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わずか五分ほどの演説であった。しかし、この演説が世界に与える影響ははかりしれない。隠されている真実から目を背けるな、真実を追い求め続けろ、と全世界の人々に語りかけたのだから。マリアは真っ直ぐにカメラを見つめた後、一礼して画面から消えていった。
「おい、これからいったいどうなるんだ……」
シンと静まり返っていた世界がざわめき始める。俺が放心してしまっているのをよそに、まっちゃんは切り替えが早く、あごに手をあて何か考えている。
「マリアがやったことは俺達がしてきたことと同じじゃないか……?」
まっちゃんの言葉でシコウがはっと気づいたように言う。
「そうだ、俺達がしてきたことと何も変わらない! 俺達はこの世界に違和感を持つ人を”鷹の団”に勧誘し、その人数を増やしてきた。マリアは俺達がやってきたことの規模を大きくして行ったにすぎない……」
「イシスやヤマツカミは世界に違和感を持つ人が増えるのを嫌がっていた。じゃあマリアがこんなことをしてあいつらはいったい……」
俺がヤマツカミについて考えを廻らせていると、まっちゃんが急に立ち上がり左腕に付けられているブレスレッドを見つめながら口を開く。
「どうやら直接聞いた方が早いみたいだぞ。お呼びだ……。場所は……聖堂だ!」
マリアの放送があった直後にあいつらが接触を求めてきた。果たしてこれが意味するのはいったい何なのか。
「ああ、行こう。今度こそ全部あいつらから聞き出してやろう」
俺達は聖堂に向かって走り出す。アルだけは何も言わずにうさじいを脇に抱えて何事か考えたままフラフラと走っていた。
マリアの演説がこの世界に与える影響はなんなのか。俺達が追い求めていた真実は何なのか。このときの俺は真実を知ることができれば全て丸く収まると信じて疑わなかった。
※
「マリア! どうして君もここにいるんだ!?」
俺達が聖堂へとはいると、その奥の高い位置に掲げられている地球のモニュメントを眺めている彼女がいた。
「いえ、放送が終わった後、頭の中で聖堂に来いと指示をうけたので……」
あれだけ大々的に人々に語りかけたんだ。マリアもすでに当事者か……。
「そうか……。でもよく間に合ったな。放送が終わってから時間はほとんど経っていない」
あの放送がどこから行われていたかは分からないが、終わってから数十分しか立っていないはずだ。しかし彼女はサラリと言ってのけた。
「だって、あの放送は録画ですもの」
「…………」
何だか裏切られた気分だ……。確かにあれだけの演説をその場でやれという方が無理のある話かもしれないが……。
「皆さん、お集り頂きありがとうございます」
どこからともなく聖堂の奥、ちょうど地球のモニュメントの下にイシスが現れて俺達に話しかけてきた。その少し後方にはヤマツカミも控えている。
「今日皆さんに集まってもらったのは真実を知ってもらうために他有りません」
ああ、ついに、ついにこのときがきた。まっちゃん、シコウ、アル、も真剣な眼差しでイシスを見つめている。
「あなた達”鷹の団”が百人を超えるのをまって、”指導者”であるマリア様に全世界の人々に向けて演説を行って頂きました。”指導者”がこの世界の人々に向けて演説を行ったことはこれまでの世界にもありました。しかし、”指導者”が世界の終わりに導いたことはこれまで一度もありません……。”指導者”の意思を尊重する根拠として私は”鷹の団”の人数を参考にしたのです。
これからこの世界がどう動いていくのか私とヤマツカミにもわかりません。世界は繰り返されるか、それとも終わるのか。私の役目は世界の終わりが近づいた時にあなた達のようにいち早く違和感に気づき、世界に反逆した方に全てを知ってもらうこと。それが私の存在理由……」
月のような美貌を持つイシスが日の光の元、その体から輝きが滲み出す。彼女の持つ銀髪がまるで自らが発光いているかのように煌めく。誰もが目をみはる、美しい輝き。この輝きは彼らの、彼女らの命の灯りに他ならない。彼女は命をとして、俺達に真実を伝えようとしてくれているのだ。
多少の不快感を伴い、目眩が生じる。
俺の、俺達の忘れていた記憶が徐々にこじ開けられていく――――




