第11話
よろしくお願いします。
もう、しばらくの間コーヒーカップに乗りたくない。
酔いは納まってきたみたいだけれど、そんな事より帰りたい。
私、今日何回溜め息ついたっけ……?
Q.さあ何回でしょう?
A.そんなの知るわけないでしょっ
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ジェットコースターに並ぶこと数十分、普達の順番まであと少しだ。
「……な、何か音しませんでした? か、観覧車の方から」
雪が普に小声でたずねた。
「私には聞こえなかったわよ? 気のせいよ気のせい」
しばらくして、普たちの順番がまわってきた。
ジェットコースターの先頭座席に普と風、一つ後ろに雪という席順で座る。
『ピピピピピピッ』
発車のベルが鳴り、ゆっくりと車体がレールに沿って上っていく。
バーを握りしめ、早く登らないかとそわそわしていた時、不意に声がした。
『よお。暇してんの? 風神さんよ』
ジェットコースターの先端に黒い翼の生えた少年が舞い降りた。
普、風、雪の三人は目を瞬かせた。
「むうっ金烏邪魔だヨ!」
「た、【太陽神】様っ!?」
どうやら、風と雪はこの少年を知っているようだ。
「……へ? 雪、今何て言ったの?」
普は雪の言葉を聞き返した。
「こ、この方は、【太陽神】金烏様、です。た、太陽を司る妖精の、い、一番偉い方です!」
「えっ。なんでそんな奴がこんな所にいるのよ」
普が金烏を改めて観察する。
真紅の瞳、太陽のように輝く金の髪、カラスのような漆黒の羽、ほとんどが黒で統一された服に身を包むその姿はただの妖精とは思えない雰囲気があった。
「あなた、何の用事なのよ」
普が金烏を睨みつけると金烏は一度舌打ちする。
『そこのガキの格好してる風じ……うわわわっ!!』
風が金烏を鋭く見据えていた。
緑の瞳が今までになく冷たく光る。
ジェットコースターの先に立っていた金烏は、風が起こした風でバランスを崩し、重力に従って下に落下していった。
……と思いきや金烏は翼をはためかせこっちに向かってきていた。
『てっめえ、なにしやがるっ!?』
目線が怖い。
声の感じからして怒ってるよね、それも相当にっ!
普が身の危険を本能的に感じた時、ジェットコースターは頂上に達し、急降下を始めた。
ギュゴゴゴゴゴォォオオオッ
きゃぁぁぁあああああああっ!!
ジェットコースターは勢いよく滑り降り、スピードがどんどん加速する。
金烏が追いかけていることは分かっているが、どんどんと先頭から距離が開いていく。
右へ左へ、そして宙返り。
体がぐらりと揺らされながら高速でレールの上を滑りぬける。
「あわわわわわっ」
「ひゃっほ~~~~っ!」
「追われてるのによく楽しんでいられるわねっ」
『てめえら、待ちやがれっ!』
待てって言って待つ人なんていないでしょ。
金烏は飛んで追いかけてきているようだ。
そして、ジェットコースターは小さなトンネルに差し掛かる。
トンネルに入ったところで、ゴンッと鈍い音が響いた。
トンネルを抜けると、金烏の姿はなかった。
普がほっとした時、丁度ジェットコースターが最初の場所に戻ってきた。
「皆さん。お疲れさまでした!」
スタッフの人が明るくそう言う。
全く、疲れすぎました。
早く私を家に帰らせて~!!
心の中で普は半ば叫んでいた。
「よ~し! 次あれ!お化け屋敷がいいナ~」
風がてけてけ走っていく。
普がその背に向かって叫ぶ。
「ちょっと! あの金烏って奴がどこに行ったかわからないのにまだ遊ぶ気なの?」
風がこちらを振り返った。
「む~? 金烏なら、トンネルに当たって伸びてるヨ。ほら、あそこ」
風が指さした先にはカラスが何匹も集まっていて、よく分からなかったがちらりと姿が見えた気がした。
誤字・脱字等ございましたら、教えていただけると幸いです。
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