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深層世界  作者: NAAA
第四章
47/65

3

 君は言った「もっと誰かの力を頼れ」と。確かに四人だけでこの世界に対してできることはないに等しい。この世界、つまり9つのエリアによって正方形の形をしている世界だ。でも俺達は気付いてしまった。俺達にとっての本当の世界は地球だということに。じゃあ、この世界は何だ? 気付くと何とも不自然に思えるこの正方形の世界。 俺達はいつから、地球ではなくこの世界にいる? 思い出せない……。この問題を解決するためには俺達の力だけでは足りない。そう感じるのに時間はかからなかった。


 俺達が”鷹の団”としての人数を増やそうと思ったきっかけはヤマツカミの言葉だった。


「何か手詰まりって感じだねー。ヒントはもうあげたくないんだけど……。僕らにとって一番嫌なのは君達みたいにこの世界に反逆しようとする人が増えるってことかな。それだけ言っておくよ。じゃあまたねー!」


 何をしにきたのかは定かではないが、ごく稀にヤマツカミもイシスと一緒に現れることがある。その時もイシスの手から狙われた人を助けることができたのだが、それでも冴えない顔をしている俺達を見てヤマツカミはこう言ったのだ。 


 クレイオを倒してから二年ほどがたった時、イシスと定期的に戦うことももはや習慣化されていて、何の進展もなかった。実際この時の俺達はイシスの手から人々を守ることができても、全く真実に近づけている気がしなかった。そもそも俺達はなぜ奴らが人々を狙うのか、狙われる人の共通点。そういったものを知る手段がない。人々を助けてそれで終わり。俺達と関わると世界から忘れられてしまう可能性があるから、なるべく人と関わらないようにしていた。マリアに時もそうだ。彼女をこちら側に引き込んではいけない。その思いから自分の思いを押し殺して彼女を遠ざけることを選択した。


 でも、それだけではダメだ。彼女はあの時すでに俺達がいずれ行き詰ってしまうことに気付いていたのだろうか? そもそも俺達に狙われた人々を気遣っている余裕なんてなかったのかもしれない。そんなことを今更理解した俺達は狙われた人達に積極的に話を聞いてみることにした。幸いというべきか、話を聞いている段階ではその人自身が世界から忘れ去られるということはなかった。しかし、俺達が行動を起こした結果、分かったことがある。


「……全員だ。全員もれなくある共通点はもうこれしか思い付かない。なあ、これって……」


俺の考えをを聞き、まっちゃんも頷く。


「ああ、間違いないだろう……」


 奴らが今までに狙っていた人達もきっとそうだったであろう、共通点とは


「……この世界に対して何かしらの違和感を持っていること?」



「奴らはこの世界に違和感を持っている人を狙っている。そう考えればヤマツカミが言った俺達と同じ様な人が増えることが一番困ることだ、という発言ともあうだろう。俺達が狙われた人を助ければ、世界に違和感を持つ人が増える。真実を隠す奴らはそれを嫌がり、なぜか弱くなっていき、俺達でも倒すことができるようになる。奴らを一人ずつ倒していくことで俺達は失われていた記憶を思い出せるようになる……」


 まっちゃんが顎に手をやりながら冷静に分析していく。それを聞いたシコウがどこかほっとしたように口を開いた。


「俺達がやってきたことは正しかったことってことか……」

「いや、それだけではダメだったんだ。助けるだけでは奴らの言う俺達と同じ様な人が増えるとは言えない……」


 俺はシコウの言葉をすぐさま否定する。狙われた人を助けるだけでは俺達と同じということにはならない。俺達と本当の意味で同じとは言えない。


「俺達と同じにする……それは俺達のように世界から忘れられた仲間を増やしていくっていくこじゃないのか?」


 俺がそう言うと誰もが口をつぐみ、考え込んだ。


「ああ、そういうことだろう……俺達はもっと仲間を増やす必要がある……」


 まっちゃんも考えた末、俺と同じ結論に至ったようだ。


「じゃあ次にイシスが狙う人からは積極的に勧誘していくんだ。 もし俺達と同じ様に世界から忘れられると知って嫌がるようなら、これまで通り普通の生活に戻ってもらう。 でも、この世界から生じる違和感、自分の失われた記憶を取り戻す意思がある人達は、俺達の仲間に加えよう」

「分かった。話をする程度ならいきなり世界から忘れられるということもないようだからな。あくま自分の意志で俺達に着いて来たいという人は仲間に入れよう」


 まっちゃんがそう言ってこれからの方針が決まったかに思えた。普段なら俺達のリーダのような存在であるまっちゃんが最終決定をしたら、それに反論する声はでない。しかし、この時は違った。


「ねえ、それで本当にそれでいいのかな?」


 アルだ。アルがいつもののらりくらりとした表情を消し、真剣な顔でそう言ってきた。


「どういうことだよ? それ以外に方法があるっていうのか?」


 俺がアルの言わんとすることが分からず聞き返す。するとアルは首を横に振りながら少し寂しそうに言った。


「違う。方法としては間違ってない。僕達は仲間を増やすことで真実に近づけるだろう。でも、この世界から生じる違和感、自分が忘れている記憶を知ることが本当にその人にとって幸せと言える? 例えばシコウの奥さんがもう亡くなっていたっていう記憶はずっと忘れられていられたらその方が幸せだと言えるんじゃない? この世界から生じる違和感の正体についても同じことが言えると思う」

「それは……」


 俺は言葉に詰まってしまう。アルの言うことはもっともだ。でも、だったら俺達は真実を追うことを諦めなければいけなくなる……


「アル」


 俺が押し黙ってしまったのを見てまっちゃんが厳しい声でアルを呼んだ。


「自分の記憶が勝手に消されているのを黙って見過ごす訳にはいかない。自分の記憶は他の誰でもなく自分の物だ。それを追い求める権利が俺達にはある」


 まっちゃんは今だに思い出せない家族を思ってそんなことを言ったのかもしれない。アルはその気迫に押され、小さく溜息をついた。


「まっさんの言う通りだ。今のはなかったことにしてよ……」


 アルはクレイオを倒してからあまり狙われる人々を助けることに消極的になったように思う。俺達がどういう作戦でいくべきかを悩んでいる時は今まで通りアドバイスをくれたが。そして暇なときはこれまでにもまして何処かへフラフラと出かけていくことが多くなった。

 そういえばこの頃だった。アルがいつものように何処かへ出かけて行ったんだ。どうせまたギャンブルでもしにいったのかと思っていたのだが……。


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