第10話
よろしくお願いします。
今日は快晴。
遊園地に行くにはもってこいの日だ。
私は【イルカわくわくランド】の入口に雪と風の三人で並んで立っていた。
いや、実際は一人浮いているのだが……
三人とも瞳を輝かせながらも目の前の光景に動けないでいた。
______________________________
「すごい賑やかね」
普がぽつりと素直な感想をもらす。
三人の目の前に広がっていたのは大きな入口の門とその先に広がる華やかな店の数々。
そして、ジェットコースターや観覧車などの乗り物だった。
軽やかなリズムを刻みながら流れる音楽とともに着ぐるみのウサギが踊っている。
それを見た子供たちが笑いながらそれに合わせて踊りだす。
「遊園地って、す、凄いです!」
雪もその音楽につられて自然に体が揺れる。
「とりあえず……どこに行く?」
普はマップを広げて文字を睨む。
『普! 僕、あれ乗りたいナ!』
風が指さしたのはコーヒーカップだった。
人ごみに紛れた中で風の姿が濃くなっていく。
実体化したようだ。
「ちょっと、他の人の前で何やってるのよ」
「人ばっかりで見えないってば~ちょっとくらい大丈夫だヨ~」
風はそのままコーヒーカップの最後尾に並んだ。
普と雪は顔を見合せて、苦笑した。
「続いてのお客様どうぞー」
明るいスタッフの人が普達を一つのコーヒーカップへ案内した。
風は真ん中にあるハンドルを興味深そうにぺちぺち叩く。
「普~これ何?」
「不思議、です……く、車みたいに操縦出来るのでしょうか?」
自称妖精と妖精の二人はまじまじとハンドルを観察する。
ピーッと笛の合図が鳴り、明るい音楽とともにカップがゆっくりと回転を始めた。
「それはコーヒーカップを回すハンドルよ。回すとカップがもっと早く回るけど私、それを回すと酔うから……ちょっとっ!」
普の言葉の最初の一部だけを聞き、風がハンドルを回し始めた。
ハンドルは固いはずだが、軽々と回され、どんどん速くなっていく。
「風! やめてなさいって……うっ」
「あ、普さん。大丈夫、ですか!?」
普が風を止めようとするも、酔ってきたらしく気分が悪そうに青を青くした。
「わはははははっ! 回る回るぅ~」
その間もカップは回り続ける。
他のカップよりもずっと速いような気がしたと思ったら、風がコーヒーカップに吹き付けているような感覚があった。
普通は感じることのない風の流れが何故か手に取るようにわかる。
普は目が回るという言葉がちっぽけに感じるような苦しさに耐えながら、風をイメージする。
「もうっ、風っいい加減に止めなさぁああいっ!!」
普の瞳が緑に輝く。
コーヒーカップを回していた風が普によって発生した風とぶつかり相殺した。
「むあっ! 普ひどいヨ~」
風が頬を膨らませ、バタバタと手足をバタつかせた。
そんな事に構う暇など普にはなく、顔を真っ青にして荒く息を吐き出している。
そして、ようやくコーヒーカップは減速を始め、間もなく止まった。
雪が心配そうに普の顔を覗いている。
「……な、何もできなくて、す、すみません」
風を止めなかった自分のせいだと言う雪に普は違うよ、と笑う。
普が風の方を顧みると、張本人は今度はメリーゴーランドを見て乗りたそうに瞳を輝かせていた。
普は溜め息しかでなかった。
「普、普! あれ何? あれ乗りたい!」
どうしてこうも子供っぽいんだろうか、と普は頭を軽く押さえた。
「あのね……ここで迷惑なことされると困るの。力は使わないで!」
「む~、わかった」
風はつまらないと膨れたが素直にこくりと首を縦に振った。
「あ、普さん、風様。わ、私ジェットコースターに乗りたいです!」
すると突然、雪がジェットコースターを指差した。
ちょうどジェットコースターが急降下する直前だったらしく、叫び声が響いてきた。
「あ、あんな楽しそうな乗り物初めて、です」
雪の好奇心旺盛な表情に普は少し驚いた。
「絶叫系は雪には無理そうって思ってたんだけど……」
雪はきょとんと首を傾げる。
「わ、私、雪崩で滑り降りたことが、あ、あります!ち、ちょっと怖いのも好きなんです」
……ちょっと待て、雪崩は死ぬよ? ちょっとどころじゃないですよ!?
その言葉を喉から出ないように抑えながら、普は頷いた。
「いいよ。じゃあ行こうか、ジェットコースターに」
雪が嬉しそうに微笑み、風はさっそく列に並びに行った。
「あ、こら、風! 一人で行かないっ」
「むふふ~お先、お先~」
慌てて普は雪とともに列に並ぶのだった。
***
「……み~つけた。あ~、面倒くさいけどやるか」
カラスを従えた少年、金烏は観覧車の一番上にきたゴンドラの屋根の上に乗っていた。
金烏の背にはカラスと同じ漆黒の翼が生えている。
カアッ
一匹のカラスが鳴くと他のカラスたちが一気に飛び立っていく。
「あ? 落ちる? 俺落ちねえし…うわっ」
金烏はゴンドラから足を滑らせ、すっ転んだ。
金烏の乗っていたゴンドラが頂上からゆっくりと下がってきていたためバランスを崩したようだ。
「あー! もう、うぜえ。この鉄の塊。はあっ!!」
金烏がゴンドラに蹴りを入れる。
ガンッ
大きな金属音がしたかと思うと金烏は蹴った方の右足を抑えて蹲る。
「イッツ~~~っ!」
泣きそうになっている。
自業自得だが……
「あー! あれもこれも風神のせいだっ!」
逆恨みはほどほどに。
誤字・脱字等ございましたら、教えていただけると幸いです。
最後まで読んでくださりありがとうございます。