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龍の御役目

銀太はその様子をじっと眺めていました。

軍人たちが攻めてきた時には雨と風で軍人たちの邪魔をしたりもしました。

けれども圧倒的なその人員と物量に小さな龍の力は大きな障害にはならなかったのです。


大きな国の領土になった小さな村は段々その姿を変えていきました。

人々から笑顔は消え、大量の作物を搾取されるだけの村になってしまいました。

そこに銀太の好きな村の姿はもうどこにもありませんでした。


それでも銀太は村が雨に困れば雨を降らせていました。

どんなに水不足の年も銀太のお陰でその村だけは水に困る事はありません。

大きな国の領土の一部になってもそれだけは変わりませんでした。


時代は移り変わり大きな国の勢力も段々弱くなってきました。

国の勢力が弱くなると誰もがその豊かな村を欲しがり、やがて村を巡っての戦争に発展していきました。

そして村は戦場になり沢山の血が流されました。

どの戦力も村の攻略に一番の兵力を割いていたのでしょう、結局は共倒れとなって

しまい村は荒れ果て、人々は姿を消してしまいました。

あれほど豊かだった村はもう見る影もありません。


銀太は嘆き、悲しみました。

何日も大雨が降り続けました。

何日も風が村周辺を吹き荒らしました。

その激しさは村の姿を跡形も無く消すほどでした。


龍は自らの力で天候を生み出す事は出来ないのですが例外はあります。

それは度を越えた感情の力です。

銀太はその力を使い果たすまで天候を荒らしに荒らしました。


分厚い雲の隙間からお日様が姿を現します。

ようやく落ち着いた銀太は人一人いないかつて愛した地を眺めるのでした。

どうしてこうなったのか、しっかりと原因を見つめました。


最初はただ人々の喜ぶ顔を見るのが嬉しくって

自分の雨を降らせる能力が役に立つのが嬉しくって

自分の能力の秘密に気付いてもそのままその村だけを豊かにして・・・

そうしたらみんなその村を欲しがって・・・争って・・・。


銀太はようやく気付いたのです。

龍の力は世界全体に満遍なく行き渡らせるものだと。

どこか一ヶ所だけを豊かにするものではないのだと。


十分に反省した銀太は龍の里に戻りました。

今度こそちゃんとした龍になって世界の天候を過不足なく調整して

どこの国も飢える事の無いように

どこの国も収穫の喜びに溢れるように

銀太がそうなるにはきっとまだまだ長い時間が必要になるでしょう。

しかしこの苦い経験がやがて銀太を立派な龍にしていくであろう事は間違いありません。


分厚い雲の隙間から光が射してきた時、雲の上には立派に成長した銀太が

静かに笑って地上を見下ろしているかも知れませんね。



(おしまい)

天候を操る龍も子供の内は無茶をしてしまう。

気楽に書き始めた割にシリアスな話になってしまいました。

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