2
「来たぞ! まっちゃん!」
「分かってる! 今回は誰だ!?」
「あの子だ!」
俺が指さす方向には14歳くらいの少年がいた。まっちゃんはその少年に向かって既に走り出しながら指示を出す。
「俺が行く! 永志! シコウ! 時間稼ぎを!」
「「了解!!」」
まっちゃんを上回るスピードで少年に向かって行く影がある。イシスだ。クレイオを倒した後、イシスは一人で現れて世界の人々を狙っている。
「シコウ! 援護する! 突っ込め!」
「ああ!」
俺がをそう言うとシコウはイシスに向かって走りだす。その後ろから俺は銃を構えて発砲する。
プシュッ、プシュッ、プシュッ
三発連続で放たれた弾はシコウより僅かに速くイシスへと到達する。その全てをイシスは避けてしまうが……これで充分だ。
「シュッ!」
シコウが鋭く息を吐きだし、イシスに回し蹴りを放つ。俺が放った弾で少年へと向かうルートが制限されたせいで、イシスはシコウの回し蹴りを後ろに跳んで回避する他ない。これでとりあえずは足止めすることには成功した。シコウはさらにイシスを追撃し、蹴りやパンチを放っていく。イシスはそれを避けるだけで、反撃してはこない。いつかヤマツカミが言っていた、イシスに攻撃する能力がないというのは本当らしい。
しかし、イシスはシコウの攻撃を一つもくらうことなく、シコウがもう一度放った回し蹴りをするりと避けて突破してきた。
「おりゃあ!」
シコウが突破されるのを見て、俺が剣をイシスに振り下ろす。まっちゃんの剣より少し短く、片手でもギリギリ扱える長さ。俺はこの剣を実践レベルまで扱えるようになっていた。まっちゃんが持つずば抜けた剣の才能、シコウが持つ格闘技術、アルが持つ状況把握能力、そのどれも持ち合わせていない俺が選択したのは「全て平均以上」と言えるまで極めることだった。銃も、剣も、頭も、全て使って戦う。
剣を振り回し、イシスを牽制する。彼女は僅かに顔をゆがませてそれを避けているが、グッと足に力を籠めると俺の脇をもの凄いスピードで通りすぎていってしまう。クソッ! まっちゃんなら後数秒粘れたはずだ……。でもこれだけ時間を稼げれば……
「イシス! 今回も俺達の勝ちだ!」
背後からまっちゃんの勝ち誇った声が聞こえてくる。少年の肩にまっちゃんの手が置かれているのを見て、イシスは少し悲しそうな顔をする。
「残念です……では、また……」
そう言うと彼女は一瞬にして姿を消してしまった。それを見て助けられた少年が声も出せずに驚いている。うんうん、分かるよ、その気持ち。
イシスに戦闘する意志がない以上、俺達とイシスのどちらが速く狙われてる人の元に辿りけるかが問題となる。そうなると多勢に無勢。俺達が救える確率がグッと跳ね上がっていた。
「大丈夫か?」
「う、うん……」
シコウが少年に向かって声をかけると、少しは落ち着いたのか少年は震える声で返事をした。
「ねえ、君は自分の記憶が曖昧だと思ったことはないかい?」
俺が何の脈絡もなく少年に語りかける。しかし少年ははっとして俺の方を見てしっかりとした声で答えてくれた。
「あ、ある! 僕にはお姉ちゃんがいたはずなんだけど……」
その言葉を聞いて俺はニコリと少年に笑いかける。
「そう、なぜか俺達の記憶は曖昧なことが多いんだ……。そしてもし、君がその曖昧な記憶を取り戻したいと願うなら……」
まっちゃんとシコウもじっと少年の様子を見ている。はたしてこの行為は正しいことなのか。この先に待ち受けることは何なのか。それは辿り着いてみないと分からない。俺達はこの道を進むだけだ。少年はゴクリと唾を飲み込み、俺の言葉の続きを待っていた。
「“鷹の団”に入らないか?」




