18
ああ、眠い……。それに少し寒い、かな。ここはどこだ?
――――俺は、死んだのか?
「…………じ!…………いじ!…………永志! 起きろって言ってるでしょ!」
バチン
誰かが俺のほほをぶっ叩いてきた。誰だ、いきなり手をあげる失礼な奴は……。俺はしぶしぶと目を開く。
「うるさいな……なんだ、俺は死んだんじゃなかったのか? ヤマツカミにいきなり銃で……」
「安心しなさい! あなたは生きてる! 逆に今までが死んでいたと言ってもいいわ」
「今までが死んでいただと!? いや、俺達は生きていた! あの夢の世界で……」
「夢を見ているだけだったら死んでいるようなもんでしょ!」
「だから違っ……!!」
ほほをぶったたいてきたり、いきなり失礼なことを言い続ける人の顔を一目見てやろうと目線を移し、思わず言葉が詰まる。そこには少女が立っていた。年の頃は十七、八歳。瞳の色は透き通るような青。金色の美しい髪。そして、誰が見ても美少女と呼べるその容姿
「どうして……」
彼女は初めて出会った時の全く同じ容姿をしていた。なぜだ? ついさっきまでの彼女は三十代のおばさ……女性だったはずだ。
「うん? 誰と勘違いしているか分からないけれど、私とあなたは今初めて会ったわ。私はエリス。よろしくね」
エリスという少女にそう言われて、じっくりと彼女を見定める。一見すると全くマリアと同じ容姿をしているが、よく見るとマリアとは違う点がいくつかある。
一つ目はマリアより鋭い視線を向けるその目だ。マリアはいつも優しく、柔らかな視線だったからな。
二つ目はマリアが胸辺りまでその髪を伸ばしているのに対し、エリスは肩あたりで切り揃えられている点。この髪型はマリアより少し眼光が鋭い気があるエリスの方似合うかもしれない。
そして三つ目。最重要にして最大の相違点。
「小さいな……」
「……何か言った? それに私のことをジロジロ見て……。何? 私の容姿に見惚れたのかしら?」
「いや、何でもない……。君が俺の知っている人によく似ていたからさ……」
胸だ。エリスの胸はマリアと比べ、いや、比べる必要もなく小さかった。
「どうして俺を助けられたんだ? それに、ここは……」
辺りを見渡すと変な装置の付いたカプセルが見渡す限り存在していた。ここは今まで俺達がいた夢の世界じゃない。ここが、この世界こそが……
「お察しの通り、ここが現実の世界よ。あなたはプログラムがエラーを起こして、あの世界から排除されそうになったの。間一髪のところでそれに気付いた私があなたを強制的に目覚めさせたってわけ」
プログラムのエラー……? いや、あれはエラーなんかじゃない……。ヤマツカミが自分の存在を認識し、必死にその運命から抗おうとした結果、俺を排除しようとしんだ……。彼らは、あの夢の世界で確かに……。
「生きていたよ……。俺達と同じように……」
エリスが俺の独り言を聞いて怪訝な顔をする。俺は首を横に振り、なんでもないという意を示す。
そこで、俺はあることに気付く。俺が助かったなら……
「まっちゃんは!? まっちゃんは助からなかったのか!?」
俺の疑問を聞いてエリスが渋い表情になる。
「正隆のことね……。彼はあなたとは事情が違う。彼は自らの意志で殻に閉じこもってしまった。もう一度起きられるかどうかは自分次第よ」
その言葉を聞いて俺はホッとした。
「だったら大丈夫だ」
エリスはなぜそんなことが言い切れるのかと目で問いかけてきた。
「あいつはこのまま折れてしまうほど弱くない」
まっちゃん程強いやつを、俺は知らないからな。只、今は休憩しているだけだ。休憩が終わったらまた必ずあいつは立ち上がって歩き出す。いつも俺達を、”鷹の団”を前で歩いて引っ張ってくれたのは、まっちゃんだ。




