第3話
よろしくお願いします。
朝、窓から差し込む日差しで私は目が覚めた。
窓から外を見ると風が強かったのか自転車などが横倒しになっている。
私は換気を兼ねて窓を開けた。
風が心地よく吹きつけ……いや、なんか、強すぎません?
『ふはぁ~。よ~やく入れた』
なんか、部屋の中から聞こえた。気のせいにしたかった。
「……」
私は嫌な予感を感じながら、無表情で振り返った。
少し透けている自称【風の妖精】が緑色の瞳をこちらに向けながら、にやにやと笑っていた。
「出て行けぇぇええ~~~~!!!!!」
それが本日最初の言葉だった。
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普は不機嫌さを顔に滲みだしながら、朝食を食べていた。
ご飯とみそ汁を口に流し込みながら、ただ一点を睨む。
その視線の先には、風が悪戯気に笑っていた。
空中で暇そうに胡坐をかく。
「どうしたの? 普。そんな顔して…?」
普の母親が不思議そうに訊ねる。
「……別に」
風はやはり普にしか見えていないようで母親、父親の目の前を通り過ぎても2人は何事もないようにいつも通り朝食を摂っている。
何もしないことに飽きたのか、風が父親の後ろに降りてきた。
何をするのかわかったもんじゃないと、普は風を睨みつける。
「ん、どうした?父さん、お前に嫌われるような事したか?」
あんたは別にどうでもいい。
風は父親の背中を押すように両手を突き出す。
すると、その手は、背中をすり抜けた。
「っ?!」
普は父親の胸から飛び出した小さな手を、口に箸を咥えたまま眺めた。
そのまま、両手を握ったり、開いたりする風は面白いことを思いついたとばかりに、にやりと笑みを浮かべる。
父親は今起こっていることなど知らずに箸を進める。
「なんだか今日は寒くないか? スースーする気がするんだが……」
「そうかしら? そういえば、昨日の夜は風が強かったですねぇ、あなた」
「そうだな。普は昨日よく眠れたか?」
「どうせ、風が私の家を探し回ったんでしょ。」
つい普は、口が滑ったが両親にその意味はわからない。
『えいっ! あはははっ鬼だ鬼っ!!』
風は父親の頭に、にょっきりと指で角を生やしていた。
風は、身体をすり抜けられるので父親の頭上に指の先だけがひょっこりとでている。
「ぶはっっ!?!」
普は思わず噴き出した。
人間は真似することすらできない。
こんなものを見てしまったら笑うしかないではないか。
「普? 今はご飯中でしょ?お行儀が悪いわよ。」
「あ……、ごめんなさい。」
風はさっきの遊びに飽きたようで天井の近くまで浮き上がりながら今度は何をしようかと頭を捻っている。
コイツめ、後で文句言ってやる。
普は秘かにそう決心した。
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普の通う高校は田舎でなければ都会でもない場所に位置していた。
全校生徒は750人で多くもなければ少なくもない、平均的な学校だった。
ガラッ
普はいつも通りに教室に入る。
そして、いつも通りの3人の女子生徒に囲まれる。
「おはようございます。東間さん、学校は遠いでしょう? 田舎は道がなくて大変ですわねぇ」
このメンバーの中の中心人物、畑中 凛子。
はっきり言ってプライドの塊である。
「やっぱり今日も一人なんだね。あははっ」
「お一人で淋しくないのですかね」
それから、いつも凛子に付いてまわる島津 桃花と同じく木山 詩織の2人だ。
どこの学校にもいるような嫌味をわざと言ってくる女子メンバーである。
普はムッとその3人を睨みつけた。
「やだ何?せっかく挨拶してあげたのに、失礼しちゃうわ」
凛子が一言いえば、
「そうよ、そうよ」
「まったくです。」
桃花と詩織がそれに肯定する。
いつからか、友達のいない普に目をつけて、こうしていつも絡まれている。
もういい加減鬱陶しい。
『ねえ~。ふっ飛ばしていい? ムカつく』
普は風が後ろにいたことを半分忘れかけていた。
どうせなら忘れ去ってしまいたかったが今は……
「程々なら良し」
風だけに聞こえるよう小さく呟いた。
『おっけ~。やちゃうヨ』
風がそう言うと同時に普の後ろから徐々に風が流れてくる。
ブォォオオオオッ
教室内に途轍もない勢いで風が吹き荒れた。
プリント、鉛筆などの軽いものが空中を舞う。
「きゃあっ。何ですの?!」
「っ! なんて強い風なの!?」
さらに本などのさして重くないものまで風に飛ばされ始める。
「な、なんだ? 何が起こった?」
「キャッ、スカートがめくれちゃう!?」
「そ、それはっ……目に焼き付けねば……」
「この変態野郎! 俺が先だ!」
教室内は、色々なパニックに陥っていた。
だが、一番驚いたのは普である。
「ち、ちょっとやり過ぎよ!!」
『む~。程々って言ったじゃないか~』
「限度っていうのを知らないの?」
『僕は【風の妖精】なんだヨ?このくらいの風なんてほんの一部なんだってば~』
「そんな事どうでもいいから、まずはこの風を止めて!」
風は面白いところだったのに、と言いたげに口を尖らせた。
『ふむ。仕方ない、終わりにするネ』
「はやくして!!」
ガタバタバタッ
今度は急に風が止んだ。
宙を舞っていたプリントだの消しゴムだの色々な物が重力に引かれて落ちていく。
普は大声をあげていたが周りの風の音と、パニックだったクラスメイトの声に紛れて誰にも聞かれてはいなかったようだったが、教室の中は滅茶苦茶だった。
「あなたって本当に役に立たない」
普は教室の後始末を考えて肩を落とした。
『君が良いよって言ったんだから、僕は何も知らないヨ~』
「はぁ。はいはい、そうですね」
その後、教室の掃除をすることになった。
普は教室を滅茶苦茶にした張本人を恨めしそうに睨んだ。
その張本人である風は、そんな普を余所に欠伸をついていた。
誤字・脱字等ございましたら、教えていただけると幸いです。
最後まで読んでくださりありがとうございます。




