プロローグ
よろしくお願いします
キィーン キィーン
ぽつぽつと灯るロウソクの火で照らされている廊下、赤い絨毯が敷かれているそのずっと奥からその音は鳴っていた。金属同士を打ちつけ合う、そんな音だった。
そこには三人の男女と全身をすっぽりと覆う鎧を着て、体より大きな盾を持つもの、それらと対峙するように一匹の獣がいた。
女二人は倒れ伏しており、気絶しているのかピクリとも動かない。鎧を着ているものーーそれから聞こえる荒い息遣いから男だということがわかるが、体に力が入らないのか地に片膝をつけて、立つこともできていない。
未だ立っている男も既に満身創痍で、至る所から出血し、剣を持っていない方の腕は誰が見ても治ることはないとわかるくらい損傷している。しかし目には強い意志を感じさせ、まだ諦めていないと分かる。
「フー、フー、…ショウブアッタナ、ユウシャヨ。」
そう言うのは山もかくやと言うほどの獣。魔物を統べる王、魔王である。
こちらも真正面からではないが勇者の剣を何度も受け、出血していた。また、勇者が持っている「聖」の魔力によってじわじわと体力を奪われていた。
「オマエハツヨイ。タタカウタビニツヨクナッテイル。ダガ、イマハマダ、ワタシニハトドカナイ。ダカラ、オマエヲカクジツニココデコロス。サラバダ、シヌガイイ!」
魔王の凶爪が勇者を襲おうとする。勇者も無理矢理腕を動かし、剣で防ぐ。しかし、やはり体は悲鳴をあげ、剣をはね上げられ大きな隙を作ってしまう。
魔王はその凶悪な顔をにたりと歪め、再度爪を振り下ろした。それは確実に勇者の命を奪う一撃。それが当たる瞬間、
「オラァァァァァ!」
ガキン!という音と共にその爪は何者かに防がれていた。
「マタオマエカ!コザカシイ!」
そうである。先ほどまで地に膝をつけていた鎧の男だ。
持っていた盾を体全体でしっかりと支え、押し切られないように必死で受け止めている。
「オマエガイナケレバ、コヤツラヲタヤスクコロセタノダ!シネ!シネ!シネェェェ!」
そう言うと、魔王は何度も何度も爪を振り下ろした。しかしそれは盾を弾き、鎧の男を殺すばかりか、魔王を押し始めた。
「ナゼダ、ナゼナノダ!ナゼワタシガオサレテイル!オマエハモウ、ウゴケナイハズダ!」
鎧の男はフッと息を吐くと飛び上がり、
「そんなもん気合いに決まっているだろうがぁぁぁぁ!」
そう言って魔王の顔面を盾で殴り飛ばし、山もあるほどの巨体を吹き飛ばした。
「いまだ!早くやれ!」
後ろを振り返ると、剣を白く輝かせた勇者がい、
「ありがとうございます!この一撃で決める!はぁぁぁぁぁ!」
そう言うと勇者は剣を振り下ろした。その一撃は魔王にしっかりと当たり、硬い表皮を切り裂き、肉を裂き、骨を断ち切り、一刀両断した。それを見て勇者は、安堵感か疲れからか気を失ってしまった。
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「おい!アニー大丈夫か!……気を失ってるだけか。」
そう言うのは鎧の男。アニーと言うのは勇者の名前であろう。
とにかくアニーの無事が確認できたところで、鎧の男は魔王が倒れている場所に向かった。
「…オマエハツヨイナ。ワタシデハカテナイ。」
「そりゃどうも。まさか魔王に褒められるとは。」
男は軽く肩をすくまして言った。
「サイゴニ、オマエノナマエヲオシエテホシイ。ワタシヨリユヨイモノノナマエヲオボエテオキタイ。」
魔王が弱々しく言うと男は、
「…フジミ ツカサだ。…なぁ、俺はお前がそんなに悪いやつには思えないんだが。いや、確かに人を結構殺したってのはすごい悪いことなんだけどさ。なんか根っからの悪って感じがしないんだよ。」
ツカサがそう言うと魔王を口を少し歪ませ笑い、
「ワタシガイエルノハ、ワタシハツヨイコトヲノゾンダトイウコト。マオウジョウハ、ソンナヤツヲエラブトイウコトダケダ。…ハヤクニゲナイトシヌゾ。ワタシガシネバ、ココモクズレル。」
ツカサは目を見開くと、
「ちょっと待ってくれ!ここが崩れるのはいいとして、いや良くないけど!魔王城が選ぶってどう言うことだよ!おい死ぬな!待て!ちょっと待てよ!」
そんな声も虚しく魔王が完全に息絶えると、忠告通り魔王城が揺れ出し、崩れ始めた。
「やばい、やばい!マジでやばい!急げ、急げ!アイキャンドゥイット!」
ツカサは倒れている三人を担ぎ上げ、出口へと走り出した。しかし三人は重いためスピードが全く出ていない。
「くそったれが!俺ならいける、絶対いける!いける、いける、いける、いける!ぉぉぉおおおおおお!」
するとツカサの体が羽のように軽くなり、飛んでいるように感じられた。いや、違う。実際に飛んでいるのだ。
ツカサが着ている鎧は古代の人工物であり、その能力は「可能な限り、使用者の強い意志によってその形、性能を変化する」と言うものである。
その能力によって今、鎧からは金属の翼が生え、飛んでいるということである。
「あとちょっと、いける!」
全身に力を入れ、思いっきり叫んだ。
「うらぁぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ+:〒*2〆°¥:52÷=%°〒#!」
最後はもはや自分では何を言っているのか分からないが、とにかく叫ぶのだ。
そして出口を無事抜けた。その数秒後、完全に魔王城は崩れ去ったのだった。
ツカサは少し離れたところで止まり、魔王城をもう一度見ようした。しかしそれは不可能だった。なぜなら、何もなかったからだ。
こうしてまた謎ができたが、魔王を倒すことができ、四人は自分たちを召喚した国「ソルエイル」に帰っていった。