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深層世界  作者: NAAA
第四章
49/65

5

 

 仲間を集めるという決断をしてから五年ほどで“鷹の団”には二十人近くの人が集まっていた。マリアから貰ったこの“鷹の団”という名前で俺達はイシスから狙われる人を助け、その人が望むなら“鷹の団”のメンバーとして迎え入れる。しばらく仲間を集めていくうちに、ある法則があることに俺達は気付いた。


 俺達の話を聞くだけではどうやら世界から忘れられるということはないらしい、ということだ。その人自身によって“鷹の団”に入ると決めた時、つまりこの世界に立ち向かうと決めたその瞬間から世界から忘れられるようだ。この法則の唯一の例外はマリアだ。彼女は俺達に着いて行きたいという風なことを言っていた。しかし、彼女は世界から忘れられずにいる。もし彼女も法則通り世界から忘れられてしまったなら俺達の仲間として今も一緒に行動していたかもしれない。そんな「もし」を考えても意味がないことだが、俺はついにそんな風に思ってしまう。


 俺達の予想外のことも起こっていた。それは“鷹の団”という存在が街で噂されるようになったことだ。俺達は仲間のうちだけで自分達を示す呼称として“鷹の団”という名前を使おうと考えていた。しかし世界から自分の存在が忘れられたとしても“鷹の団”という存在は忘れられることはないらしい。噂では「悪い奴から人々を救う正義の味方」だの「美女を追い掛け回す変人集団」だの様々だ。そのどれもが微妙に的を得ていて面白かった。


 “鷹の団”の規模が大きくなっていくにつれて活気がでてきた。それに反比例するようにイシスの顔は曇っていったが。

 クレイオが倒されたと同時にヘラクレスと呼ばれていた隻眼の男と白い装束をきた老人の姿をした奴らの仲間もいなくなっていた。あの二人は特に俺達が何かをした訳ではないのに姿を消した。奴らを一人一人倒していけばいいと思っていたが正確には違うようだ。倒すために必要な条件のようなものが一人一人にあるのかもしれない。ヘラクレスと白い装束をきた老人は意図せずその条件をクリアした? 断言することはできないが、俺はそう考えている。そしてヘラクレスが消える条件に関わっていたのがマリアだったのではないだろうか。白い装束をきた老人については分からないが……。


 しかし、クレイオを倒してから、特に何かを掴めたということもない。クレイオを倒した時に発生した光をみた時、俺は確かに自分の記憶を取り戻した。あのような現象がおこる気配は今のところ全くない。イシスの反応を見るに確実に前には進めていると思うのだが……。

 以前ヤマツカミがイシスと共に現れた時に直接聞いてみたことがある。


「おい! 俺達の記憶はどうやったら取り戻せるんだ! お前らが意図的に隠しているのか!? だったら……だったら俺達にその記憶を返せ! そんな権利はお前達にはないはずだ!」


 ヤマツカミは苦笑いしながら答えた。


「ずいぶんひどい事を言ってくれるね……。その言葉はこの世界の存在理由、存在してきた意味、さらには僕達がいる意味を否定する言葉だ。今回の世界は今までになく終わりが見えているんだよ。この段階に到達するのだって本当はもっと時間がかかる予定だったんだ。君達の手によって加速されてしまったけどね……。だから、まだ君達に全てを教えることはできない」


 ヤマツカミに続いて、イシスも悲し気に表情を歪ませながら、口を開く。


「ヤマツカミの言うように、今はまだその時ではないのです……。そうですね……もし、あなた達“鷹の団”の人数が百人を超える時がきたら、あなた達四人には全てを知ってもらうかもしれません……」

「……“鷹の団”の規模が関係しているのか? 戦う時人数が多い方がお前らも嫌だってことか……」


 ヤマツカミに向かって銃を構えながら俺がそう言うと、ヤマツカミはわざとらしく怒ったような表情をする。


「だからそういう危ない物を僕達に向けないでよ! 僕達も君と同じで攻撃されれば怖いって思うんだ。そう……君達と僕達では何も変わらない……。それに、前にも言ったけどそんな物では僕達を倒せないよ」

「お前らは銃で撃っても、剣で攻撃しても傷を負わない……。かと思ったら突然攻撃が効いているように光が溢れ出す……。お前らはどうやったら倒せるんだ? お前らはいったい何者なんだ?」


 何度この問いを聞いただろうか。今までは答える前に奴らは姿を消してしまっていた。しかしこの時のヤマツカミは無表情で俺の問いに答えた。


「僕達は人々から求められているから今ここにいる。僕達は、民意が具現化(・・・・・・)した存在だ」


 その言葉を残してイシスとヤマツカミは消えた。


 ※


 それから俺達はイシスとヤマツカミが言うように“鷹の団”のメンバーを増やすことに集中した。増えていくメンバーの中で最古参であるまっちゃん、シコウ、アル、俺は各々が指示を出す立場になっていた。“鷹の団”のメンバーになった人達は全員俺達と同じ様に身体能力があがり、年をとることもなくなった。一々“鷹の団”全員で移動するのも馬鹿らしいほどまでメンバーが集まると、各エリアに数人ずつ“鷹の団”を配置するようにした。まっちゃんのブレスレッドに反応があった時にはそのエリアのメンバーに連絡を取り、対処してもらう。


 俺やまっちゃん、シコウはなるべくその現場に行くようにはしていた。アルはというと“鷹の団”が全体としてどのように動くべきかということを考えてあまり大きな移動をせず一つの所に留まることが多くなった。“鷹の団”のリーダはまっちゃんであると誰もが認識していたものの、実際にそれを取り仕切っているのはアルと言える。本人はあまり気が乗らなそうだったが、その手腕は“鷹の団”の規模が大きくなるほどに必要となっていった。


 “鷹の団”が集団として機能し始め、さらに世界で俺達を認識する人が多くなっていった。そんな時、また、俺達は新たな謎に直面する。


「まっちゃん……あの人を覚えているか? あの人は……」

「ああ……覚えている……。以前俺達がクレイオと戦っていた時に助けようとした……」


 俺とまっちゃんの会話を訝し気に聞いていたシコウとアルもまっちゃんの言葉を聞いて、はっと何かに思いあたったように息を飲む。


「そうだ! 俺達はあの人を救えなかったはずだ!」


 シコウが思わず叫んだ。まっちゃんがその言葉に重々しく頷く。


「そうだ、俺達は確かにあの人がイシスの手に触れられて眠るように死んだ瞬間を見た」

「ああ、そういうことね……。実際に見て、やっとうさじいが言ってることを理解したよ……」


 アルがなぜか納得したように頷きながらボソボソと呟いていた。


「じゃあ、なんで……」


 シコウが絞り出すように声をだす。


「なんで、生き返っているんだ?」


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