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バタンと大きな音をたてて入り口のドアが開かれると、肩で息をしている女性二人が入ってくる。そして周囲を見渡すと目的の人物を発見したらしいので詰め寄ってくる。
「やあ、遅かったみたいだね。ここに連れてくるつもりだったんだろ? 先に着いていたのにあとから来るなんてどこほっつき歩いてたんだよ」
そう、俺に。のんびりと悠々に備え付けの椅子に座り、アイテム袋に突っ込まれていた茶菓子をムシャムシャ食べていた俺に。
「ぜぇ……ぜぇ……、お前が……何処かに、行くからだろう……」
「おかげで、ふぅ……、町中走り、回ることに……」
「だって、跳べる場所が一定の方向にないから色々行かないといけないし、普通に走ってここに来ても地理がわかるアンタたち相手だと逃げる方向でばれるからつまらないじゃないか」
「ただの遊びで追いかけていたわけじゃ……」
「はいはい、お二方ともあんな強迫まがいのことをしてたら誰だって逃げますよ」
奥から男性が二人にコップを持ってやって来た。中身が冷たいらしくコップの表面には結露した水滴が滴っていた。二人はそれを一気に飲み干すと頭を抱えた。相当冷たかったようだ。
「やあ、変弓さん」
「ん? ああ、プレイヤーか。てかその変弓ってなんだよ」
「変弓って言うのは掲示板でときどき出てくる言葉。変な戦いする弓兵。変態的な弓持ってるやつ。変態思考でテイマーしている弓兵。変すぎて弓兵ってなんだっけ? 変態達の巣窟のトップで纏めてる弓兵。むしろあの弓兵じたい変態じゃね? を纏めて略した呼び方ですね」
かなり嫌な呼び方が付いたようだ。だがまあ、嘘でも偽りでもないし、日本人皆変態だから間違いはない。
さて、いまの状況は放置していたイベントの最終段階のようだし、一日二日はスケジュールに空きがあるので悠長に遊んだわけだが、現状報告が知りたいのでここからはちょっとだけ真面目にプレイしよう。
「さぁてさて、俺を呼んでおいてその体たらくはなんなんだろうね? 技術ばかり磨いて体力ないんですかね?」
「はあ? こっちは力仕事だ! なめんなよ」
「そうか。んで俺が教えた後、二人は組んでどうなったんだ?」
足を癖で組み換えたあと二人と同じものをプレイヤー君に頼む。出てきた飲み物を飲むと程よく冷えた水だった。コップの底には彫金で彫られた冷却の魔方陣がデザイン性良く刻み込まれていた。俺には出来ない芸当なのでそういったデザインを付ける場合はここにでも頼みに来るかな。
「はい。それで先代は怒り心頭でしたが、私達が離れると少なくない人達が私達に着いてきてくれまして、そこから」
「んまあ、頭硬い連中が怒鳴り込んできて勝負になったんだよ」
「へぇ、それは大変だな」
「そうですね、大変でしたよ」
「ああ、大変だったな」
「「お前が何処にいるかわからなかったからな」」
「ふぅん? ……ん?」
「ん?」
『さあ、始まりました! ベテルラニ主催鍛冶技術勝負! 二組の確執を超えた末興ったこの試合。いままでのことを水に流そうともそれではすまない。顔がたたない。やるせない。ないない尽くしでもうカンカンだ! ならばとその元凶を潰してやろうと思い立って今日この日、見事実現しました鍛冶組合『チタニカル』組合長『ドヴォン』。彫金組合『ゴーカイマス』組合長『ザイン』。そしてぇぇぇぇ! 相対するはおかしなレギオン『流転の八雲』のレギオンリーダー! コクゥゥゥゥン! お互いの意地を賭けていざ勝ぉぉぉぉ負っ!! 実況はたまたま立ち寄った実況好きプレイヤー、ヽ(´∀`≡´∀`)ノがお送りします』
「んんん~??」




