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勇者と子育て7



夜も更けた頃、勇者の眠る部屋のドアが静かに開かれた。

月明かりだけが頼りの暗い部屋を、何者かが音を立てないようこっそりと進む。

そうして勇者の眠るベッドへ近付いていくと、子供を大事そうに抱え眠るその姿があった。

侵入者はそれを見て激しく嫉妬するも、愛する人の安らかな寝顔に愛しい気持ちが込み上げ負の感情など消えさった。

自分が何しに来たのかも忘れ、暫しその顔に見惚れた。


「また来たの? 女性の部屋に勝手に入るなんて陸なもんじゃないね」


静かな部屋に子供特有の高い声が聞こえたが、その声音は酷く冷たい。

目を向けると勇者の養い子が上半身を起こしこちらを睨んでいた。

その目に宿る嫉妬の炎を見てアルスはフッと笑い、声を掛けた。


「無力な子供のふりをして誑かす奴に言われたくないな」


アルスからの嘲笑の混じる言葉に苛立つも無視して、自分の横で眠る勇者の頬をリューは撫でた。

勇者の体はどこもかしこも柔らかくて肌触りが良く、その顔を見ているだけで癒される。

ゆっくりとだが、仄かに厭らしさを感じさせる手付きで数度勇者を撫でてからアルスを見る。

その顔には挑発するような笑みが浮かんでいた。


「誑かすなんてとんでもない。実際に僕は子供だし彼女の息子だよ」

「なにが息子だ。梨花に欲情してる癖に!」


吐き捨てるように言ったアルスの言葉に、リューは小馬鹿にするように笑って答える。


「それの何がいけないの?

母親に欲情してはいけないなんて人間が勝手に決めたルールだろ?

魔族の僕には関係ない」

「関係なくないだろう、お前が彼女の子供でいたいならな」

「なにそれ、脅してるの?」


梨花に欲情していると言われたが、魔族のリューにとってそれは何もおかしなことではない。

魔族には近親者に手を出してはいけないという考えがなく、親子、兄妹であろうと普通に性交をする生き物だった。

唯、アルスの言う「彼女の子供でいたいなら」という言葉の意味が分からない。

そんなリューを見てアルスは呆れたが、梨花の身の安全の為にも教えてやることにした。


「梨花は人間だ。人間の母親なら自分に息子が欲情してるなんて知ったら距離を取ろうとする。

彼女もお前の側から離れようとするだろうな」

「あぁ、それなら問題ないよ。

僕は彼女から離れる気もないし、いずれ彼女も僕なしではいられなくなるだろうから」

「なに?」


リューの言葉に眉根を寄せ探るように睨みつけるアルス。

そんな彼を無視して、リューはそっと梨花の顔を覗きこむとその唇に口付ける。

その瞬間殺気を放ったアルスにくすっと笑って挑発するように妖艶な笑みを浮かべた。


「少しずつ僕の魔力を彼女に馴染ませてるんだ。

それに体の方も少しずつ解してるし、もう少しすれば僕を受け入れられるかな」

「貴様!!」

「アハハハ!!」


梨花の体を撫で回しながら話すリューに、アルスは思わず剣を抜く。

そんな彼の様子を見てリューは大きな笑い声を上げた。

彼がどれほど大きな声を出そうと、魔法で眠らされている梨花は起きない。それはアルスも知っていた。

だから眠った人間の側でこんなに平然と話していたのだ。


「君だって最初は彼女に夜這いを掛けに来た癖に、よく人のことを言えるよね!」


嘲笑の混じったリューの言葉にアルスは眉間の皺を増やした。

事実、初めて梨花の家に泊まった晩アルスは彼女に夜這いを掛けようとしていた。

手込めにしてしまえば王族の自分には逆らえないだろうという単純な理由からだ。

しかし梨花と一緒に寝ていたリューが気付き未然に防いだ。

最初のうちは猫を被り無垢な子供のふりをして追い返していたリューも、何度となく繰り返されれば嫌気もさし次第に本性を見せるようになっていった。


「お前のように本人の意識がない間にどうこうしようなどというゲスなことはしていない!」

「大して変わらないじゃん。でも僕だって初めてのときはちゃんとするつもりだよ?

だから痛くないように調整してるんじゃん」

「ふざけるなよ糞ガキが!!」


額に青筋を浮かべて怒るアルスに涼しい顔で答えるリュー。

その自分勝手な理屈にさすがのアルスも怒鳴ったが、怒られたリューは納得がいっていないようで不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。


「あー! もう本当に面倒くさい、殺しちゃおうかな。

でも君は王族だし後々面倒くさいんだよね。

今の僕じゃまだ弱いから国一つ相手取るのはきついんだよなー」


本当に面倒くさそうに言うリューを見てアルスは考えこんだ。

このガキの強さは梨花には及ばないがそれなりにある。

自分が本気を出して戦えば互角くらいか、まだ自分の方が強いはずだ。

それなのにこのガキは私を殺せると思っている。そのことが気にかかった。

子供だと思って甘く見るのは危険か、そう考えを改めた。


「さっさと部屋に帰れば?」

「お前が梨花に手を出していると聞いて帰れるか!」

「そう、じゃあやっぱり殺すしかないか」


そう言って笑ったリューの瞳は赤く輝いていた。

それは魔族の象徴で有り、その目に含まれた獲物を見るような獰猛な視線も魔族そのものだった。



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