頼まれごと(後編)
後半です。
彼からの頼まれごとを果たすため、俺は彼の家族を待っていた。しかし、待てども待てども全く来る気配がないのだ。もしかして、目的が分からないが騙されたのだろうか。もしそうなら、本当に俺を騙して何になるというのだろう。
かなり待ったがまだ来ない。もうすぐ4時だ。俺の勤務時間が終わってしまう。店長もまだいるので、最悪は店長に頼むことも考えなくてはいけない。それでもなんとか自分で受けてしまった頼みごとを誰かに任せるのは無責任だと思うから、そういうことはしたくない。仕方ないので、勤務時間が終わっても、もう少しここにいることにしようか。もちろん、残業ということにはしないが。
もう4時半だ。店長には事情を話して待たせてもらっている。今、俺は裏で休憩している。店には店長がいて、その客が来たら教えてくれえるそうだ。よし、こうなったら三十分もそれ以上も変わらない。このまま来るまで待ってやる。
俺は意地になっていた。多分、徹夜明けで何か脳の回路がおかしくなっていたのだろう。いつもは責任なんて負おうとは思わないし、ましてや逃げ道があったらそっちに逃げるような人間だ、俺は。だけど、この約束は何故か果たさなくてはいけない気がしていた。
時計の秒針がくるくると時間を刻んでいた。それを俺はぼぅっとしながら見ている。朝から勤務の人は驚いていた。それはそうだ。俺は朝に勤務時間が入ることはないから。店長がその人たちに事情を説明し、その人たちも協力してくれることになった。
「あの、ごめんなさい。おもちゃを予約していたものですが...」店の方から女性の声が聞こえた。
店長が裏にその人を連れてきた。その人は目が赤く腫れていて、泣いていたようだった。
「主人がおもちゃを予約してあるからって、手紙に...」彼女は今にも泣きだしそうだ。
「ああ、はい。これです」
彼女に彼が買ったものを手渡した。彼女はそれを抱きしめていた。そのとき、彼女は少し泣いていたかもしれない。
「あの、どうかされましたか? 大丈夫ですか」
「はい。その聞いてください。多分、あなたは彼にあった最後の人だから」
それから彼女は話し始めた。
彼女には夫がいた。それがあの時頼みごとをしてきた彼だ。サラリーマンで彼の仕事ぶりは素晴らしく、時間は少しはかかったもののかなりの稼ぎがあった。会社では仕事にクールに向き合って、どんな仕事もこなしている。その仕事ぶりとは対照的に家庭ではよく笑い、子供の寝顔を見て微笑んだり、家族と過ごすために休みを取ったり、休みの日や帰ってきてからでも家事を手伝ったりするようなとても家庭的な人だった。
しかし、そんな幸せを奪うことが起こった。日帰りの出張があり、彼は車で出る。前日は雨で、水たまりがあった。そして、彼が運転する車の目の前に何か動物が通った。彼は轢いてはいけないと思いハンドルを切った。それで水たまりのせいでブレーキが意味を成さず、車は壁に激突し、彼は大きな怪我を負った。
それは手や足が思い通りに動かなくなること。それでも彼は生きていた。病院のベットの上だったけど、彼は長い間生きていた。
しかし、昨日容体が急に変化してしまった。
それから手術になったが彼は亡くなってしまった。
俺は何も言えない。あまりに衝撃的な話だ。彼はあのとき、少なくともここに来れる状態ではなかったのだ。
「たぶん、夫は私たちに何かしたかったんだと思います。一緒に住めなくなって、仕事にも行けなかったから」
彼はそういう人なんだろう。
「でも、私はそれでも事故で彼が死なないだけでよかったのに。それでも長生きはできないって先生が言ってて」
「それも夫は知っていたのね。だから、このおもちゃを買って...」
「ねぇ、あの人は最後、笑っていた? 幸せだって思っていたのかしら」
涙のたまった瞳は俺に問いかけていた。
「彼は笑っていましたよ。照れ笑いもしてました。子供の誕生日なんだって、嬉しそうに言ってましたから。あんな顔をしていて幸せじゃないはずはありませんよ」
「そう、なのね...」
それから彼女は静かに泣いていた。
「ありがとうございました」
彼女はそのおもちゃを大事に抱いて去って行った。
「なんか、かなり疲れちゃったな」小声で呟く。
「重い話、だったね」店長が俺の背中を軽くなでた。温かい手だ。
「もう帰ってゆっくり休みなさい。疲れも取れるだろうし」
その言葉に、はいと言って俺は店を出た。そのとき店長はこう言っていたと思う。
「明日も休みなさい。君の分は私が埋めておくから。安心して休みなさい」
ええと。
思ったより重い話になってしまいました。はい。
自分でもかなり重くなったなと思っています。
考えたときはそうでもなかったのになぁ。
えっと、次からはまたコミカルにやっていこうと思っているので、読んでくれると嬉しいなぁ。