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勇者と子育て2

あれから王国へと帰ると大きな歓声に出迎えられた。

私の姿を見付けた途端人々は「勇者様ばんざーい!!」「さすが勇者様だ!!」と、称賛してくれたのだが...

恥ずかしいことこの上ない!

それから逃げるように城へと戻ったが、未だにあの赤ん坊の両親は見付け出せていない。


あれから2週間経つがどうしたものか...


「おやこれは勇者殿、まだ貴国に帰られてはいないのですか。

あれほど帰りたがっていたのにどういう心境の変化ですか?」


廊下を歩いていると会いたくない奴に出逢ってしまった。

くにゃくにゃした白金の髪と紫の瞳で、色はリューと似ているがあの子より濃い色合いをもつ男だ。

この髪と目の組み合わせの人はこの国にしかおらず、大体3割近くいるらしい。

ほとんどの人が髪か目のどちらか片方の色がこの色で、他には髪は金やオレンジ、瞳の色は青や緑が多いそうだ。

この男は女の子にモテそうなイケメンだというのにいつも仏頂面をしていてもったいない奴で、しかも会う度に嫌みを言ってくるし性格も悪い。

だがこの男名前はリディアム・クラム・コードアという、このコードア国の第4王子だった。


彼の婚約者であるシルビア様が私に憧れているのが気に食わないようで、こうして会えばさっさと帰れ攻撃をしてくるのだ。

私だって言われなくたって帰りたい。そんなの当たり前だ!

でもそれを表に出すわけにはいかないのだから、苛立つ気持ちを静めて返すしかない。


「...残念ながら、私の見付けた赤子の両親が見付からないのです。

拾った以上中途半端に帰るわけにはいきませんから」

「そんなことをおっしゃって本当はこの国に住みたくなったのでは?

我がコードア国は他の国より群を抜いて素晴らしいですからね。そのお気持ちは分かります。

ですが勇者殿は所詮平民。

皆に持て囃されて嬉しいのも分かりますが、少々目に余るものですね」


この第4王子のとんちんかんな言葉は本当に腹が立ってしょうがない。

こっちは帰りたくて仕方ないのに!

誰がこんな下水設備も整ってない国に住みたがるか!!

一応トイレはあるし日本と大して変わらず使えるが、処理設備がないので排水をそのまま池に流しているらしい。

池は国の外にあるのだがそのまま溜めてるから、それは恐ろしいことになっているだろう...

魔法で水出してるけどそれ汚染されてない? 空気は大丈夫なの??


「えぇ、確かにコードア国は素晴らしい国ですが、私にとっては住み慣れた日本が最高の土地なのです。

早く赤子の両親さえ見付かってくれればすぐにでも帰れるのですが」


そう言ってにっこり微笑んでやれば嫌味に気付いたらしい第4王子は眉根を寄せた。

お前らがさっさとあの子の親を見付ければすむ話しなんだよ!

なんで見付からねーんだよ! 白金の髪で紫目はこの国にしかいねーだろーが!!

...あっ、ごめん。ちょっとストレス溜まってて言い過ぎたね。

まぁ時間掛かるのは分かってたんだよ。でもその間にあちこちから求婚だの色々あってさ。

勇者で魔王を倒したからかな、女の子からの告白やそのご両親方からの「うちの娘と結婚しないか」って誘いがしつこくて。

この世界では定期的に魔王が復活するらしくて、その度に勇者を召喚してるんだって。

歴代の勇者はこの世界の貴族女性と結婚する人が殆どで、元の世界に帰る人は少ないらしいから私も残ると思ってるんだろうねー。

「帰る」って何度も言ってるのにね!!


「勇者様!!」


お互いにニコニコしながら火花を散らしていると女性の声が聞こえ、後ろから抱き締められた。

振り返ると思った通り、この男の婚約者であるシルヴィア様がいた。


「こんな所で会えるなんて運命ですわ!! 今日も素敵です勇者様!」


キラキラした瞳を向けられ思わず苦笑いが出てしまう。

ほら、そこの婚約者が睨んでますよ。


「これはシルヴィア様、お久し振りですね」

「本当よ! 勇者様ったらあれからちっとも会ってくれないんだもの!!

私のこと嫌いになりましたの? 私を抱いて下さらないし」


美しい空色の瞳を涙で滲ませて見上げてくる顔は堪らなく庇護欲を掻き立てられる。

よく婚約者の前でそのようなことを言えるものだ。

でも、この子も私に求婚してるご令嬢の一人だからリディアムと結婚する気がないのかもね...

しかしお嬢さん、私は女ですよ?

別に隠してるわけじゃなかったんだけどなんか男と誤解されて、まぁ別にいいかと思って言ってないんだよね。

いや、好意を寄せてくれる方には正直な性別を言いたかったんだけど、ちょっとこの国の王太子に口止めされちゃって...


「シルヴィア様、リディアム様の前ですよ?」

「いいわあんな男。王子だってことにしか価値がないもの!

それも4番目、王位を継ぐ可能性もない方ですし」


馬鹿にしたようにリディアムを見るシルヴィア様。

リディアムはそれを受け悔しそうに口元を歪めている。

二人は婚約者といってもお互いに愛し合っているわけではない。

第4王子であるリディアムは王位を継ぐ可能性も低い為、公爵であるシルヴィア様の家に婿に入るのだ。

そう、彼女の正式名称はシルヴィア・セント・スミスタ。公爵の位にある。

彼女の家には男子が生まれず婿を求めているが、相手の候補は何人もいる。

しかしリディアムには彼女しかいない。

プライドの高い彼は自分と同程度の身分であることに拘るが、公爵で年齢が近く独身であるのは彼女だけだったらしい。

それ以下の身分の女性と婚姻を結ぶことが彼には耐えられなかったのだろう。

絶対結婚しても苦労するだろうに...



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