44
本当に月一での更新になった。
うわぁい、お仕事。ワタシお仕事大好きぃ。
ニートりたい(泣)。
「そもそも私は初対面ではありませんから」
初対面ではない? その言葉どおりに受け取るなら一度は顔を合わせていることになるのだが、どこであっているのだろうか。この女性プレイヤーはかなりの美形の部類だし、どこかで会っていれば記憶に印象がヒットして引き出されるはずだ。
「失礼かも知れないけど俺とどこで会ったの?」
「おや、忘れ去られているとは・・・、いや、そう言えばメイクをしていませんでしたね。これでは一度顔合わせしたくらいではわかりませんよね」
一度顔合わせ? そう言った場面なら一度ある。
イベントのラストを締めくくるための最終イベントが始まる前にレギオンの上二人が集うアレがあったな。
「その顔は思い当たる場面を思い出したって顔ですね。ならばすぐにでも思い出すでしょう。しかし、いくらゲームでもメイクをしてスキルを所持しているとこうも他人を騙せるものなんですね」
そう言ってポーチから筆や小瓶を数個取り出し、小瓶の中の固形物や液体、粉末を筆に付けると顔に塗っていく。取り出したものはゲーム内での化粧道具だったようで、鏡を見ずに一気に塗っており良くできるなぁと感心ものだ。
そうして化粧が施された顔は前の見覚えがない顔から見覚えある顔へと変わった。そう、あれはレギオンの顔合わせの時になんか痛い系のアイドルがトップだったレギオンの副リーダーだったはず。確か名前は……。
「ミケラン「ラファローです」
「いやいや、ラファローね。ラファロー。で、ここで何してたの」
「あなたには関係ないことです」
「そやね。まあ、歌の練習ガンバね」
なにか言いたそうに離れていくこちらを睨むがワタシハナニモシラナイ。ナニモシラナイノダ。
「それを知っていてどこに行こうと言うのですか?」
「ワタシ、関係ナイイワレタネ。シラナイナラ、場所ハナレル。コレ鉄則ネ」
「実はですね、誰も寄り付かないここで歌の練習をしていたのには理由がありましてね」
「ワタシ関係ナイネ。ワタシノごーすと囁クヨ。先ニ進ムコト吉ト」
「私が所属しているレギオンのメンバーは全員が外でもアイドル活動している面々でして」
「止スアル。ナンカどろどろトシタあいどるノ抗争話トビデテクル雰囲気ネ。ソユコトハ画面向コウデワタシ関係ナイトコデ解決スルアルヨ」
何も聞かなかった見なかったことにしてクールに去ろうとした俺の肩を掴み何か話し始めたこのミケランジェロ……じゃなかったラファロー。
離せ! 離せこのやろう! 俺は、俺はこの先の場所を見に行くんDAー☆
「――それで化粧で少々姿を偽って歌手になろうとした私はリーダーのメグメグの引き立て役としてスカウトされましてね、メンバーの誰も私の素顔を知らないから休日は趣味に没頭していたのですがメグメグが人気爆発中のこのゲームの第一陣でして、アイドル活動の範囲を広げるために上に提案したらあっさり通りまして――……(うんぬんかんぬん)」
「あばー……」
アイドルのネタは収集し終えているので要らない情報を無理やりに押し付けてくるラファローの恨み辛み節がトッピングされた長話に魂が口から出て行く幻を斜め上のほうから見ている。おや? おかしいな、フルダイブだから視点が俯瞰になるはずがないのに勝手に切り替わってるぞ? おかしいなあ~。HAHAHA!
「――で、ですね。こっちでも人気が出始めてほぼいじっていないアバターですから軽く探すと出てくるわけでして、そのせいでテレビ番組出演も入ってきたんですよ。バラエティがほとんどですが。それでそのバーターとして私も同行するわけなんですが、そのために歌の練習が出来なくて、私は歌のほうを志望して入ってきたんですよ。それなのに顔が綺麗なだけで歌も踊りもそこそこでテレビ出演が目的のメグメグと一緒に行動するようになって最近歌声の歌唱域が狭まってきた感じがするんですよ――」
「あばー…………ば? なんか重低音と言うか破砕音と言うか、そんなのが近づいてきているような……」
「――それからと言うもの、え? ホントですね。なにやら周囲が騒がしくなってきているような。でもおかしいですね。ここはセーフエリアですし、湖から流れ出る川も100m付近まではセーフエリア扱いのはずなんですが」
あれ? 俺が休憩してたとこもセーフエリアになっていたのか。だから休憩中に何も襲ってこなかったのか。
だけどそれが本当ならこっちに近づいてくるこの重低音と地響きはいったいなんだというんだ?
「何だと思うかね?」
「知らないし知りたくもないよ」
何がきても対応できるように縄鏢もどきとバナパスを取り出しラファローに問いかけるとつらない言葉とともに自らの武器を構える。
「え? それ槍? ロッド? メイス?」
「一応分類的には槍になっている」
ラファローが構えた武器は鈍色の持ち柄に先のほうにマイクが付いており、その周りを円形のパーツで囲っていて上に一つ、15°の角度で左右に一つずつ穂先が付いている。それに反対方向に105°間隔で足が付いている。
俺が言えた口ではないがそれ武器? 武器なの? 作ったやつ頭おかしくね?
「ちなみにコレはレギオン内の同じ事務所の小道具さんが作ってくれました。ちなみにコレはマイクとしても普通に使えます」
「ちょっと紹介してくんね? その頭おかしい奴と知り合いになりたい!」
「冗談ですよね? それ」
「え?」
「え?」
「……………」
「……………」
なんか本気で頭おかしい奴みたいだがフレンド登録を本登録にして後で紹介してもらおう。なんか面白いスキルとか知ってそうだし。
「キタルファたちは巻き込まれないように下がってろ。武器はちゃんと構えてろよ?」
「ちょっと、あんな変な武器作る人が増えるのはいやですよ!」
「……(グッ!)」
「いい笑顔で親指立てないでください!」
「大丈夫だ! なぜなら俺はテイマーだからな!」
「不安しかない……」
いいツッコミをお持ちで。
そんな掛け合いをしている内に重低音が近くまで寄ってきていた。そして茂みが揺れ始め影が飛び出てきた。
「おお! 君達ィ、いいところに居てくれた!」
「プレイヤーか!?」
茂みから出てきたのはぐるぐる眼鏡の白衣姿の男性だった。しかもそのプレイヤーから放たれた言葉に驚かされる。
「ちょっと後ろのドラゴンを一緒になんとかしようではないか!」




