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今日はもう仕事など手につかないだろう。そう思って、仮病でも使って帰らせてもらおうと考えてふと時計を見る。
「あっ、やべー……昼休み終わってる…………。まっちゃん、その二人はあそこの木陰にでも隠してて。すぐ休みもらってくる」
このまま帰ってしまってもよかったのだが、わりと律儀な俺である。
ふとまっちゃんを見るとなぜか悲しそうな顔をしている。
「永志……その必要はない……」
「は? なんでだよ?」
「……多分永志は忘れられている……お前を覚えてる人は、もういない」
まっちゃんは何を言っているんだ? そんなことを言われても納得できない。
「……自分で確かめてみた方がいい。誰か……そうだな、家族並に関わりが深い人には話しかけるな。その人もこちら側に引き込んでしまう可能性がある。まあ、職場の人なら誰でも大丈夫だと思うが……」
まっちゃんにそういわれて俺は走ってある人物を探す。……見つけた
「ジョ、ジョンさん!!」
ジョンさんが振り返り少し息を切らした俺を怪訝そうに見つめた。
「えーと…………どうしたんだい?」
「えっと…………すいません、体調が悪いので早退したいのですが…………」
「そうだねー……君はどこで働いているんだい?そういうのは自分とこの上司に言わないといけないんだが…………」
……覚えていない。
「あの……俺のこと知りませんか?」
「あれ?会ったことあったけ?そういえば私の名前も知っていたねー。まって、今思い出すから」
うーん、と唸りながらジョンさんは考え込む。
「……いえ、すいません。俺が勝手に知っていただけです……失礼します」
俺はその場から走り出す。忘れられるというのはこんなにも悲しいものなのか。この前泣いたのはいつだっただろう、涙が、溢れ出た。
なんとか涙を止めてまっちゃんのもとに戻る。目が赤くなっていたらばれていたかもしれないが…………。
「……確かに忘れられていた」
「……すまん」
まっちゃんが謝る。
「俺と会わなければこんなことにはならなかった」
「………………」
「……すまん」
まっちゃんが謝る理由はどこにもない。ただ、それを否定する言葉を言うことはできなかった……。




