勇者と子育て8
私は生まれた時から魔王だった。
魔族には2つの誕生の仕方がある。
1つは魔物が多く棲息する場所で濃くなった瘴気が集まりその中から産まれる者。
そしてもう1つは魔族同士や人間と魔族の男女が交わり産まれる者。
私は後者だった。
先代の魔王には複数の女がいたが、その中で一番強い魔族の女が産んだのが私だった。
生まれた瞬間から私は二人を遥かに凌ぐ魔力を持っていた。
そんな私を父親は脅威に感じたのだろう、殺そうとしてきたので返り討ちにしてやった。
あの男は私と同じように生まれた瞬間から最強であり魔王だった。
それが初めて自分より強い者に出逢い恐怖したのだろう。
そして愚かにもまだ幼いうちなら殺せると思ったのだ。
魔王なんて大層なことをしている癖に、夜中にコソコソと私の元へやって来たあれの体を魔法で引き裂いてやった。
親子の情などというものは魔族にはないので罪悪感なんてものもない。
ただ単純に殺そうとしたから殺した。それだけのことだ。
父親はああだったが、逆に母親は私にすり寄ってきた。
魔族は男女共に強い者に惹かれる傾向があるが、父親のように恐怖を感じ排除しようとする者もいる。
母親は前者だったので、私の面倒を自分で見てよく飽きもせず幼い私の体を触っていたな。
別に母親だけではなく姉や妹も、その子供も私に媚びていたからおかしなことでもない。
私も気が向いた時には抱いてやったし、しつこければ殺した。
男に色目を使われることも多かったし興味本位で相手をしてやったこともあるが、正直あまり面白くなかった。
それ以外にも様々な種族と性交を行ったが、不思議と人間の女が一番良かった。
これは魔族によくあることだが、何故か魔族には人間を抱くのが好きな者が多かった。
好みはそれぞれで違いはあるものの、大体は異性の人間を犯しながら体を引きちぎるのが楽しいようだ。
私も若い頃はそればかりしていたくらいだが、成長するにつれ人間を騙し、絶望に落とすことが楽しくなってきた。
馬鹿な冒険者達を魔物の巣に案内して殺したり、暴漢に襲われた娘に化けて保護され、町に着いてから暴れてみたりと色々なことをした。
強すぎる私には強い者と戦って楽しむようなそんなことは出来ないから退屈だった。
同じことばかりしていれば飽きるのは当然。
魔族は殺すときに同じような反応ばかり見せ直ぐに飽きてしまうが、しかし人間は様々な反応を見せてくれる。
様々な反応を見せ、私の興味を引きよく楽しませてくれた。
そんな中で最後辺りで嵌まったのが子供だ。
私が犯した人間の女で生きていた者の何人かは子を身籠ったが産む前に亡くなっていた。
貧弱な人間の肉体では魔王の子の大き過ぎる魔力に耐えられず死んだのだ。
そんな中で一人だけ自力で子を産んだ女がいてそれも暫くして死んだのだが、それはとても珍しいことだった。
人間と魔族の子は珍しくはないが人間と魔王の子で、しかもちゃんとした出産で生まれた例はほぼないといっても等しい。
死んだ母親の胎から自力で出てきた例ならあるが、これは私も初めて見たので興味をもちその子供を飼うことにした。
どんな成長をするのかとても興味深い。そう思っていたのだが...
その子供は私の子なのに大した魔力もなく、白金髪に紫目というこの辺りでよくいる人間の見た目をしていた。
魔族らしい特徴もなく、どう成長していくのかと楽しみにしていたのにその成長が遅い。
暫く観察していたが次第に興味を失っていった。
だが、あの日...
私は勇者に、梨花に出逢った。
彼女の攻撃で追い詰められていく中で、何とか憑依の魔法が間に合った。
時間もなかった為にゆっくりと対象を選ぶ暇もなく、私と最も近しい者に憑依していた。
それは最悪なことに、私と似ても似つかないあの貧弱な息子だった。
他の血族は皆梨花に殺されていたからだろう。それしかいなかったのだ。
しかも愚かな子供は私に意識を乗っ取られるのを嫌がり抵抗して泣き叫んだ。
あのときは本気で焦った。
何とか体を奪い取ったときには既に梨花は私を抱き上げていた。
殺されると死の恐怖に呑まれていた私は、しかし梨花の優しく見詰める瞳に見惚れ、知らず手を伸ばしていた。
今ならあれは息子の意識がやらせたことだと分かるが、あの時は何故自分がこんなことをしたのか理解出来なかった。
そうして梨花と生活していく中で最初は隙を見て殺してやろうと思っていたのに、いつの間にか一緒にいることに幸せを感じ始めていた。
私も父親と同じで自分より強い存在が許せなかった。
初めて死の恐怖を感じ怯えた、そんな自分自身に嫌悪を抱かせたのだ。
プライドの高い私にはその存在が許せるわけがない。
無防備な背後から両腕を吹っ飛ばして驚いて振り返ったその顔を見て笑ってやる。
そして足も吹っ飛ばし死なないように血止めの魔法を掛けてから毎日犯し続けてやる。
絶望に満ちたその顔が快楽に染まり、自分から求めてくるようになったら嘲り罵倒しながら殺してやろう。
そんな風に幾通りも想像してはその日が来るのを楽しみにしていた。
それなのに...
この感情が何なのか戸惑い行動に移せず、時間だけが過ぎていく。
そんな中である日気付いたのは、私の中に2つの感情があること。
1つは私の中に残る息子の意識が梨花を母親のように慕っているということ。
そしてもう1つは、私自身が彼女に恋しているということ。
これには本当に驚いたし、何度も自分の考えを疑ったし他の可能性を模索した。
自分が人間なんかに惚れるわけがない!!
絶対に認めたくなかったがその事実は変わることなくどうしようもないものだった。
彼女と生活を始めた頃の私の大半を占めていたのが息子の感情で、梨花を母親のように慕う気持ちだった。
褒めて欲しい、側にいて欲しいという欲求が強かったと思う。
一緒にいるだけで満たされて彼女がニコニコしているのを見るのが大好きだった。
梨花に甘えて彼女の乳首を吸ったりもしたが、あの頃はあまり厭らしい感情は湧かなかった。
だが、成長するにつれ私の欲求が強くなっていくと性的な欲求が大半を占めた。
梨花に口付けたい、触りたい、抱きたいという思いだ。
そうして私の行動は純粋な行動から不純なものが多くなっていった。
抱き締め合うときにそっと匂いを嗅ぎ腹や腰、時には胸や尻を撫でたり、風呂で裸体を晒したり着替えで下着姿になったときに舐めるように見たり。
それらは無論、怪しまれない程度にこっそりとだが。
時々自分は何をしてるんだと正気になることもあるが、止めようとしても止められない。
やり過ぎないように気を付けてはいたが、好きな女が側にいれば少しずつ行動はエスカレートしていくものだ。
ある日我慢出来ず眠った梨花に眠りの魔法を掛け、起きないようにした。
そうして彼女の服を剥ぎその裸体を隅々まで見た。
黄みを帯びた白い肌は滑らかで美しく他にない色をしていた。
触るのは不味かろう。最後までしてしまいそうだと最初のうちは見るだけで我慢していたのだが、今では体中を触り舐め回すようになった。
こうなったらその日の為に備えようと、来る日に思いを馳せ念入りに解している。
アルスには「梨花の初体験は本人の意識のあるときに」なんて言ったがそれまで耐えられる気がしない。
彼女の気持ちを得る前に一線を越えてしまう可能性の方が高そうだと溜め息をついた。
魔族は恋をする(伴侶を見付ける)と一途になります。