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超前線の一箇所で泥系や岩系、巨虫系やゴーレム系のモンスターをダッシュスキル全開で斬り刻んだりしているとイベントの進行具合を示すゲージがいつの間にやら80に到達していた。道理で周りから現れるモンスターの姿が見えなくなっていたわけだ。
走り回っていたから空腹度が上がってきていたり、武器の耐久が減っていたりと次の波に備えるために携帯食料を含み、スキルで武器を修復する。行きは飛んできたから早かったが帰るときまであの移動方を使うまでも無いので歩いて帰ることにして森に対して踵を返す。そのとき、個別チャット画面が激しく明滅した。
『危険』『危険』『油断』『背後』『背後』『巨大』『敵』『背後』『避けろ』……
何度も繰り返されるティグアから送信されてくるその文字群の意味を考える暇も無くその意味を直接知らされる。
「風切……音!」
大きく質量を持った飛来物の風を切る音を捉えたのでその場からダッシュスキルのサイドステップを発動させ避けて後ろを振り返る。しかし、発動のタイミングが遅かったのか、それとも飛来物の飛ぶ速度が速かったのか。それともその両方かもしれない。
左腕が消し飛んでいた。
「うおおおおおおおおぉぉぉぉおおお!?」
状態異常の一つに身体欠損が存在する。コレは文字通り体の一部が捥げたり切られたり炭化したり様々な要因で使えなくなっていることを指している。そして、この状態はHPが回復すれば元通りになるのだがそれまでは他の状態異常にもある流血、鈍痛、激痛など現状に準じた継続ダメージ状態を複数まとめて持った状態と同じになる。このスリップ状態では表現が緩和されていてヒリヒリやジクジクした感じが与えられるのだが緩和していないとかなりひどいらしい。
ゲーム内で欠損や重体の状態では緩和していないときその激痛により気絶やトラウマなど精神にひどくダメージを与えてしまうため、そこまでのダメージを負った場合その情報はすべてカットされることになっている。開発段階での実験でトラウマや廃人になりかけたスタッフが出たために処置されたものだ。こういった常識では大事故でしか味会わない状態がホイホイと転がる原因が居るため必ず必要になってくる。
つまり、その程度の状態になると無くなっているにも関わらず痛みは無いからプレイヤーはかなり驚くと言う。
「うぼぁぁ……」
今の俺みたいに。
それでも呆ける時間は無いようで視界内から得た情報では森の中にモンスターの影があるのを捕らえ、第二射の予測線が俺の心臓に当たる。
本来ならば飛んでくる物が通る場所はその放たれた者の目線や姿である程度予測するが、それが苦手な人たちのためにこういったサポートが用意されている。それが予測線。
平和な場所で育った人間にいきなり体感速度は目の前から一斉に放たれる矢と同じだから避けてと無茶振りしてもどこに飛んでくるかわからない矢を避けられるわけが無いので、視界内や察知スキルで捉えた打ち出されるものには予測線が付く。その速さに勝てないと俺みたいに撃ち抜かれるが。
『敵の数、姿、得物は!』
『敵影1。姿は……人型。得物は弓だ』
『弓か。場所は』
『森の中だから捕捉し続けれん』
ティグアが言うとおり遮蔽物が多い森の中にいられては特定しづらい。短弓に持ち替えながら木々の隙間から見える影を追うが、敵は素早くそしてトリッキーに動いて直ぐに視界から外れる。隠密だかなんかのスキルだろうが、ヘイトマーカーが無いのでそれで人影を追えない。
敵が移動しているうちに回復のために『ヘルスポーション+2%』を取り出し口でコルクを開けると吹っ飛んだ腕の断面にぶっ掛ける。するとHPの回復と共に光のエフェクトが集まり新しい腕が形成された。腕が生えたはいいがその吹っ飛んだ分の袖がなくなっているので素肌が露出している。俺の持っているスキルでは布製の装備は直せない。カワラギにあとで修復してもらわなきゃな。
そして同時進行で敵を探しているうちに森の前面を視界内に心臓と頭を予測線が貫いたのが見えたので、瞬時に後方にステップで避けてその方向に目線を飛ばす。一瞬だが俺の目にも敵の影が見えた。多分居ないだろうが牽制のために矢を放つ。
『敵の全容が見えたらすぐに送ってくれ』
そうメッセージを送ったときに次の予測線が俺を貫いたのですぐさまその場からダッシュで離れる。
敵の的にならないため走ったまま森の中に突っ込む。が、さっき送ったメッセージが無駄になることに気づいたが、完全に狙いを定めた予測線が目の前を通った。
「おいおい。なんつー予測線だよ。完全に俺(の命)を打ち抜きに来てるぜ」
木の幹を掴んで無理やり曲がってその予測線は避けたが足に何かが絡まって体が前方に投げ出された。そしてそれを狙ったかのような予測線が三本。それを避けるため持っていた短弓を地面に突き立てその勢いで斜め上の方向に跳び、進行方向にあった枝に足を引っ掛けて上体を振り子の要領で起こすとさっき俺の体があった場所を矢が通って幹を貫いた。
「ちょっと待て、一射目級の威力を持った矢が二連射とか悪夢としか思えない」
それよりか、常にあの威力で障害物を貫いて俺を狙ってきたから普通並みの威力になってるとか言わないよね? 言わないよね?
予測線が頭を貫いたので急いで別の木に飛び移ると今度は五連射で同じ威力だった。
「……wwwwwww」
やっべ、笑いしかでねえや。しかもスラング並みのヤツ。
捕捉されてるとやばい敵との逃走劇を繰り広げながら送られてくるティグアや他のレギオンのチャットを見て情報を収集していると、他のところ、と言うか俺以外のプレイヤーは波の間の休憩時間なのか敵と交戦しているヤツは居ないみたいで、修復や回復をしてラストに備えているらしい。くそう、これが運営の罠というヤツか!
つまり、こいつはイベントに関連するものではなく俺個人に何らかのフラグで襲い掛かってくるエネミーと言うわけか。……巨人だよな? 多分、メイビー。




