勇者と子育て5
「んっ」
体が熱い...
「あっ...はぁ...」
何だか気持ち良くて、でも息苦しい...
意識がはっきりしなくて、私は夢を見ているのかも知れない...
「!!?」
ガバッと勢いよく上体を起こした。
「はぁ、はぁ、」と、目を覚ましたその瞬間に自分の呼吸が乱れていることに気付いた。
「...あー、くそっ、また夢か!」
頭を抱え項垂れる。最近なぜか厭らしい夢をよく見るのだ。
起きた後は全身が熱くて怠い。
夢魔だろうか.. この世界にも夢の中に出てきて淫らなことをしてくる変態魔物がいる。
そいつの仕業だろう。...私の欲求不満ではない! 絶対違う!!.
ちゃんと結界を張っているのだが夢の中だから効果がないようでこのざまだ。
本体を叩くしかない。
必ず見付けだして殺してやる!! 勇者を敵に回したことを後悔しろ!!
「お母さん、どうしたの?」
「ん? んーん、なんでもないよー」
心配そうに顔を覗き込んで来た息子を抱き締める。
あれから1年半、リューを拾ってからは2年が経った。
その2年でリューは8歳くらいの少年になっていた。
言葉もしっかりと話せるようになったし読み書きも出来る賢い子だ。
何よりその容姿が人の目を引く。
ちょっと癖のある白金の髪にくりっとして大きな紫の瞳。白い肌に頬はうっすら桃色でプリっとした赤桃色の唇。
うはん可愛い!! 本物の天使だ!!
母親から見てもこんなに可愛いんだもの!
変態に攫われるんじゃないかと毎日気が気じゃない!
こんな別嬪さんに育たなくてもよかったのに...お母さんは毎日不安で不安で堪りません。
「何があってもお母さんが守るからね」
「ふふふ、お母さんそればっかり」
「もうっ、リューは自分の容姿の良さに自覚が足りないのよ!
油断してたらあっという間に攫われちゃうんだから」
大袈裟な表現じゃなくて最近村の人達のリューを見る目が変わってきてる。
前はリューの成長の早さを気味悪がって私達に声も掛けてこなかったのに、今は向こうから寄ってくる。
女の子はリューに恋してるみたいで可愛くていいんだけど、大人の男は色目で見てて鳥肌たった。
あれに気付いてからはほんと恐くて...
もしかしてアルスもリューを狙っているんじゃないかって思えてきたり...
いや、さすがにそれはないと思うけど、男女の私に惚れるくらいならそっちの方が可能性高いんじゃないかと思える。
「リューはすごいなー。もう字も書けるようになったね」
「ふふ、はいお母さん!」
こうして毎日リューと文字を書く練習をしてたんだけど、もうすっかりマスターしたみたいだ。
リューは成長が早いだけじゃなく、言葉を覚えるのも文字や魔法を覚えるのも早い天才だった。
舌足らずだった言葉も今ではしっかり話せるし、文字の読み書きももう覚えてしまったし。
教えることがなくなってきたので護身用に剣の稽古や魔法の練習もしたが剣の腕は大人顔負けだ。
その辺の兵士じゃ太刀打ち出来ないだろう。
後は体が付いてこないだけで技量だけなら一流といっても問題ない。
魔法も初級は一回で出来たし中級の防御魔法や支援魔法も3、4回で出来た。
人間の攻撃程度なら結界張って余裕で防げるだろう。
リューは魔力量も多いから持続力もあるし、数十時間はそのまま維持できると思う。
「お母さん、もう少し上の攻撃魔法も教えてほしいです」
「んー、でもそれはリューにはまだ早いと思うんだ」
こうやって時々リューからもっと強い魔法を教えてほしいとねだられるのだが、これ以上の攻撃魔法を教えるのはもうちょっと心が成長してからにしたい。
じゃないと間違って使ったりしちゃいそうだし、暴発なんかしたら命に関わる。
「そんなことありません! お母さんを付け狙う変態がいるし、僕だってお母さんを守れるようになりたいんです!」
「ふふ、それは頼もしいなー。
でももう少し大きくなるまではだめ。それまで我慢してね?」
私の言葉にリューは下唇を噛んで悔しそうにしながらも頷いてくれる。
リューの気持ちはすごく嬉しいけれど8歳の見た目でもリューはまだ2歳だ。
そんな子供に危険な魔法は教えられない。
剣術や初級の魔法だって人によっては早過ぎるって怒られそうだし、日本だったら虐待だって言われそうだ。
でも、魔族や魔物のいる世界だし治安も悪い。ある程度の護身術は覚えておいて損はない。
それに私を狙ってる変態は私じゃなくリューを狙ってるんだと思う。
そういった意味で必要最低限の護身術は教えたつもりだ。
もっと幼子の頃の話しも書きたかったけどもう成長してしまいました。
子供とのほのぼの話しってなかなか難しいですね。