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ごそごそと炉の調整を終わらせて最終工程に入るとしよう。偶発的にいい素材が入ったんでちょ~っと面白いことを始めるとしよう。(黒微笑)
炉に火を入れて鞴をガッシガッシと稼動させ火力を調整する。その様子を見ていた両ギルド長が一瞬反応を見せる。それに気づかない振りをして調整完了した炉の中に作り上げた武器を投入する。
『両者最終段階に入ったようです。残り時間もあとわずか、ラストスパァァートでっす!!』
『それにしてもコクーン選手は炉から離れていったいどうしたんでしょうか。あれでは炉に入れた意味がないと思いますが……』
「総員! 対ショック体勢! 対閃光防御!」
兜装備扱いになっている溶接工マスクを被り耳を塞ぎ口を開けてしゃがみこむ。俺の姿勢に何かしら気づいた連中は同様に対ショック、対閃光対策を取り始める。さらに周囲の迷惑にならないように八角形三段、二重構造にした『ウォール』を炉の周囲に完成させる。次の瞬間カッっと白齣に塗り変えられるような描写がおこり周囲を染め上げる。そして衝撃がやってきて土煙が舞い上がる。
「ぬおおおおお!? お前――」
「ぐわああああ!? こん――」
轟音の中におっさん二人の声が聞こえた気がしたが爆音でかき消された。
「うっわぁ……、なんだこの威力。引くわ」
「おい! お前! いったいなにを使った!」
「あんな危険物を使用するなんて貴様は人を殺す気か!」
「えー? 会場に用意されていたものですけどぉー? あんなもの用意されているとは知らないじゃないですかー。ただの火を強くする材料だと思ったんですよー。ほら、あなた方のほうも使用したみたいじゃないですかー」
ばっと振り返った二人の目の先で先ほどとは比べ物にならないが下火になった炉の中から小規模な爆発が起こり炉が壊れた。
「ほら、あなた方ベテランでも爆発するんですからぁ? 使用方法を間違えて大爆発なんてしょうがないですよ。うちはまあ? 爆発なんて? 日常茶飯事と言うか? 毎食ですけどね」
少しだけ口を開閉させた二人だが、そこから何も言えなくなって睨むだけで帰って行った。なにせあの爆発物は彼らが用意したもの(鍛冶ギルド:爆発物。彫金ギルド:炉に彫金)をちょいちょいと弄くったものなんでそこを探られると彼らのほうが失格になる。俺? 別になくすものないし失格になっても痛くも痒くもないし。
そして詰め寄られていた間に上空に打ち上げられていた俺の作成物のパーツが落ちてきて冷やされた所を引き寄せて掴む。その作成物の形状は歪に歪んでいるとも見えるがこれできちんとした刀身である。これは偶然にも機嫌よく面白い素材を提供してくれた彼らにこっちも機嫌よく本気(の遊び)を提供してあげるための武器なんだから。
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『さ、さてアクシデントもあったようですが、全員の作品が出来上がりましたので皆様お集まりください!』
『さあ、これからは皆様にも興味を持て、理解が出来るようにただ単に鑑定などではなく作成された武器の威力、つまり試し切りが始まりますのでご着席ください』
ざわざわと鍛冶の技術に興味がなかった町民たちが会場内に入ってくる。会場の周囲には屋台が出ておりそれを回ったりして時間をつぶしていた。先ほどの大・爆・発なんてなかったような感じなので会場外には結界的なサムシングで衝撃は漏れてないようだ。
『今回の試し切りとなる的は鍛冶ギルドから提供された鎧人形。耐久値は人形、鎧ともに750。鎧の防御力500となっております』
『さて最初は鍛冶ギルド前ギルド長、ドヴァン選手!』
「ガァーハッハ! あんなパフォーマンスだけの小娘に遅れは取るわけないだろう! 見ておけこれがワシの傑作、ドヴァンガイアックスだ!!」
意気揚々と振り上げたそれは見ただけで無骨だが実戦向けに刻まれている刻印、鋭断、重撃、溶断となっており確実に両断を目指しているバトルアックスだった。
『見ただけでもかなりの威力を発揮するとわかる重厚な作りに付与された刻印は鋭断、重撃、溶断と意気込みが見えるものとなっています! そしてその使い手は前ギルド長ドヴァン選手! 鍛冶師でありながら第三前衛職、重装兵と腕っ節も強くそれによって道を踏み外した人物を叩き上げて戻したことは数知れず。戦場に立つことになれば自ら打った武器を携え走り回ることもあったようです』
『実力だけを見ればかなり上位に入るでしょうが腕っ節を今回に生かせるかどうかはその人の技量に寄りますね』
『ではドヴァン選手! お願いします!!』
「よっしゃあ! うおぉぉぉぉぉぉ! っしゃいっ!!」
説明されたとおり、速度はないが重量があるバトルアックスを持ちながらも軽快に走り向かう様子に誇張はないようだ。前鍛冶ギルド長はその軽快な動きを生かした助走を殺すことなくそのまま鎧にバトルアックスを外すことなく叩きつける。
鎧が破壊される音が会場に響き鎧人形が正中線で真っ二つに成っていることからその威力は紛れもないものだろう。
「どうだあぁぁ! この威力で刃こぼれもなし! 武器を買うならこの鍛冶ギルドで頼んでくれ!」
『宣伝も忘れない商人魂! 隠居の身であってもさすがはギルド長クラスの実力者! 堅剛な鎧を綺麗に真っ二つにしたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
その威力を目にした観客のボルテージも上がる。一番手にあんな派手なことをしようものなら普通だと後がかすんでしまうが、
「どうじゃ、負けを認めるなら今のうちじゃぞ?」
「ふん、あんな肉達磨でしか出来ないことで威張り腐っても自慢にもなりませんね。その目を良く見開いて私の作ったものを見てみるがいい」
次の彫金ギルドが送り出したのは中堅のように見える冒険者だ。彼の腰に佩いている直剣が製作物なのだろう。円形のナックルガードに使い手を保護する刻印が彫られている。たぶん裏側にも付与術の刻印があるのだろう。
『次は彫金ギルドの冒険者です。彼は彫金ギルドで雇われた護衛兼素材収集を主としているようです。ですが、実力は折り紙つき! 今回はそんな中ギルド長が作った武器、そしてギルドの誇りのために馳せ参じたようです!』
観客に向かって数度一礼すると腰に佩いていた直剣を引き抜くと先ほどのことからざわめいていた観客がいっせいに静かになった。それはその直剣ゆえか、冒険者の技量ゆえかわからないが、次の一瞬のために引き絞られた弓のように張り詰めていく。
そして一瞬、鎧人形に突き刺したと思ったらゴボンと剣先から背中にメガホンのような大穴が開いた。刀身には先鋭、収束、開放の刻印がそれぞれで相乗するように、かつ洗礼されたデザインで刻まれていた。威力としては先ほどのバトルアックスとは別ベクトルだが引けを取らないものになっていた。
そして剣を収めると最初にしたように一礼するときびすを返して前ギルド長の横へと立つ。
『……おおーっと! これは先ほどのドヴァン選手とも見劣りしない一撃! そして優雅! 護衛、雑用それだけではないと言うところを見せ付けたぁぁぁぁぁあ!!』
「ふふん、どうだ。こんなことは出来ないだろう。そっちこそ負けを認めるがいいさ」
「くっ、そんなの技術を持ってないやつは使えないだろうが! そっちこそ自分とこの飼っている冒険者の自慢をしに来ただけじゃねえか!」
最後の俺をほっぽって喧嘩とはいい度胸じゃねえか。お前らの喧嘩に俺を出汁で使おうなんてふてぇ奴らだな。まあ、あんたらのお陰で寿命を縮めるかも知れないものを作ったんだから自業自得もしょうがないな。
そう、しょうがないんだよ。どうゆう人物にどうゆうものを渡したのかさえわかってないんだから。
三千・・・、三千字・・・だと。
石を溶かしすぎての反動なのか脳が、脳が震える。




