#1
ふざけたタイトルだと思うし、実際私はふざけた。
本編でなかなか恋愛が進展しなかったので、むしゃくしゃしてやった。とどのつまり、愉快犯だ。
しかし、恋愛というジャンルがこんなに難しいものだとは、私は夢にも思わなかった。
生まれ育った環境も、性別も、思想も、何もかもが違う男女がいかにして出会い、いかにして結ばれるのか。
恋愛というものを、これ程意識した小説は私史上初のものですから期待はしない様に。
何の教訓も含まれていません。
彼女の頬を、冷たい雨が嬲った。
容赦なく降り注ぐ雨は、何の涙だろう。
これは、罰だ。
素直に人を愛せない、自分への、罰だ。
長い髪を雑に振り払い、彼女は目を開けた。
長いまつ毛に囲まれた大きな瞳からは、玉の様な雨が絶え間なく、地面に降り注いでいた。
琴寺七海輝という、つまり彼女は、今までの自分という存在を疑った事が一度も無かった。
自分というのは自分でしかないし、自分は今にしか存在しない。
過去に存在した自分は即ち他人であり、未来に存在し得る自分もまた、現在という地点の自分から見れば、まだ他人なのであった。
即ち、自分に連続性という物は存在しない。そう思っていた。
だから、その瞬間瞬間で自分が正しいと思った事のみをし、正しくないと思った考えは直ぐ様焼却した。
『自分だけを信じろ』
それが、それだけが七海輝という人間の心に強く根付く、謂わば座右の銘だ。
それが誰の言葉なのか、ここでは発表を差し控えさせて頂こう。
だが、少なくとも七海輝にとってそれは、聖母マリアの御言葉よりも強い言葉なのである。
そして、七海輝自身、その言葉通りの人間になった。
前述した様に、現在の自分のみを信じ、現在の自分が人生の中で最も強く美しく、気高く咲き誇れる様にと毎日を過ごした。
いつしか彼女は中学生にして番長として、畏怖と憧憬の中心に立つ人物になった。
だが、彼女はそれで満足しなかった。
「誰かに愛されたい」
彼女の今に必要なのは、誰か一人からの、愛。
天涯孤独であった七海輝にとっては、それはどんな望みよりも強い意味を持っていたのだが、それはまた、別の話。
長い前置きは過去に置いておいて、今からは七海輝の現在を覗きに行く事にしよう。
前置きが少々長くなってしまったが、仕方あるまい。これから琴寺七海輝という人間の生涯の一部を切り取るのだから、本当ならこんな前置きは短いぐらいだ。
それはそうと、毎回こんな堅苦しい前書きや後書きがあると読む人の気分を害しかねない。
しかし、これらの方法を用いて小説に窓口を作らないとこのテの作品は、いい加減やってられなくなってくる。初対面の人に堅苦しい話し方をしてしまうのは人見知りの性。
そこのところを、どうか念頭に置いて下されば、幸いと思います。