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勇者と子育て4



私はリューを育てることにした。


家族を、故郷を捨てて生きることはなかなかに辛い選択だった。

この世界の魔法では時間を戻すことは出来ないから、時間が経てば経つほど帰ることは難しくなってくる。

私がこの世界に来て魔王を倒すのに3年掛かった。

だから今さら戻った所で、どう家族に説明すればいいか分からない。

故郷に帰らずこの世界に残る勇者が多いのはそういった事情からだ。

...それでも私は帰りたかった。





リューを拾ってから半年が過ぎていた。


「ただいまリュー」

「ママー!!」


私が帰るとリューはよたよた歩きながら嬉しそうに出迎えてくれる。

私も笑顔でリューを抱き上げると、ぎゅっと抱き締め合う。

この瞬間が大好きだ。生きてて良かったって心から思えるから。


「おかえりにゃさいママ」

「うん、ただいまリュー」


リューは恐るべき成長の早さで今は3歳の子供くらいの大きさだろうか。片言ながら言葉も話せる。

こんな成長の仕方はこの世界でもありえない。リューは人間ではなかったのだろう。

もし誰かに引き取ってもらっていたら殺されていたかも知れない。

...だからこれで良かったのだ。




今私達は王都から少し離れた村に住んでいる。

王様からは王都に家を用意すると言われたが、これ以上お世話になるのは気が引けた。

勇者時代に稼いだお金があるからそれで家を買うことにしたのだが、私が有名人だから王都に住むのは無理だった。

それで程よく寂れた...人の行き来の少ないここに住むことにした。

ここでは私が勇者だと気付かれないし安心して暮らせる。

それは何より、私が普通に女性の格好をしているからだろう。

勇者時代はずっと鎧だったし、元々私はズボンを好んで穿いていた。

それが今は村の女性と同じく丈の長いスカートだ。

歩き辛いが私はリューのママだし。

ズボン穿いてるだけで男だと思われる世界で、何より父親だと思われるのが嫌だったんだよ!

「素敵なお父さんね」っなんて言われてみろ! 泣くぞ!!


リューを椅子に座らせ夕飯の準備を始める。

今日はフュージャーって魚の魔物が安かったからそれを使う。

甘辛ソースで煮てこっちにもあった白米で食べるとすごく美味しいんだ。

こっちの米はジャポニカ米っぽいけど、ないと思ってたからそれでも嬉しい。

リューはもう離乳食じゃなく普通のご飯が食べれるから、一緒のご飯を食べれて幸せだ。

そうして出来た料理をテーブルに並べていると、


コンコンコン


ノックの音が聞こえた。

嫌な予感しかしないが出ないとしつこい。

仕方なくドアを開けると、そこにいたのは思った通りアルスだった。


「お前何してんの?」

「俺が来るのは悪いことか?」


ジト目で睨むと不敵な笑みで返された。

悪いだろうが、お前王太子だろ!


「当たり前だろ! 早く帰って仕事しろ!!」

「そんなものはとっくに片付いている」

「そういう問題じゃない! お前王太子だろ!!」

「護衛なら付いているから問題ない」

「大有りだ!!」


せっかく目立ず生活していたのに見るからに貴族な男が月1で来るようになって、今では目立ってしょうがない!

「きっと子供の父親よ」って言われてんだぞ! 分かってんのか!

村外れに住んでるけど遠巻きに見られてるんだよ!

しかもこいつわざと夜に来るんだよ、そんで...


「相変わらずみすぼらしい家だな。こんな所に泊まるなんて気が引ける」

「じゃあ泊まってくなよ! 帰れ!!」


なぜか泊まってこうとする。

子連れ女の家に泊まるなんて醜聞だろうに、一体何を考えてるんだかさっぱり分からない。

王太子に隠し子有りとか! 唯でさえ子沢山なのに!?

アルスはイライラしている私に近付いて来て、馴れ馴れしく頬に触れてくる。


「やはり貴様には女の格好の方が似合っているな」

「...元々女なんですけど」


凄まじい嫌みにイラっとくる。

その癖優しく微笑みながら何度も撫でてくるのだから質が悪い。

こいつは私が女の格好をするようになってから壊れてきた。

ぶっちゃけ、なんか厭らしい目で見てくるようになったのだ。

女に飢えてるの? 6人目の奥様にも子供が産まれたって聞いたばっかだよ、まだ満足出来ないわけ!?

その性欲の強さに身震いする。

...しかし、こいつは私に手を出してこようとはしない。

たまに熱のこもった目で見詰めてくることはあるがそれだけだ。

それがまた不気味で恐い。

そうして今回もアルスは図々しく私の夕飯を奪い当たり前のように泊まっていった。


無論部屋は別々だ。



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