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風が少女へ語る時  作者: 胡桃パンの元
第1章 風(ふう)との出会い?
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第8話

よろしくお願いします。

曖昧ですみません。


朝、窓から差し込む暖かな光で、私は目を覚ました。

目の前に(ふう)が浮遊しながら

『むわ~、僕の下僕になってってば~』

またそんな事を言っている。

「……全面拒否っ!」

私は布団を(ふう)に突き飛ばした。

『あぷっ!』

(ふう)は布団にあたり、その姿が煙の如く消える。

そしてまた別の位置に現れた。

『むう~、ひどいナ~』

今度は枕を手にして構えた。次は顔面を狙う。


『け、喧嘩はいけません!』

知っている声が聞こえてきた。けれど、今ここで聞こえるはずのない声だ。

怒りの感情も消えて、私の手から枕が滑り落ちていった。


「な、何で(せつ)がいるの……?」

【雪の妖精】(せつ)はにっこりと微笑んだ。

『お、お邪魔しています』

「お邪魔する時間じゃなぁああい!!」

______________________________


(あまね)達は、普のお気に入りの場所であるあの階段にいた。

ここは、人が通らないので(ふう)と会話をしても怪しまれない。

学校へ行く途中の普と(せつ)は制服姿だった。


「あなたね、下僕、下僕っていい加減にしてよ!」

普は、(ふう)に怒鳴る。

だが、(ふう)はあくびをしたり、口笛を吹いたりと、気にも止めていないようだ。


すると、(せつ)が恐る恐るこう言った。

「も、もしかして、“契約”の事ではないでしょうか?」

「え?」

普は思わず聞き返した。

「契約って何するの? 嫌な感じがするんだけど……」

普の頬を冷汗がつたる。

だが、(せつ)はそんな事はないというように微笑む。

「契約は、私達との繋がりを縁より強めるためのものです」

あまりパッとしない答えに普は眉を寄せた。

「つまり……どういこと?」


「契約すると、わ、私達に触れる事が出来る様になりますし、契約した妖精の属性の能力を操ることが出来る様になり、ます」

(せつ)の言葉に普は耳を疑った。

能力を操れる、そんな事が普通は出来るわけがない。

「例えば、ですが。わ、私と契約すれば、ゆ、雪の力が。(ふう)様と契約すれば、風の力が手に、は、入ります!」


「そ、それ、なんか凄いじゃない……」

上手く表現する言葉が普の頭の中に浮かんでこない。

『む~だから僕も言ったヨ~?』

「あなたから、そんな言葉一度も聞いてない!」

普は(ふう)を睨んだ。

そしてふと、思い出したことがあった。


「……ちょっと待って、触れることが出来るようになるって言ったけど、前に(ふう)に触ったことあるわよ?」

「あ、それはですね。力の強い妖精は自分の意思で、す、姿を実体化できるん、です。私も実体化して、学校に、か、通っていますし。で、でも、大抵の妖精は、実体化できないほうが多くて……」

 (ふう)(せつ)は、力の強い妖精の中に含まれているのだろう。


『む~、じゃあ、一回契約してみる? 契約破棄は、いつでも出来るしネ~』

(ふう)がふわりと地面に降りた。


「えっ、そんな急に!?」

突然の(ふう)の申し出に、普は一度戸惑った。

しばらくの間普は頭を捻った後、頷いた。


契約に対する恐怖心よりも興味の方が強かったのだ。

「わ、わかったわ。でも、変な真似したら許さないから」

『むふふ、了解だヨ~』


(ふう)は笑顔を浮かべた。

それと同時に緑色の瞳が輝きだす。

いつもとどことなく違った優しい眼差しが普に向けられた。

 ……何だろう、何だかとても、懐かしい。

風が巻き起こり普を包み込む。

だんだんとその勢いは強くなってくる。


「えっ、ちょ、これ、大丈夫なの!?」

(ふう)からの声は風に遮られて聞こえない。

今更ながら焦る普。



(ふう)はそっと胸に手を当てた。

『汝、我が器となりて契約せん。我の名は、【風神】風伯(ふうはく)なり』


光が辺りを覆い隠し、そして花のように散った。

光の余韻がキラキラと空に舞う。


(ふう)の言った言葉は普には聞こえなかった。


光がすっとおさまる。

そこには、普と(ふう)が向かい合って立っているだけであった。


「……な、なにか変わった?」

普が自分の手や体を確認するが、変わった様子はない。


「せ、成功です!」

(せつ)がぱちぱちと手を打った。

「……いまいちよく分からないんだけど?」

普が首を傾げる。


『やってみたら~その方が早いヨ~?』

(ふう)が宙に浮かびあがりながらそう言った。

「は? そんなこと言われたってどうしたらいいの?」

(ふう)は空中でくるくる回りながら、ぽんっと手を打った。

『よ~し! 試しに飛ぼうヨ』


普は目を瞬いた。

「へ?」

間抜けな声がでる。

『空を飛ぶことをイメージしたら良いだけだヨ~簡単だよネ? ……あとネ、五分くらいしたら学校遅刻だヨ~。気づいてた?』

(ふう)の言葉に普は急いで腕時計を確認した。

時計の針は八時二十五分をさしている。

 カチッ

そして、二十六分に進む。

普の顔から血の気が引いた。

始業のチャイムが鳴るのは、八時三十分だ。そして、現在二十六分。残りは四分。

ここから学校まで走っても少なくとも十分はかかるのだ。

いまさら走っても間に合わない。


『さあ、普! 空を飛ぶしか間に合わないヨ~』

(ふう)が空を指さす。普はごくりと唾をのんだ。

遅刻はなんとしても避けたい。


普はそっと目を閉じ頭の中に風をイメージする。


さわっと木の葉がゆれ、雲が流れていく。

小さい時から普は風が好きだった。

いつから好きになったのかは覚えてはいないけれど、風のイメージは目を閉じればすぐに浮かんでくる。

風はどこまでも自由に飛んでいけるんだ。


普は、目を開けた。

(ふう)と同じ、緑色の瞳だった。

「……飛べ」


 ぶわっ


風が普を中心に巻き起こる。

そしてゆっくりと浮かび上がった。


「うわっあわわわっ。飛んだ!?」

上空に浮かびあがり普は周りをきょろきょろ見回している。

『あ、普さん。学校に、ち、遅刻してしまいますよ!』

『あははっそうだネ~』

(せつ)(ふう)の声が近くから聞こえてくる。


「え? ど、どこ?」

どこにも(ふう)達の姿はない。

『普の中だヨ~契約すると入れるようになるんだヨ』

『わ、私もお邪魔しています』


普はそれを聞いてなんだか複雑な気持ちになった。

「……な、何か嫌」


あまりぐずぐずしていては、学校に遅刻してしまうため普は学校の方に向かって飛んでゆく。

かなり上空のようで家や人がとても小さく見えた。

初めてのはずなのに空を飛ぶことに恐怖はない。

どんどん速度が上がっていくのが自分でもわかった。

風を切って青空の下をグングン進む。

それがとても心地よくて、普の顔に笑顔が浮かぶ。


「私、飛んでる!」



そして、あっという間に普は学校の屋上に到着した。

普が地に足をつけると普の体が一瞬輝き、(ふう)(せつ)が現れた。


普は腕時計を睨んだ。

八時二十八分を指している。


「ま、間に合った。(せつ)! 急いで教室に行かなきゃ!!」

「は、はい! い、急ぎましょう」

普と(せつ)が教室に向かって駆けていく。

二人が屋上から姿を消したとき、(ふう)はふっと笑みを漏らした。


『むふふ~。普、最近きらきらしてる』

風がさっと流れてくる。

心地よい風が(ふう)の体をさらうように吹きつけ、姿がふっと消えた。


誤字・脱字等ございましたら、教えていただけると幸いです。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

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