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深層世界  作者: NAAA
第四章
50/65

6

「オーディンやクレイオは世界から一時的(・・・)に排除すると言っていたでしょ。それはこういうことだったんだよ。一時的に排除して、その人に問題がなくなったらまたこの世界にもどすって方式だよ」


 アルが呆然としている俺達に向かってまるで解説するかのような口調で言ってくる。俺はそのアルの口調が不自然に思ってしまう。


「……なあ、アル。お前は何か知っているのか?」


 俺が疑うようにそう聞くとアルはのらりくらりと話を逸らしてしまう。


「……いや、僕はただこの状況を冷静に分析しただけだよ。それに……ただ生き返ってるっていうわけじゃないよね。あの人はもっと……」

「ああ、俺達が助けようとした時、あの人の見た目は三十代ほどだった。だけど今は、もっと若い。二十代に見えるな……」


 まっちゃんがアルの話に乗ってきたので、俺はアルにうまくごまかされた形になる。……アルは何か隠しているのではないか。俺は何となくアルの様子をみてそう思っている。しかし頭のいいアルのことだ。きっと俺が考えるよりずっと多くのことを考えているのだろう。そして、何か隠しているにしても今は俺達には伝えるべきではないと判断したのだ。アルがそう判断したのなら俺は深くは追及しないようにしよう。アルは俺達のためを思ってそう判断したはずだから。そう思えるくらいには俺はこいつのことを信用している。


「なあ、まっちゃん。前に俺がケータイに登録している人に連絡を取った時のことを覚えているか? その時、なぜか子供が出たんだ。当時はその人のことは覚えていなかったし、人違いだと思ったけど……。子供が出るのは変だと思ったんだ。もしかしたらその子供は本人で、若返っていただけなのかもしれない……」


 もう何年前になるか分からないが、まっちゃん達と出会ってすぐの時俺はそういう経験をした。


「ああ、その可能性はあるかもな……。俺も記憶が曖昧になる前に会ったことがあると思い出せるのは永志くらいだが、その人の年恰好が変わって思い出せないっていうこともあったのかもしれないな……」


 やはりこの世界は歪だ。そして歪さに気付かずに生活を送っている人々が多すぎる。俺達が“鷹の団”のメンバーを増やすということはその歪さを人々に気付かせる行為と言えるだろう。それが正しいことなのかは分からないが、自分の記憶は自分の物だ。例え思い出したくもない記憶だとしても、俺達はその記憶に向き合わなければならない。そう考えることはきっと正しいことだろう。


「なあ、もし奴らに狙われた人達が例外なく生き返るとしたらシコウの弟ももしかしたら……」


 俺がそのことに思い至り、シコウに目線を向ける。するとシコウは首を横に振りながら俺の言葉を否定した。


「……いや、それはないだろう。前にも話したが俺の弟は光となって消えたんだ。クレイオやオーディンの時と同じようにな……。ただ眠るように死んでいった、いや、俺達が死んだと勘違いしていた人達とは明らかに違うだろう。それに……」


 明らかに他の人とは違うシコウの弟の最期。それが意味するのは本当の死だと、暗にシコウは言っているのだ……。自分の家族の死について冷静に分析するのは辛いだろうな……。俺も時々別れた家族のことを思い出すが、生きていると分かっているだけずっとましだ。


「それに、何だよ?」


 シコウが曖昧なところで言葉を切ったので、俺は続きを促す。するとシコウは何とも言えないような苦笑を浮かべて続きを離す。


「それに……永志もオーディンやクレイオともう一度戦うのは嫌だろう? 俺の弟が生き返るとしたら、あいつらも生き返ることになるからな……」

「…………」


 俺は思わず言葉を詰まらせてしまう。確かにそれは困る……。俺はクレイオとの戦いしか実際には経験していないが、あいつともう一度数年がかりで戦うと思うと鳥肌がたつ。


「シコウの言う通りだね。もう一度あいつらと戦うのなんて僕はごめんだよ! それに人の死っていうのはこの世界では珍しいよね。この世界での死と言えば老衰死のことを言うからね。しかも今回分かったように、奴らに狙われて眠るように死んでいった人達は実際には死んでいなかった。だったら寿命を全うした人も僕達気が付かないだけで、もう一度生き返ってるいるかもって思わない? 若返った姿になってね。この世界には老衰死すら存在しないってことだ」


 アルがなるほどーとフムフム頷きながらで呟いている。


「以前オーディンが言っていた世界が繰り返されるっていう意味はこのことを言っているのかもしれないね」


 そう言ってアルはニコリと俺達に笑いかける。こいつはなぜこんなにすんなり受け入れられるんだ? 俺は平静を装っているが、驚きと新たに増えた謎によって頭が割れそうだ。アル特有の楽観的思考の賜物か、あるいは何かを知っているか……。

 まあ、聞いたところでどうせはぐらかされるだけだろう。結局のところ、アルはアルらしく不思議少年してればいい。多分こいつは天才と呼ばれるもののたぐいだ。常人である俺が頭を悩ませてもしょうがない。


「たとえそうだとしても俺達がしていくことは変わらない。真実を知るためにイシスが言っていたように、“鷹の団”が百人を超えるまで狙われた人々を助けていくだけだ。そしてこの世界歪さを伝えるんだ」

「ああ、そうだな……」


 まっちゃんの言う通りだ。結局俺達がやるべきこととできることは限られている。できることを精一杯やって、前に進んでいくしかないんだ。近道はない。


 “鷹の団”のメンバーの献身的な活動もあって、確実にその人数は増えていった。


 ――――そして、ついにその時が訪れる。



 ※



「ねえ、君は自分の記憶が曖昧だと思ったことはないかい?」


 長い長い時を経て


「あ、ある! 僕にはお姉ちゃんがいたはずなんだけど……」


 俺達はついにここまできた。


「そう、なぜか俺達の記憶は曖昧なことが多いんだ……。そしてもし、君がその曖昧な記憶を取り戻したいと願うなら……」


 俺が……俺達が求めた真実は、もう手の届くところまで来ている。


「“鷹の団”に入らないか?」


 まるでヒーローを見るかのように少年は目を輝かせて、俺達に向かって言った。


「うん! 僕も……僕も自分の記憶を取り戻したい! “鷹の団”に入ることで記憶を取り戻すことができるなら、僕はお兄ちゃん達に着いて行くよ!」

「そうすることで君は世界から忘れ去られてしまうとしても? “鷹の団”に入れば、君は周りの人から忘れられてしまう。それに年もとらない体になってしまうんだ」


 俺の言葉を聞いても少年の瞳に宿る強い光は消えなかった。


「そんなの関係ない! 僕は“鷹の団”に入るよ!」

「ありがとう……」


 自然と表情が和らぎ、安堵と共に小さく溜息をつく。俺は少年に手を伸ばす。それは共に歩む仲間と認めた印。


「君が記念すべき、“鷹の団”百人目のメンバーだ」


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