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フレンド登録したあとに明星が居なくなり、夕闇が空を覆いだした。ダイブしてから初めての夜になる。
「その前に〜」
ギルドに向かう。受付にはキレイ系お姉さんのNPCがいた。
「こんばんわ。どのようなご用事で?」
「副職に就きたいんだけど」
「わかりました。…………、確認が取れました。では、副職業の説明を行います」
[副職業のチュートリアルを終了しました。以下のウィンドウ内から職業をお選びください]
副職業をつけることによるメリット、デメリットの説明やどのような事が出来るかを説明された。
副職業は生産、近接、遠距離他とタグ分けされていて、丁寧に検索欄まであった。手っ取り早くテイマーを検索して選択した。
[副職業:テイマーを取得。スキルポイントを1獲得しました。現在4ポイントです]
[取得可能スキルが追加されました]
職業が増えたからかボーナスなのかスキルポイント貰えた。このまま貯めるか使うか悩みどころだ。
「よし、手品にしよう!」
他にも取得できるスキルが増えていたが、前に気になってた手品を取得した。馬鹿? 何とでも言え。
手品を取得したことで技能も取得した。縄抜けと解錠だ。まさに手品の技!
「さて…………、テイムってどうすんだ?」
「おお、嬢ちゃん副職を取れるまでになったんだな!」
「あ、オッサン」
「オッサンとは……。まあいいが、いったいなにに就いたんだ?」
テイマーになったことを言うと顎に手をやり難しい顔をした。
「テイマーか……。難しい職業に就いたもんだな」
「それは百も承知。燃えるじゃん」
「ふぅむ……。なら、まずはここに行きたまえ。テイマーの基礎を教えてくれる」
渡された紙はこの町の一部を示した地図で、ポイントが打たれていた。
オッサンは気をつけろよと言って奥に引っ込んでいった。
気をつけろ? 街中で?
「まあいっか。行くの明日にしよう。今日はレベ上げだからな」
ぶれないよ!
町の外に出ると帳は降りきっていて、月明かりと町の明かりが光源だ。
初めてなので気を引き締めて町の明かりがふわっと見える場所まで来た。
「さあ来い!」
待っていると草が踏まれる音がしてそっちを向く。そこにはウサギがいた。
[ゲッコーラビット]
種:獣 エネミー Lv5
ランク1
「Lv5!? しかも名前ちげぇ!」
対面した瞬間に突進してきたので、その頭に短剣握り込んだ手でグーパンしてやった。そうしたら軌道が逸れて地面を滑っていった。
「あれ、よぶぁっ!?」
わき腹に衝撃が来た。何事かと周りを見渡すとヘイトマーカーが闇を捉えていた。じっくりそれを見ると姿が浮かび上がった。
[シャッテンラビット]
種:獣 エネミー Lv7
ランク1
シャッテン!? シャッテンて何!? しかもレベ高ぇ!
シャッテンラビットは直ぐに闇に紛れ消える。それと共にヘイトマーカーも外れた。
やべぇ! さっきので一割やられた!
先にゲッコーの方に行き立ち直る前に踏みつけ、矢を射ってそれを踏みつけ地面に固定する。
「どこだ……」
ゲッコーが騒ぐ音でシャッテンの方の音が聞こえない。ここは古来から言われるあの戦法で!
背中に衝撃が来た。軸足を基点に半回転して居るであろう場所を殴る。
「骨を切らして……」
殴った感覚はあるが、じっくり見る暇が無く、ヘイトマーカーもすぐに外れた。もう見えない。
てか骨切らせてどうする! 肉切らせろよ!
「だけぇどっ!」
近くの場所からガサガサと暴れる音が聞こえる。聞こえる場所を弓で探りながら調べると見つけた。
そこに倒れていたシャッテンラビットの後ろ脚に矢が深々と刺さっていた。
いや深々とは違うな。何故なら刺さっている矢は折れた矢だから。矢に括り付けて網を飛ばしていたが、耐久が少ないから折れた矢が出た。それを叩き込んだのだ。
「しっかし、こうゆうのは不便だな。なにか夜を見渡せるスキルは……」
シャッテンをゲッコーの近くまで蹴って動かしている間に、取得可能スキル欄を探っていると『梟の目』と言うものがあった。しかし取得コストは3……。手品取得は誤ったか……。
ゲッコーの近くに寄せた後、頸椎近くに短剣を突き刺し一気に断つ。ビクンッと跳ねてHPが消えた。もう片方にも同じようにして解体する。
ゲッコーは落とさなかったが、シャッテンの方が皮を落とした。
[影兎の皮]
・シャッテンラビットから取れる皮。
シャッテンラビットの特性がある。
シャッテンて影だったんだ。それでいてシャッテンの特性って闇に紛れるってやつかな?
これはアーチャーに必須だな。一枚じゃ足りないから他にも狩りたいが、複数出たときには死に戻るな。
徹夜しようと思ったけどまたにしよう。町に戻り宿に泊まってログアウトした。
一応片づけてた仕事の直しが入って、片づけたらゲーム時間で朝の10時になってしまった。
さて、レベ上げをと思ってポーチの中身の残量を確認したら、昨日貰った地図が目に付いたので行くことにする。
貰った地図をタウンマップで照合するとチェントロ内の生産区、畜産エリアの中を示していた。文字通り畜産のファーマーが仕事している場所だが、何故テイマーが?
と思ったが、テイムモンスターがロストすると肉を残したと言う書き込みを思い出して、なるほどと思った。
「すいません」
「はい、何でしょうか?」
「昨日にテイマーになって、ここ紹介されたんだけど」
「あ、ちょっと待ってくださいね」
そう言って奥の畜舎に走っていった中学生くらいの女の子。待っている間暇になるので、畜舎や柵の中にいる牛や人を識別していく。
牛はテイムモンスターだったり、テイム産だったりとそのどちらかで、働いている人はNPCか初日組プレイヤーが数人。プレイヤーは男が2、女が1。NPCの大半が男になっている。
プレイヤーはファーマーだが、NPCはファーマーとデアリーファーマーが入り交じっている。
[今回の行動で【識別】のレベルが上昇]
[今回の行動で【鷹の目】のレベルが上昇]
そして観察をしていたらスキルのレベルが上がった。
「君がテイマーの子だね。珍しい子もいたもんだ」
後ろから声をかけられた。後ろにいた人物はオーバーオールに長袖だがへそ出し、そしてオーバーオールを押し上げるさすが酪農家と言うほどに立派なお胸様を持っていた。まあ俺の勝手な印象だけど。
明星いたら喜ぶだろうなー。
と言うか、
(コレ目的だろ男ども)
俺の視線を感じたのか顔をそらすNPCとプレイヤー(一部女)。
「いやー、テイマーって人気ないんだよね。私の他にテイマー見たこと無かったしね」
「そうだな。サモナーや精霊使いは呼び出せないだけだけど、テイマーはロストするから」
「それをわかっててなんで選んだの?」
「その方が面白いから」
「生意気だね」
そう言って手をこちらに伸ばし、
「胸みたいに」
胸を揉まれた。
いやあんたよりはお淑やかだよ。と言いたいけど。
「俺中身男ですから。てかなんで揉んだんですか」
「そこに山があったから」
「そこに山脈聳えてんじゃん」
「自分の巨ちん○触って楽しいかい?」
「そのくだりもうやりました」
この人明星と同じ人種だわ。取りあえず手を払って一往復のビンタかましといた。
「あいたた……。力あるんだね」
「アーチャーですから。それと特別に肩からスナップ利かせましたから」
「愛が痛い……」
「初対面です。愛などない躾です」
通された応接間みたいなとこで対面で話をしている。
泣き崩れる仕草をしたが、無断でセクハラしてくる奴には容赦はしない。
「話は戻すけど、テイマー初心者だから経験者の私を紹介されたんだよね」
「話を投げ飛ばしたのはあんただけどな」
「じゃあ自己紹介から。私はアクロア。主職業は槍使い。ぴっちぴちの16歳です♪」
「コクーン。主職業はアーチャー。ランサーって戦士の上位職?」
「そだよ」
16歳と言う明らかに嘘臭い台詞は流す。
近接戦闘職のソルジャー、遠距離職のアーチャーが一般的で、初期武器が安定している。他にもランダムで初期武器が決まる庸平、西洋甲冑と盾が装備できない武士、能力が平坦の歩兵、初期武器なしの格闘家などがいる。
レベルが幾つか知らないが、スキルと関連して上位職が増える。
「で、何から知りたい? お姉さん何でも教えちゃうよ〜。3サイズが知りたいって〜? う〜ん、どうしようかな? 上から〜……」
「経験人数は」
「……へ?」
「経験人数は」
「ちょっと待って!」
「SE○した人は何人。女性も可」
「待った、待った! タンマ〜!!」
ちょっとした好奇心だった。ゲーム内NPCのAIがどう答えるか知りたかっただけだ。他に他意はない。
NPCとは言え女性に対してあるまじき質問だったと思うが、それでも俺は謝らない。
「さて、冗談半分は置いといて、テイムの仕方と世話、あと必要な物を教えてください」
「半分本気だった!? おほん。じゃあ説明するね」
「早くしてください。レベル上げないといけないんですから」
「わかったって……」
経験人数をしつこく迫ったら泣き出してしまって、あやすのに時間をくってしまった。泣き止まない振りして股間に顔つっこんで尻を揉みしだかれた時は、見様見真似のカウ・ロイをおみまいしてあげた。
「まずテイマーに必要なのは牧場だけど、これはテイマーになると渡される。一人に1つ展開できるけど、後々のために私は幾つか渡されて持ってるから後であげるね」
「ファームの大きさは一定?」
「テイマーのレベルと比例して大きくなるわ。ファームは町やどこかにあるポータルみたいに安全地帯になってるから」
ログアウト出来るみたいだ。なんか楽できそうだな。
「あ、あとフィールドで開いてから閉じると一定の場所でまた開けないから。あとは識別とかで確認してね」
「ウス」
案外不便だった。一定の場所と言うのは八方位に広がるマスの内の一マスだろう。
「あとテイムだけど、3つ4つ方法があってね、一つ目が力を示すって方法で、倒す手前でテイムを使うとテイムする事ができる。これが一般的だけど成功率は20%ってところかな?
二つ目が錬成複製って奴で、ドロップアイテムを必要数集めて行うと100%でテイム状態で現れるの。
三つ目は交配。つまりは産み増やしってわけ。これで生まれた子はテイム状態だけど、テイム産って表示されるわけで、他のテイマーにあげることができるわけ」
つまり捕獲、復元、産ませるってわけか。産み増やしは複数テイムしている事が条件なんだろう。つまり現在できるのは捕獲か錬成複製ってわけだ。
「で四つ目がテイマー限定って訳じゃないけど、嘘か真か知らないけど神獣に認められると貰えるとかなんとか。まあこれがテイムの方法ね」
テイムの方法は概ねわかった。あとはヘルプを見ればわかるだろう。
「世話の仕方は、甲斐甲斐しく世話したらその分強くなるよ?」
「……それだけ」
「うん、これだけ」
世話の説明がこれだけと簡単すぎる。テイムモンスターは寿命はないし病気の確率も少ない。しかも金さえ払えば餌は自動と言う利便さ。
「じゃあ最初のモンスターだけど、錬金持ってる? 持ってなかったら取ってね」
「やです」
今は梟の目を取りたいから他のを取りたくない。
「取りなさい」
「やです」
「お嫁に行けなくするわよ」
「逆に顔を潰します」
「恐っ!?」
話し合いをしたあとにテイマー、サモナーに錬金が必要であり、コストは1となっているらしい。
それでも梟の目が欲しいから渋っていると、アクロアが折れて何かを取り出した。谷間ではなくオーバーオールのポケットから。
[錬金術の魔法陣]
・錬金が使えなくても魔力を使用して錬金が行える布。
「特別にこれ使わせてあげる。素材の肉は何持ってる?」
「肉?」
錬成複製はドロップの肉を基点にして、他の皮などのドロップ品を使って復元させるらしい。
肉……、肉かぁ……。
「手羽ならあるけど」
「え? 普通は兎の肉を持ってないか?」
「売っちゃったからなぁ……」
手元にある素材は鳩の羽根と烏の三種の羽根、あと手羽とモミジくらいしか無いからなぁ。
「まあいい。それでいいわ。それと他のドロップ置いて」
言われた通りに黒手羽と黒モミジを置く。
素材が足りないと言われた。
「これ使えるかな?」
濡れ羽根を乗せても反応しない。諦めてモミジと黒手羽を引っ込めて三種の羽根と烏の手羽を置くと、復元しますか? と出た。
もちろんYESを押す。
魔法陣が発光して供えたアイテムが一つの光の玉に変わる。そしてカラスの姿へと変わり、光が収まるとクロウがいた。俺のクロウだ。
「ランクが1だったから簡単に成功したけど、ランクが上がるに連れて成功率も減るから、上げるにはいろいろ手段があるわ」
そこまでしか言わないのは自分で探せと言うことだろう。
復元されたクロウは俺の肩に乗ってきたが、痛いので振り払った。クロウは座っている背もたれに乗った。
「これで終わりだろ? ファームくれや」
「胸の中にあるから取って?」
「よし、摘出する」
「待って冗談だから! はい」
そう言って渡された物は畜舎の模型がガラス玉に入ったような物だった。識別しても言われた通りのファームだ。
「ありがとさん。もう来ねえから」
「また来てね!」
完璧話聞くつもり無いな。応接間を出て入り口を潜るとダッシュでギルドまで戻った。
[name:コクーン]
種族 人間 女 Lv5
職業:アーチャー Lv5
副職業:テイマー Lv1(新規)
STR:17
VIT:19
INT:10
SPD:25
RES:12
TEC:27
[スキル]
弓Lv3 短剣Lv4 ダッシュLv5 工作Lv3 識別Lv5(↑1) 鷹の目Lv5(↑1)
アクロバティックLv4 耐毒Lv1 手品Lv1(新規)
[name: ](新規)
種:クロウ Lv1