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討伐率が20%を越えたあたりで一旦第一波のモンスター群の襲来は終わり、プレイヤーの死に戻りも少なく、この一週間内で鍛えた連中ばかりだから今の程度では危険には程遠いようだ。嬉々として乱戦の中、現イベント内限定の自動回収システムでポーチに収納されたアイテムの確認を行っている。そのほかにはこの空いた時間で今の自分のアイテムや武具の現状把握をしており、消耗が激しい場合は生産レギオンに駆け込み、そのため生産レギオンがフル回転しており急がしそうである。
モンスターの襲来が20%で区切りと言うことは最高でも五波、前後して最大でも七波までだろう。今は早々に殲滅したため次までの時間が空いたのだろうが、この次、最後のほうになると追加が加わって連戦なんてありえるだろうな。ここは同じ様な襲来イベントが繰り返されるオンラインゲームでもクリアするまでレベル上げを待ってくれるようなRPGでもないのだ。時間を掛ければかけるほど振りになるだろう。時間を掛ければタイムアップや援軍が来るなんてそんな美味しい展開になるわけでもないだろう。ふりかけと違ってな。なんてね。
「今現在の損耗は軽微、生産レギオンの素材もそんなには消耗していないみたいだ。ほれ、今イベントでは料理レギオンに頼ろうとしてたんだろ? ほかのプレイヤーみたいに。長丁場になるだろうから今のうちに食っとけよ」
「……まさか、空腹のデバフが50を切るとかかるとはな。まったく、何時も私は見通しが悪いな」
「それは前のときもそうだっただろ? 弾は現地調達でどうにかなるからと身軽目に用意して行ったらカツカツになるなんていつものことだっただろ」
「それで、いつもいつも金銭でカツカツのお前の所持品に助けられてとかだな。日常でもお前には助かってるさ」
「それはお互い様だろ。俺とお前じゃ見る場所が違うもんな。大なり小なりな」
今は前線で暴れていたプレイヤーの空腹度がかなり減っていたらしく、料理ギルドや飯店ひは今にもジャッキーが暴れそうな雰囲気をかもし出している中華飯店のように繁盛してプレイヤーでごった返している。俺にはごっそりと買っていた携帯食糧があるからそんなならばなくてもいいから楽だ。味は別として。
時間的に三時間ほどで終わった第一波だが、その合間の休憩時間に如何に損耗を補充するかが鍵になるだろうな。チャットの方でもそれが議題に上がっている。相変わらずアイドルレギオンのメグメグの書き込みは無い。チャットの中では部下のほうから上げられた報告で北東の場所にレギオンメンバーを展開しているらしい。実に危なげなく対応していたみたいだ。しかし、なんか盛り上がってるところがあると思ったらそこに居たんだな。
「見えた」
「こちらもだ」
見張っていたところから零れるようにモンスターが現れてくる。チャットの方にもZからの報告が流れてくる。頭の中に次波のアナウンスは流れない。コレは気を抜いていると戦線を抜かれるな。
「どうする?」
「現場判断だな」
「やっぱりそうだよな~」
森から出てくるモンスターに対して損耗が少ないプレイヤーや回復させたプレイヤーが当たって戦線を作っていく。その数は少ないが、最初の波で満員電車並みにすし詰めからほこてん位に動けるようになったのでその分対応が早くなっている。
小型のモンスターの湧き数に戸惑い気味だが南東以外は何とかなるだろう。南東以外はな。
「あれはやばそうだな」
「ああ。何であんなにもごっそりとモンスターが出てくるんだか」
「他は前と同じような数のはずなんだが」
「俺の所為かな?」
「さあ? 知らんが、そう思うなら加勢に行きたまえ」
「そうするさ。ウサギは……持っていくか」
さて、ここから近いといっても移動を考えると一人二人死にそうだからコレの出番かね?
[剛弓:カスタム]
ATK+30 VIT+15 耐久55 重量20
【頑強】【剛力】【強靭】 付与【攻撃上昇:微】
・木材の変わりに鉄を使用した大きな弓。頑丈、しなやかな性質を持つ素材を使用しているので木製のものより強力。弦には石猿の尻尾から厳選された繊維を織り合わせたものが使用されている。
ランク7
[特急風切の轟槍]
ATK+29 SPD+20 耐久70 重量28
【風属性:大】【俊足】 付与【速度上昇:微】
・試行錯誤の上、属性を増大させた投槍。その分重く、まだ試作段階と言えるが運用は出来る。
ランク5
槍のほうに縄を括り付けて弓に番える。コレはよくアニメなんかで見て笑ったりもするが、さて自分が体験するとなる怖さが湧いてくるね。気分は天井ありきの逆バンジーにセットされてるような感じだ。ダメージがかなりきそう。
でも、俺なら出来る。いける。男は度胸、女は愛嬌っていうし今からがんばる俺は両方持ってるから最強に見えるってやつだ。きっと。
「着地点は戦線を越えた先、後ろから出てくるやつを討つんでカバーは任せた」
「ふっ、お前はだれにものを言っているのかわかっているのかね?」
「わかって言ってるさ、相棒」
番えた槍の石突から指を離すと勢い良く発射された槍は線の残像を残して衰えることなく空へ伸びていく。腰につながり弛ませていた縄はしゅるしゅると結ばれた槍に追従して伸びていく。
「死なないようにがんばれよコクーン」
「死なないようにがんばるよティグア」
腰にグンッと強力な力が掛かり張力によって踏ん張ってない俺は空へと向かう。
「……あ、エージェント蛇のフルトンと同じなんだな」
ティグアがなんか言ったかもしれないがこっちにそんな余裕は無い。なぜならノーヘルノーフロントガラスでF1しているみたいな感じで顔面にダイレクトウインドして超辛い。腰も発射の勢いでちょっと痛めたかも知れんから到着したらまずは回復しよう。




