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情報整理

寝れずに一晩中ストーリーモードをやってみたが、特にヒントになりそうなことは無かった。ゲームのストーリーは、現実世界にソーシャルゲームのキャラが浸食してきて、現実世界と仮想世界の境がなくなるというものだった。ストーリーというものがあるものの、今の状況とそう変わらないのかもしれない。

外が明るくなってきたので、起きる。7時間ほどストーリーを進めたが、最後まで終わらなかった。ストーリーが何処まで続くのかもわからない。

どうしようかと考えたところ、氷見からLINE、今から行っていい?とのこと、おそらく氷見も眠れなかったのだろう。いいよ、と軽く返事すると、コンコン、と窓が叩かれた。


「……もう来てたのか。そっちから入んなくてもドアからくればいいだろ」

「いいじゃない別に。早く開けてよー」


窓を開ける。そこには、ちょこんとした小さな女の子がいた。小学生に間違えられてもおかしくないようなこの女の子こそ工藤氷見、ゲーム内ではレオを名乗っていた人物だ。氷見とレオは、マンションの隣り合った部屋で一人暮らしをしていた。田舎から出てきて同じ高校に行くにあたり、その条件で互いの親が暮らすことを許した。氷見は、よくこんな風に窓から侵入してくる。


「……全然ちげえのな。ゲーム内と」

「うっさいタクマ。あんたこそあんな美少女にしてるくせにー」


確かに、琢磨に氷見のことはとやかく言えない。琢磨もよくいる、どちらかと言うとオタク寄りな性格の少年だ。こほん、と話を切り、ゲーム内で集めた情報について話す。


「とりあえずストーリーモードやってたんだけどよ、これはやった方がいいかもしれない。カードやゲーム内通貨……ゴルドが手に入る。お知らせや攻略サイトにもまだ最後まで行ったやつはいないがな」

「私もやってたわよ。とりあえず4-5まで進んだ。タクマは?」

「俺もそれくらい。4-7」


スマホで操作する場合、キャラをホールドで移動。カードをタップし使用というシンプルなものだ。あの世界でも同じようなシステムでやっていたとはいえ、やはり身近に感じるそれとは違う。今まではある程度ストーリーに感情移入しながらやっていたものの、これはそういった次元ではない。


「ストーリーには特にヒントは無し。……いや、あったわ。エネミーの情報よ。これ、佐藤裕太君のアカウントなんだけど」


氷見のスマホには、雄太らしき人のアカウント。氷見がゲームオーバーツイートをタップすると、SRGが起動し裕太のアカウントが表示される。内容は、アシストボーナス、エネミーボーナス、キル数。エネミーボーナスが、500以上もある。


「……あの滅茶苦茶な攻撃で、エネミー全部殺されてたってことか。道理でなんもなかったわけだ」

「そう。ここからわかるのは、もしかしたらエネミーは再出現しないかもってこと。先にエネミーを狩る必要がある」


真剣な顔で、付け加える氷見。


「……人を、殺さないなら」


沈黙。ランキングは4種、アシストの詳しい内訳はわからないが、昨日の戦闘を見るに対人戦闘での自分の貢献度具合が含まれるとみていいだろう。そうなると、人を殺さないようにランキングを上げる方法は一つ。


「他の参加者が現れる前に、他のエネミーを狩る」

「それしかない。……今のうちに、カードの強化とか済ませときましょ。準備は早めにしとくに越したことはないわ」


その言葉に賛同。ストーリークリア報酬で手に入れた強化素材で、カードを強化する。どうやら、同じカードを重ねて限界突破することもできるらしい。


「課金ゲーだな……いや、HPやSPに影響しないだけマシか」

「でも、限界突破で相当性能が変わるらしいわよ。ほら」


見せてきたのは、氷見の持つLRであるジャッジメント。効果は前方広範囲に大ダメージと言うものだが、限界突破を一回するだけで火力が倍になっている。ふと、疑問に思った琢磨。


「そういえば、カードの情報ってガチャ画面とかから見れないのか?図鑑とか」

「図鑑ならあるわね。性能もガチャ画面にいくつか乗ってるけど、一部のSSRだけだわ」


情報がやはり少ない。昨日の裕太みたいにわかりやすい効果のSSRやLRならいいが、琢磨の持つように特殊な効果を持つLRがあると反応しにくい。どうしようか悩んでいると、氷見があるサイトを見せてくる。名前は、SRG生存者協力サイト。


「ここにある程度の勇士の情報が載ってた。投稿型攻略サイトだから信じられるかはわからないけど……」

「信じられるわけないだろ。命がかかってる……ましてや、このゲームはトレード機能があるんだぞ?」


命のかかっていない、普通のゲームをしていたころから鮫トレや詐欺を見ていた琢磨は、そういったことに敏感になっていた。まして今は命がかかっている。そんな状況で、ほかの人間の攻略情報など信じられるはずがない。

ふと、氷見が話題を変えた。


「でもさ、本当に人って死んでるのかな。もしかしたら、それは嘘なのかも」


その言葉が淡い希望であることはわかっていた。氷見もツイッターをやっているから、この情報は知っているはずだ。それでも認めないのは、今日がエイプリルフールだから、また余りにも非現実的すぎるからだろう。軽くネットで検索し、氷見に見せる。ニュースの見出しは、<全世界で意識不明、被害数十万人か>。少し詳しく調べれば、意識不明となった人物に、佐藤裕太という北海道の人物がいることが分かる。


「……だよね。うん。やっぱり、やるしかない」


やるしかないというものの、結局どうすればいいかなどはわからない。PCに複数開いたツイッターを確認しながら、情報を探す。しかし、有用なものは何もない。あるのは鮫トレやストーリーの進行度くらいだ。当たり前だろう。少しでも生き残る確率を上げるために必要なのは、0時までに少しでも自分のレベルを上げ、カードを強化すること。レベルを上げるには、バトルモードかストーリーモードしかない。バトルモードはオンラインでランダムで選ばれたステージで10人で戦うオンラインモードだが、デッキを少しでもさらしたくない琢磨はそのモードに触れなかった。ネットの情報を見る限りではバトルモードで勝った方が経験値は多いらしい。

適度にストーリーを進めながら12時、進行度は進むものの、ストーリーは相変わらず何も進んでいない、ストーリーを進めればなにか解決策へのヒントが見つかるのかもしれないが、ほとんどはストーリーに関係のない、あるいは戦闘だけのものになっていて、ひとつひとつの戦闘が長い。ストーリーを進める気がないのか?そんなことを思っていると、ツイッターにダイレクトメール。差出人はSRG運営。


「氷見、お前にも来たか?」

「ええ。これね」


おそるおそる開く。内容は、事前登録ありがとうございます。得点の10連チケットですとのことだ。変な内容ではなかったことに、胸をなでおろす。しかし、一番下に不穏な一言。


<今後はより遊びやすくするためのアップデートを予定しております。詳しくは公式アカウントにて>

「何が遊びやすくするためのアップデート、だよ……!」


携帯を握り締める。怒りに、歯を強く食いしばる。


「落ち着いて、琢磨。……運営公式が、新しくツイートしてる」


聞いて、確認する。12時ぴったりに、新しい運営のツイート。


<すでに全世界数億DLありがとうございます!まず事前登録者に10連チケットを配らせていただきました。DMをご確認ください。また、今日から新しいイベントを予定しております。詳しくは0時の更新をお待ちください。開発班の情報によると、エネミー討伐イベントだとか……?>

「……なにが、数億DLありがとうだ。くそったれ!」


叫ぶ琢磨。落ち着いてなど、いられなかった。ツイッターは最早困惑と怒りの声ばかりで、まともに情報収集などできそうにない。


「……エネミーイベント?このタイミングで……なにか、嫌な予感がする」

「ああ、俺もだ。」


考えていても、このゲームにおいて解析など期待できない。そう考え、再びレベル上げにいそしもうとしたところ、ゲーム内メッセ―ジが届いた。また運営の情報か、と思ったが、違う。


「琢磨、これ……!」


氷見にも届いていたらしい。差出人は、見覚えがある。


<新しいイベントが始まる。そこで君達とも情報交換をしたい。いいでしょう?君達は信用できそうだから。直接会うのは無理そうだから、プライベートのバトルモードを建てるわ。フレンド承認してちょうだい>


フレンド申請が届いている。二人は、その差出人のことを、まだ信用していなかった。


<いい返事を待ってるわ ―Kより―>

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