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深層世界  作者: NAAA
第四章
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16

「まっちゃん! まっちゃん! どうしたんだ!?」


 まっちゃんの元に駆け寄りながら俺は叫ぶ。ゆっくりではあるが確実にまっちゃんの体は光となって消えていた。


 イシスの手に触れられて眠るように死ぬのとはわけが違う。それに、今ではそれが本当の意味の死ではなく、急速に世界を終わりに向かわせないために行っていた予防措置ということが分かる。そして、イシスの手に触られた人は記憶を消され、もう一度この世界に戻ってくる。“イシスが体に手を振れる” これが絶対的に必要な条件だった。それを俺達が邪魔をすることで、世界に違和感を持つ人々が増え続け、世界は終わりへと歩み始めたのだ。


 この世界における本当の意味での死。それはまっちゃんから滲み出ている光が発生するときに起こる。俺は今まで三度、その光を見てきた。オーディン、クレイオ、そして先ほどのイシス……。ただ、彼らは現実の世界に肉体があるわけではなく、この夢の世界に作られた存在だ。


 現実の世界に肉体を持つ人々がこの世界で死ぬことはなかった……。唯一の例外を除いて……。


「正隆! おい! しっかりしろ! 正隆っ!!」


 シコウがまっちゃんの肩を支え、必死に呼びかけている。シコウはきっと弟のことを思い出しているのだろう。そう、唯一つの例外……それはシコウが話してくれた弟の最期だけだ。


「どういうこと!? 何でまっさんがっ……?」


 アルが隣にいた元うさじいであるところのゴーダマ・シッダールタに問い詰めている。


「いえ……これは私にも……」


 どうやら、まっちゃんが光になっているのは彼らにとっても予想外のことであるらしい。


「正隆君っ! 正隆君っ!」

「まっちゃんっ! しっかりしろっ!!」 


 俺とマリアの呼びかけに、まっちゃんは僅かに頭を動かし、目線を地球のモニュメントに向けた。


「最初は一人だった……。長い、長い間ずっと俺は一人で戦ってきた……。全ては家族を見つけ出すためだ。でも、真実はどうだ? 俺の家族はずっと前に死んでいたんだ……」

「まっちゃん、それは……」


 まっちゃんが目を向ける地球のモニュメントの中で小さく存在している島国。そこに俺とまっちゃんが住んでいた……。その国では眠りにつく直前に……。俺の家族は奇跡的に全員生き残ることができたが……。


「人類が冷凍保存される直前になって、その装置が人数に対して足りないんじゃないかという噂話を信じた愚かな人たちの手によって俺の家族は殺されたんだっ……!」


 自分が生き残ることに必死になると人は他人を信じることができなる。まっちゃんの家族はそんな人の醜さが生んだ犠牲者だ。


「俺と永志はそんなときになっても高校に通っていた。今考えると脳天気にもほどがあるよな……。俺が高校から帰ってきたら俺の家は荒らされ、中に入ると血まみれになった父さんと母さんがっ……!」


 まっちゃんの瞳から涙が溢れ出す。俺が見た親友の初めての涙。


「今までずっと追い求めていた真実がこんなんだった……。俺は誰よりも長く真実を追い求めていたのに……。それならこんな事……」


 まっちゃんから滲み出る光が加速する。


「違う! まっちゃんのおかげで俺はまっちゃんのことを思い出せた! まっちゃんだって大切な家族の記憶を取り戻せたんだ……。今まで俺達してきたことが無駄だったなんてことはあるわけがない! だから、まっちゃんっ……!」


 俺の必死の呼びかけに、まっちゃんは泣きながら笑う。こんな時まで意地をはって強がる彼の姿を見て俺の目も涙で滲む。


「ああ、そうかもしれないな……」

「だったら、まっちゃんっ……!」


 まっちゃん。まっちゃん。お前のためなら何でもする。このまっちゃんって呼び方が恥ずかしいならやめてやってもいい。だからっ……まっちゃんっ!


「でも、俺は疲れてしまったんだ」


 まっちゃんは最後に俺と目線を合わし、もう一度無理やり微笑んだ。


「少し、少しだけ休みたい……」


 その言葉を最期に、まっちゃんは光となって消えた――――


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