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初めに、神が天と地を創造された。地は形がなく、むなしく、何もなかった。やみが大いなる水の上にあり、ただの神の霊だけが水の上に覆っていた。
神が「光あれ」と言われた。すると光が生まれた。神はその光と闇とを分けられた。神はその光を「昼」と名付け、闇を「夜」と名付けられた。そこから夕と朝もうまれた。世界の初めの第一日目のことである。
次に神は「水と水をわけ、大空となれ」と言われた。すると水を分けて大空をつくられ、これを「天」とされた。世界の初めの第二日目のことである。
第三日目に神は「天の下の水は一つ所に集まり、乾いた地が現れよ」と言われた。神はそのかわいた地を陸と名づけ、水の集まった所を海と名づけられた。地には草や木が生え、種々の実りをつくられた。
第四日目、神は「大空に光があって、昼と夜とを分けよ」と言われた。すると天に太陽と月と星がつくられ、昼と夜を支配した。
第五日目に神は「水は生き物の群れで満ち、鳥は地の上、天の大空を飛べ」と言われた。すると魚や水の中に住む生き物や鳥をつくられた。
第六日目、神は「地は生き物を種類にしたがっていだせ。家畜と、這うものと、地の獣とを種類にしたがっていだせ」と言われた。すると地には様々な獣が神の言葉にしたがってつくられた。
そして神は最後に御自分の形に似せて人をつくられ、これらのものをおさめさせた。神はご自身が造られた全ての種を祝福し、こう言われた。
「産めよ、増えよ、地に満ちよ!」
こうして神は世界を六日間で完成し、七日目にすべての創造を終わって休まれた。これが天地創造の由来である。
神によって最初に造られた最初の男をアダムといった。神はアダムに深い眠りをあたえ彼のあばら骨をとって女を創造した。アダムは彼女をイブと名付けた。神は東の方、エデンに園を造ってアダムとイブを住まわせた。神はアダムに園のどの木からでも実をとって食べることを許されたが、ただ一つ園の真ん中にあるリンゴの木から実を取って食べることだけはお許しにならなかった。
主なる神が造られた生き物のうちでヘビが最も狡猾であった。ヘビはアダムとイブに向かって言った。
「このリンゴの実を食べたなら、あなたがたも神のように知識を得ることができるのです」
アダムとイブはリンゴの実が食べるに良く、目には美しく、賢くなるには好ましいと思われたから、その実を取って食べてしまった――――
※
私はパタンと読んでいた本を閉じる。思わずはあっと溜息がもれてしまった。そしてその本の表紙を一瞥してから、私の前で赤々とした炎が揺れている暖炉の中に投げ入れた。ボッと炎が鳴り、その大きさが一瞬だけ一回り大きくなる。
「これ、エリス……本は大切にしなくてはダメじゃろう……」
私の傍で同じ様に読書をしていたおじいさんが注意してきた。
「私、この本嫌いよ……。だって、結局アダムとイブは知識を得たことで楽園を失ってしまうじゃない……」
「それはそうじゃが……」
押し黙ってしまったおじいさんに向かって私はさらに追い打ちをかける。
「宗教に関する本は嫌い。宗教なんて必要ない。あんなの人の心が弱いから生まれるのよ。それに、別に紙媒体で取っておく必要もないんでしょう? どうせ今までに作られた本は全てデータ化されてるんだから」
「……確かに宗教は人の弱さの象徴なのかもしれない。宗教が多数存在することで争いも起こってきた……。だからわしは宗教に関する本はデータ化することをしなかった……」
「あら、じゃあさっき燃やした本って結構貴重だった?」
私がそう聞くと、おじいさんは重々しく頷いた。
「それは、少し……悪いことをしたわね……」
おじいさんは私が反省したのを見て、これ以上言葉を重ねることをしなかった。
私が目覚めて数年の時が流れた。おじいさんが言うには今年で十五になるらしい。私はやっとこの世界の歪さに気付く。それから少したった頃だった。私がその歪さを理解するのを待っていたように、おじいさんが突然私を呼び出したのは。
参考文献
http://bible.salterrae.net/kougo/html/genesis.html2016年10月時




