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勇者と子育て6



「馬鹿かお前は」


ある日呼んでもいないのに訪れたアルスに「リューを狙ってるんじゃないだろうな!」と私がそのまま聞いてみると、それは恐ろしいほどの冷たい目で見られた。

そしてなぜかグイグイ近付いて来るのでその分下がるが、壁に追い詰められてしまった。

何がしたいんだこの男!?

そのまま顔がくっつきそうな程近付いてきたかと思うと、目の前でニヤリと不敵に笑った。


「これだけ好意を前面に押し出しているのによくもそんなことが言えるものだな」

「こここ好意って、あんた何人奥様がいるのよ!」


口元は笑っているのに目が全く笑っていないことに冷や汗が止まらない。

そんな私の様子にアルスは目を細めた。


「あの妻達は政略結婚以外のなにものでもない。お互いの利害で婚姻しただけだ。

私がお前に惚れているのはさすがに気付いていただろう?」


...そりゃ自分に自信なんかないけど、その可能性も考えてたよ。

勇者という肩書きに執着するにしてはリスクが大きいことばっかしてくるし、惚れてるって考えるとまだ納得できた。

それでも色々無理あると思うよ!

こいつは今はもう王位を継いでこのオードア国の王になったし、前ほど頻繁にここを訪れなくなった。

何より身分はどうにも出来まい。

いや側室にならできるか? えっ、そんなの絶対やだ!!

生まれてから一度もモテたことないし、いや、女の子になら告白されたことあるけど。

自分に自信なんてないから、リューを狙ってると考えた方がしっくりくるって思えたんだよ!

リューを手に入れる為に母親の私を誑かしてるんじゃないかって。

いや悪かったよ、ごめんて。そんな黒い顔で笑わないで下さい!


「いい加減諦めなよ! 私があんたを好きになるなんてありえないから!

日本じゃ既婚者の時点で無理なのに、更に複数の奥さんと子供がいるとか絶対なし、無理だから!」

「そう言われると余計燃えてくるな」


そんな自分の間違いと本当に惚れられていたという事実に羞恥心を感じて、慌てて誤魔化すように大きな声を出して言ったのだが。

...この質の悪い男はなんなんだ!

なんで燃えるんだよ! 馴れ馴れしく肩に手を置くな! 密着してくるな!

くそっ、押しても全く離れやしない...

無駄に顔がいいからちょっとドキドキするじゃないか! 私だって一応女だぞ!!


「お母さん何してるの?」

「うおぉ~リュー! よく来てくれた!」


ぐっとアルスの体を押すとさっきは全く動かなかった癖に簡単に離れた。

そのことにイラっとするが今のうちに急いで距離を取る。

リューに近付いてぎゅっとその体を抱き締めた。


「こんにちはアルスさん、また泊まりに来たんですか?」

「あぁ、お前もそろそろ弟か妹が欲しいんじゃないか?」

「いいえ全然。僕はずっとお母さんと二人きりがいいです」


リューがにこやかに声を掛けると、それにアルスは爽やかな胡散臭い笑みでとんでもないことを言いやがった!!

しかし、それをリューがきっぱりと否定してくれる。

「ずっとお母さんと二人きりがいい」

その言葉が嬉しくてリューを強く抱き締めた。

するとすぐにリューも抱き締め返して、私の胸にグリグリと頭を擦り付けて甘えてくる。

そんな様子が可愛くて「そうだよねー、ずっと一緒だもんねー!」と、ついつい頭を撫で撫でしてしまう。

なんて可愛いのかしらうちの子は!!

そんなデレデレした顔でふとアルスを見ると...

恐っ! 凄い冷たい目だな!! 恐っ!!

勇者の私の背筋がぞっとする程の目を向けてきていた。

その恐ろしい視線でリューが恐がってしまうと思い、然り気無く腕の中に隠し誤魔化すように話し掛ける。


「それにしても、今回は大分遅く来たな。

もう夕飯は食べちゃったけどどうすんの?」


いつもアルスが来るのは夕飯時なのに、それが今日はもう夜も遅い時間帯だ。

毎回勝手に私の分の食事を食べていたからもしやこれが目的か?とも思っていたのだが。


「構わん。別に飯を食いに来ているわけではないしな」

「じゃあなんで毎回私の分を取るんだよ!」

「好きな女の手料理を食べたいと思うことは変なことか?」


キレた私に平然と小っ恥ずかしいことを言ってくるアルスのメンタルに驚く。

そして奴には珍しく優しく微笑んでくる。

やめろイケメン! 私は落とされんぞ!!



結局この日もアルスは家に泊まったのだった。



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