表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/11

勇者と子育て3


時間は掛かったが城に用意されている自分の部屋に帰ってきた。

高そうな調度品やでっかいベッドが置かれた部屋で最初は戸惑ったが、これでも質素なのだと他の客室を見て安心したな。

今日は王子やその婚約者に会ったりして何時も以上に疲れた。これなら他の貴族に会った方がましだ。

メイドさんとすれ違う度に熱い視線を送られたりするのには慣れたしな。

そんなことを考えながら部屋の中に入ると可愛いお出迎えが私を待っていた。


「あぅうー!」

「ただいまリュー!」


帰って来た私に気付くとベッドの中から必死に手を伸ばしてくるのは、魔王城で拾った赤ん坊だ。

急いで赤ん坊用のベッドからリューを抱き上げると、彼は嬉しそうに「きゃっきゃっ!」と笑っている。

[リュー]とは私の付けた名前だ。

ご両親の付けた本当の名前があったと思うけど、それは分からないから勝手に名付けさせてもらった。

息子を攫われたご両親の気持ちを考えると心が痛くなる。

まだ生まれてそんなに経ってないだろうに引き離されてしまったんだから、心配してるだろうな...

はぁ... 早く見付かればいいのにね。


「おぉう! きゃわいい~でちゅね~♪」


そんな沈んだ気持ちも疲れていたことも、この子の可愛さで一瞬で吹き飛ぶのだ。

余りの可愛さについつい頬ずりしてしまう。

子供特有のもちもちスベスベなお肌は凄く気持ちいい。


「あうぅーう、あーうー」

「どちたの? お腹空いたかな?」


よしよしとリューをあやしながら聞くと「あうあう」と答えてくれる。

うん、分からん。

やはり本物の母親じゃないからか、この子の伝えたいことが分からない。

取り合えずミルクの用意でもしようと部屋から出ようとすると、ドアの前に男がいた。


「相変わらず締まりのない顔だな」


嫌みなこの男はこの国の王太子で第1王子のアルスという名前の男だ。

そう、あのリディアムの兄でありさすが兄弟というか、母親が違うから顔はあまり似てないが性格はそっくりだ。

リディアムは仏頂面でリューより濃い髪と目の色をしていたが、こいつは甘いマスクの金髪碧眼だ。

乙女が見れば本物の王子様!! と思うだろうが、あの男よりこいつの方がずっと性格が悪い。

何より今もしている悪人のようなニヤリ顔がこいつの性格をよく表している。

こいつは私が女だってことに気付いて口止めしてきたし。その方が都合がいいって。

なんじゃそりゃ!?


まぁこいつの言った「周りに女だってバレると犯られるぞ」って言葉に納得してるけど。

だからずっと隠し続けてきた。だって本当にこの世界治安悪いもん。

魔王討伐の為に立ち寄った町や村で見たあれやこれや... 思い出しただけで胸糞悪い!!

それに元々男兄弟に挟まれて育ってきた私は口が悪いし、地声も男か女か分かんないような声だったから日本でもよく男に間違われていた。

女だって言っても信じてもらえなかったことも多々あるくらいだし、隠すのに苦労はない。

むしろ女のふりする方がきつい。


「何勝手に人の部屋に入ってんだよ」


不機嫌を隠しもせず言ってやる。

こいつに遠慮なんかしても苛つくだけだからだ。


「ここは全て私の家だが?」

「おい、そう言ってお前は客室にまで無遠慮で入るのかよ!」

「お前も私のものなのだから問題ないはずだが」

「きしょー」


出ました「俺のもの」発言!

王様が私をこの世界に召喚したからその息子の自分にも所有権があるって思ってるんだよ、まじで。

頭イカれてるよね。


「随分大事そうに扱っているな。本当はお前の子なんじゃないのか?」

「よく言うよー、初めてリューに会ったときは激怒してた癖に」


こいつは私がリューを連れて帰ったとき、凄い剣幕で捲し立ててきた。

「その赤子はなんだ!! まさかお前の子ではないだろうな!! それを寄越せ、首をはねてくれる!!」って叫んでたんだよ。

すっごいドン引きした。

自分のものが他人に取られるのがそんなに嫌かね。

私が説明したら「それならそうと早く言え!」って逆ギレされたし。

王族って大概性格悪いよね、我が儘だし。


「何しに来たのよ? リューの両親でも見付かったわけ?」

「見付かるわけないだろう。市民からの誘拐被害が年間何万件出ていると思っている?

そもそも親が出さない場合もあるし、親ごと殺されていれば捜索願いも出されておるまい」


ごもっともな意見に苛っとくる。

そりゃ日本みたいに指紋なんかで犯人を探すことは出来ないけど、追尾魔法とか探す方法は色々あるんだよ?

でもそれだって時間が経ってしまったり、魔術師の不足で探すことが出来なかったり、相手がプロなら魔法やマジックアイテムで痕跡を消してしまう場合だってあるし。


「じゃあこの子の里親になってくれそうな人はいたの?」

「勇者が帰ると分かっていてなりたがる者などいないだろう」


...そうなんだよね。

私が日本に帰りたがってるのは周知の事実だから、帰したくない人達の妨害とかもあるんだよ。

こいつやリディアムなんかは帰したい側だからそれに関しては協力的だけど、王様が妨害勢力なんだよね。

だから里親探しも難航してる。

あぁ...私のせいでごめんねリュー。


「俺が面倒を見てやってもいいが?」

「お前みたいな性格悪い奴に任せられるか!!」


こんな奴に育てられたら歪んだ人間になっちゃうじゃんか!!

それにこいつには息子も娘もいるし、何より奥様が6人もいるんだよ?

リューまでそんなハーレム男になったらどうしてくれる!!


「それでどうするんだ? このままそいつの親が見付からなければお前が育てるのか?」

「それは...」

「帰りたいのなら嫌でも私に寄越せ。これだけ探して見付からないのだから諦めろ」


アルスに手を差し出され戸惑う。

こいつの言葉は正論だ。

2週間も探して見付からないのだからもういい加減諦るべきだ。

幾ら魔王を倒した英雄だからといって、いつまでも王様の世話になるわけにはいかない。

この子をアルスに託して帰るか、ここに残って私が育てるか。

私は決断しなければいけない。


「私は...」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ