第7話
よろしくお願いします。
せ、雪が白い髪に変わって、えっ【雪の妖精】って嘘でしょ!?
風が攻撃されたけど無事で……
ああっ!!
「もう何が何だかわからないっ!!」
風と雪が私を不思議そうに見た。
「……え? もしかして声に出てた?」
二人は同時に頷いた。
私は顔が真っ赤に染まった。穴があったら入りたい。
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その日の午後からの授業は、いつも通りと言うべきか、風が教室内をふわふわと浮遊していた。
黒板をわざと横切って文字を隠したり、笑いながら隣で先生のマネまでし始めた。
他のクラスメイトや先生には姿も声も見えないし聞こえない。
『あははははっ鬼だ鬼!』
……あ、先生に角がっ
わ、笑うな私っ!
普は、午前中に感じていた淋しさが恋しくなった。
雪はそんな様子の風を見てぽかんと口を開けている。
ノートが真っ白だ。
手に持っているシャープペンシルが動いていない。
「山戸。この28ページの3行目から読んでくれ」
「……えっ、は、はいっ!」
雪は教科書を持ち、立ち上がった。
「こ、これにより、考えを……」
急に当てられたのだが雪はしっかりと答える。
「よし、座っていいぞ。じゃあ次は…」
先生の言葉に雪は胸をなでおろした。
椅子に腰を落とすと、自分の真っ白のノートを見て、急いで板書を始めた。
意外としっかり者のようだ。
普は自分も負けてられないと、ノートに視線を落とす。
ふう、さんじょ~!
あまねのバカ~!
「……」
なんか見覚えのない文字が……
犯人は言われなくてもわかる。
風がにやにや笑っている。
「あんたねぇ……」
普は青筋を立てて、風を睨みつけた。
こいつ本当にどうにかなりませんかねぇ!
放課後。
夕焼けが辺りを包み込んでいた。
普は雪と近所の公園のベンチに並んで座っていた。
今日は珍しく公園内に人がいなかった。
風の姿は今、透けていない。
ブランコに乗って必死にこいでいる。
透けていると乗れないらしかった。
しかし、こぎ方を知らないらしく、全然動く気配がない。
「とりあえず、雪が何をしに来たのか、聞いていい?」
「は、はい」
普は雪に、昼食時に起こったことを訊ねていた。
「【雪の妖精】は、人の姿に近いため、ひ、人に紛れることが得意、なのです。私は、とある方から依頼を受け、て、風様を捜しに来ました」
「とある方?」
「す、すみません。そ、そこは、答えられません」
「ああ、いや、大丈夫よ。要するに、風を連れ戻しに来たのが雪なのね」
「は、はい、すみません」
雪が肩をすぼめた。
「そ、そんな。謝るようなことしてないじゃないの」
「い、いえっ、“縁”があるとはいえ、巻き込んで、し、しまいました」
雪はしょぼんと暗い表情をして俯いてしまった。
余計に悲しませる気はなかった普はどうにか立ち直ってもらおうと思ったが、何をしたらいいのか分からずあたふたと手を忙しく動かしていた。
「……あ、雪? え、えー…と、そ、そうだ。“縁”ってどういうこと?」
普は話を変えようと、ふと頭に浮かんだ疑問を問いかけてみる。
「“縁”ですか?」
雪は顔を少し上げた。
「“縁”は、私達妖精とのつ、繋がりみたいなもの、です」
「繋がり……?」
普は首を傾げた。
雪は普を“縁”があると言っていたが、何だというのだろうか。いや、そもそも普は妖精という存在をまだ全然よくわかっていない。
「“縁”があると妖精の姿や声が、わ、わかるようになるんです。何故“縁”ができるのかは人や妖精によってさまざまですが」
普は納得がいったとばかりに相槌を打つ。
「私は“縁”ってやつが風とあるから見えるってわけね。それじゃあ、雪とは?」
風が透けていても見えるのは、“縁”というものがあるから。しかし、屋上で普は雪が白髪の着物姿になったところを見ている。
「それは、風様の影響……もあるんでしょうが、た、たぶん元々普さんは妖精との相性がいいんだと、お、思います」
妖精との相性がいいせいで、最近よくわからないことに巻き込まれているのかと思うと、嬉しいような嬉しくないような、複雑な普だった。
「あはははははっ! なはははははっ! なにこれっ目が回るヨ~」
普と雪の会話を挟むように風の声が聞こえてきた。
普は風にうるさいと文句の一つでも言ってやろうとブランコを見る。
……あれ、ブランコってこんなことする遊具だっけ?
普の目に飛び込んできたのは何十周も超高速で回り続けるブランコだった。
「あははははははっ、ぐるぐるまわるぅ~」
よく考えてみれば妖精がブランコの遊び方なんて知っているわけがない。
ブランコを強い風が押して回転させているようだ。
「ねぇ~、見て見て見てぇぇ~! 回るヨ~!」
雪がそれを見て、にっこりとほほ笑むと拍手をし始めた。
「と、とても凄いです。風様にしか出来ません」
「わはははっ」
……拍手をしてる場合じゃないですよね?
普は一人、冷汗を流しながら、ため息をつくのだった。
電柱の上のカラスが一声鳴いた。
すると、風は急にブランコの回転を止め、ぴょんと飛び下りる。
体がいつもの薄さに透けて宙へ浮く。
『かっらすが鳴っくから帰ぁ~えろっ!』
風が普の家のあるほうへふわふわと飛んで行った。
「あっ、ちょっと待ちなさいよ!」
普はそれを急いで追いかけた。
雪もそれに続く。
こんな奴と“縁”があると思うと普は溜め息しか出ないのであった。
カラスは、その深紅の瞳で普達を見ていた。
漆黒の羽を広げ夕焼けの空に飛んでいく。
ばさ、ばさばさっ
『へー、気付いたんだ。あー、退屈』
カラスが着地したのはカラスのような黒い服に全身を包み、赤い目をした少年の肩の上だった。
『やっぱり、【雪の妖精】は捜索ぐらいしか役に立たない』
少年は両腕を広げた。
何羽ものカラスが少年の周りへ舞い降りた。
『さあ、退屈凌ぎだ。【太陽神】金烏の名のもと暁闇に風神を連れて帰んないとね』
金烏は不気味に笑った。
きゅるるるる~
『……あ、ちょい待ち、腹減った。んーまた今度にしよう。よし、そうしよう』
金烏という名の少年は背中に漆黒の翼を広げ、暁の空に飛んで消えた。
誤字・脱字等ございましたら、教えていただけると幸いで す。
最後まで読んでくださりありがとうございます。