デッキの編成は大丈夫?」
「大丈夫だ。氷見こそ気をつけろよ」
永遠のようにも感じられる10分。時計が進むのが遅い。
――――たった1時間、1時間うまく生き残ればいい。
そう言い聞かせる。だが、心臓の鼓動は強く鳴り、緊張が抑えられない。手を強く握りしめると、氷見が握り返してくる。
「大丈夫。……二人で、生き残ろう」
「……ああ!」
そう決意したところで、二人にKからメッセージ。開き、確認する。
<ゲームが始まったら1分以内に外へ出なさい。確認するから。そこからは自由に行動していいけど二人なるべく一緒にいてね。守れないから>
内容を何度も見る。時間を早く遅らせるように。氷見も同じようだ。やがて、開幕の時が来る。
「行こう。氷見」
「うん。行きましょう!」
二人のスマホが、黒く光る。そして二人は意識を失う。
残されたスマホに残された文字は、SRG―VER1.0.1―