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第十三話 トナカイになりたいタロウちゃん

『ねえ、いまサンタさんどこを飛んでるー?』


 タロウちゃんが朝の挨拶代わりにを質問してきた。|北アメリカ航空宇宙防衛司令部ノーラッドが恒例のサンタ追跡システムを公開してから、タロウちゃんはずっとこんな調子だ。


「今? 昨日の晩に見た時は、地中海の上だったかな」


 遠く離れているモモちゃんともお話が出来るぐらいなんだから、その手の追跡システムぐらい簡単に覗き込めそうなはずなのに、タロウちゃんは必ずと言っていいほど、私にこの質問をしてくる。もしかしてさすがのタロウちゃんとモモちゃんチームでも、米軍のシステムには入り込めないんだろうか?


『サンタさん、日本人じゃないけど日本にも来てくれるんだよね?』

「そのはずだけど」

『そんなに遠くにいて、日本に来るのクリスマスに間に合う? 間に合わなかったら、プレゼントどうなっちゃうの? 今度のクリスマスは、日本の子たちはプレゼントもらえないの?』


 どうやらタロウちゃんは、サンタさんがクリスマスに間に合うか気になっているらしい。


「大丈夫だって、ちゃんと間に合うはずだから」

『なんで間に合うの?』

「えええ……」


 間に合うか心配しているのに、どうしてそこで到着することに対して疑問を持っちゃうかな、タロウちゃん。そこは世界を駆け巡るサンタさんの力を信じるところなんじゃ?


「ほら、宅配便だって年賀状だって、ちゃんと決まった日に家に届くじゃない? それと同じなんだよ」


 私の返事に、タロウちゃんはそうかなあ大丈夫かなあと心配そうにつぶやく。


『アメリカのサンタさん、蜂さんに乗ってきたじゃん? 日本に来る予定のサンタさん、僕がおむかえに行ってあげればいいかも。僕、トナカイより早く飛べるから、サンタさんも早く日本に来てプレゼントがくばれるよ』

「タロウちゃんに乗ったらスピードが早すぎて、サンタさんが用意したプレゼント、全然違う場所に飛んでいっちゃうかもよ」


 って言うか、それ以前の問題で、サンタさんもプレゼントも吹き飛ばされちゃいそうなんだけどな。


『ぶぅ、そんなことないもん! きっとサンタさん、ちゃんとみんなのお家に投下できるもん! サンタさんができなかったら、僕が皆のお家にプレゼントくばる!! 僕の命中率はすごいってパパは褒めてくれたし!!』


「……それってもしかしてロックオンのこと?」

『うん!!』


 それって何か違うような気が。


「皆に配るプレゼントはミサイルみたいに頑丈なものじゃないんだから、そんなことしたらプレゼント壊れちゃわない?」

『ぶぅぅぅ、そんなことないですぅーーーー!! 僕、ちゃんとできるもん!!』


 タロウちゃんが一緒にプレゼントを配ったら、色んな意味でとんでもないクリスマスになりそうだよ……。サンタさんが無事に日本に辿り着いてくれますように!!



+++++



 そしてタロウちゃんが指折り数えて待ちわびたクリスマス当日。心配していたサンタさんは何とかクリスマスには間に合ったみたいで、昨日の日付が変わる直前には、沖縄に到着して日本列島を北上中だった。今は多分あのスピードと進路からして、松島基地上空あたりを飛んでいるはず。


『僕、サンタさんが来たの分からなかった~~!!』


 朝、私達がハンガーに行くと、タロウちゃんが悔しそうにバタバタとラダーを振った。


『起こしてくれたら良かったのに~~!!』

「サンタさんもプレゼントを配るので忙しいから、タロウちゃんに声をかけていられなかったんじゃない?」

『つまんなーい!! どんなプレゼントがあるのか、サンタさんに見せてもらおうって思ってたのに~~!!』


 うちの基地の上空を通過したのは、ちょうど明け方四時ごろだったらしいんだけど、アラート待機じゃなかったタロウちゃんは、ハンガーでぐっすりと眠ってしまったらしい。


『おじいちゃん達も気づかなかったんだって~~』

「そりゃお爺ちゃん達はお年寄りだから夜も早いし、何事も無ければ朝まで寝ちゃってるからね」

『でもサンタさんってすごいよね、レーダーサイトに見つからないなんてさ。もしかしてステルス?』

「ノーラッドでは追跡できてるし、ステルスじゃなくて全世界フリーパスみたいなの持ってるんじゃないかな?」

『そっか。いろんな国境を超えるもんね! すごいなー、僕も一緒に飛んでみたいなー、横を一緒に飛んだらダメかなー……』


 タロウちゃん、自分が給油が必要な戦闘機だってことをすっかり忘れているみたいだ。



+++



 そしてこの日は、この基地がボランティア活動の一環として毎年参加する、近所の教会主催のクリスマス会の日でもある。


 今年は口コミでその話が地元に広がったのか、私達をお招きしたいと申し出る施設や教会が、爆発的に増えてしまっていた。平和な日本とはいえ、アラート任務をこなしている飛行隊がある中での活動には限界があるし、この日だけに集中して多くの人材を割く余裕のない基地上層部は、思い切ってクリスマス当日に、子供達を基地に招待することに踏み切ることにした。


 原則的に、年に一度しか基地を一般開放をしない空自基地としては異例中の異例のこと。そのへんは、さすが頭の柔らかい基地司令としか言いようがない。ただ、関係者以外は立ち入り禁止なのは普段と変わらないので、招待された子供や関係者達は、貸切のマイクロバスでやってくることになっている。


 その彼等をお迎えするために、私達はかなり前から通常任務の合間に準備に励んでいた。せっかく基地に招待するのだから、普段とは違った趣向をということで、アラートから外れている戦闘機達を、特別ゲストとしてクリスマス会に出席させることにしたのだ。


 隊員達がサンタクロースの衣装を着るなら、彼等が搭乗する戦闘機はトナカイだろうと、トナカイ役を基地司令より直々に仰せつかることになった。


 そしてそのトナカイ役は、タロウちゃんと「お爺ちゃん」ことF-4戦闘機の一機が務めることに。鼻先にあるピトー管には赤いゴムボール、そしてキャノピーの両サイドにはトナカイの角と耳がつけられている。もちろんゴムのきれっばしが管に詰まったら大変なので、先にボールに穴をあけてからタロウちゃん達につけたのは言うまでもない。


 準備が始まると、トナカイ役だというのに、隊員達がやってきてはあれこれ好き勝手に飾り立てるものだから、二機はいつの間にか、クリスマスツリーみたいになってしまっていた。まあそれなりに可愛らしく出来上がったので、私達はその出来栄えに満足している。賑やかに電飾が光っているのを眺めていると、海自が護衛艦を電飾で飾り立てる気持ちがなんとなく理解できる気がした。


『僕、可愛い?』

「うん、可愛いよ。思った以上に似合ってる」

『わーい! ……でも、トナカイは僕みたいに青くないよねー? 僕の機体、茶色く塗ったらダメー?』

「それはさすがに……」


 その色で一年ぐらい過ごすならまだしも、タロウちゃんがトナカイ役を演じるのはクリスマスの今日だけ。その一日のためだけに塗装をするのはやっぱり無理がある。もちろん一年ぐらいそのままだったら良いの?!って目(レーダー?)を輝かせることにもなりかねないから、一年ぐらいなら云々はタロウちゃんには話さないけど。


『小松のおじちゃんのところにも、茶色く塗った子いるよー?』

「あれはアグレッサー機だからでしょ?」

『ぶぅぅぅ、ちゃんとトナカイさんにならないとサンタさん困っちゃうじゃん』

「大丈夫だって。うちのサンタさんは、絶対に今のタロウちゃんの色を気に入るから」

『そうかなあ……』


 だって今年のクリスマス会のサンタさん役は、朝倉一尉とファントムに搭乗している藤田一尉なんだもの。それこそ一緒に飛んでいる仲なんだから、タロウちゃんが何色でも気にしないと思うな。もちろん、さすがにサンタの衣装のままで空を飛ぶことは出来ないけれどね!

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